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裏通りのお掃除屋さん、今日も死体のおかたづけ  作者: ニー太
第二章 恨みを買わずに生きることは出来るのか?
8/11

7 トラブルメイカーとトラブル対処係

 今日も仕事だ。そして今日は俺とりえと檜原姉妹と組んでの四人がかりの仕事だ。


 恐怖の大王後援会では、通常は二人から五人ほどのチームで仕事をする。運び屋も含めればさらに増える。運び屋は組織内の者を使う事もあれば、外部の者を雇うこともある。


「またドンパチありますかねー?」

「多分、今回ドンパチは無いだろう。ただの人手不足で俺達も駆り出されただけだ。この組織は忙しいんだよ。一日に四件以上の仕事が入ることもある」


 現場に向かいながら、俺がりえに解説する。


「それは鴉山さん以外の構成員でしょ。鴉山さんはそこまできゅうきゅうに仕事入らないじゃないですか」


 檜原真菜子が微笑みながら指摘した。ま、それはそうだな。俺は他の構成員に任せられない厄介な仕事の担当が多いから。


「それでも、こうして穴埋めにも参加させられることもあるんだ」


 肩をすくめる俺。


 今日の仕事は抗争後の死体処理ではない。イベントに用いた会場の後始末だ。死体処理より時間がかかるかもな。場所はホテルの会議室。このホテルそのものも裏通りの組織が所有するものだが、自分達でお片付けは面倒で、うちらに仕事依頼だ。


 会議室の中はひどい有様だった。割れた酒瓶、グラス、注射器、染み痕、ああ、ここで何していたかは大体想像がつく。違法ドラッグも使っていそうだが、そこまで調べて告発する気にもならない。散らかっているのは会議室だけではなく、会議室の準備室の方もだ。部屋二つ分のお片付けだな。


「檜原さんっ、えっとお姉さんの方っ、そこは私がモップかけましたよ。私のやり方が不味いっていうんですかっ」


 俺が準備室の方で片付けをしていると、会議室の方から、りえの刺々しい声が響いた。

 早速他の構成員と衝突するとか、どうなってんだよ、あいつは……


「そういうわけではないけど、モップがけは分担しているといっても、全てチェックしているわけではないし、多少はかぶるわよ。ちょっとかぶった程度で、そんな風にいちいち悪く意識しないでほしいかな。それに、貴女のやり方が悪いわけでもないわ。悪いなら悪いで、はっきり言うから」

「そ、そうですか。すみません……」


 俺が会議室の方へ行くと、真菜子が柔和な笑みをたたえて諭していた。噛みついていたりえは素直に謝った。うーん……ちゃんと非を認められるのは、こいつの美点かもしれない。


「随分と元気な新人さんですね」


 真菜子が俺の方を向いて笑う。


「すまん、俺の管理不足だ」


 頭を掻きながら謝罪する俺。教育不足と言ってもいいか。


「鴉山さんと組んでまだ二日目でしょ? 鴉山さんだけの責任にするのも酷ですよね」

「それ、どういう意味? 私が問題児で手に負えないとか、そういう意味?」


 真菜子の台詞を聞いて、また噛みつくりえ。


「へえ? それくらい理解できる程度には、頭が働くのね」


 真菜子もいい加減頭にきたようで、嫌味を口にする。


「ちょっと……お姉ちゃん……」

「真菜子も挑発すんなって」


 華子と俺が真菜子をたしなめる。


 りえはマジで性格的に難があるなあ。つかね、こんな風に協調性無くて自己主張強い奴なんて、どこにいっても鼻つまみ者だぞ。俺はこんな奴の矯正しなくちゃなんねーのかよ。


 その後また俺は準備室の方へと引っ込み、一人黙々と作業を続ける。


 しばらくして、りえが準備室に入ってきた。青い顔で。


「どうした?」


 ただごとではないと見て、声をかける。


「また私が先走って何か言うと問題かと思い、鴉山さんに先に報告しにきました」


 りえはぞっとした顔つきで前置きを置いた。何があったんだ?


「あの姉妹――会議室の外に出て……今トイレなんですけど、姉の真菜子さんが妹の華子さんのこと……虐待しているような……。真菜子さんが華子さんの首根っこ掴んで、すごい顔で睨んで……」

「放っておけ」


 りえの報告を一蹴する俺。


「放っておけ……って、どういうことです? そんなこと放っておけるわけないでしょっ」


 顔色を変えて抗議するりえ。ただの我が強い問題児かと思ったら、正義感も強いのか。これは好感を抱けるポイントと取るべきか、それともさらに面倒くさい奴と見るべきか。


「あれな、組織内でもわりと知られていることさ。あの姉妹は複雑なんだよ。物事の上辺だけ見て判断しないことだ。ま、虐待には違いねーけど、干渉しないでおけ。SMみてーなもんだ。華子も真菜子に虐げられることを悦んでいるし、望んでいる。あいつらはあれで上手くいっている。いや、うまく機能しようと、二人して頑張っている結果が、あれなんだ。まあ最初見た奴は、あの姉妹の関係にはびっくりするだろうし、度し難いと感じるだろうけどな。そういう歪な絆もあるんだよ」

「わけわかんないけど……わかったことにします。それで私がまた余計なことしたって、そういう構図になっちゃうだろうし、鴉山さんの方が付き合いも長いんでしょうから……」


 俺の話を聞いて、りえは釈然としない顔で引き下がった。


 その後、仕事を終え、四人でホテルを出たその時だった。

 複数の殺気を感じた。殺意は――こちらに向けられている」


「おじさん、気を付けて。囲まれてる」


 カイが注意を促す。

 わかってるよ――と、口の中で呟き、コンセントを服用する。


 華子と真菜子がすぐさまホテルの中に逆戻りする。


 銃声が複数響いた。


 俺は通りを移動しながら、敵の位置を探っていた。全てはわからなかったが、わかった分だけ、銃弾をお返ししてやる。

 撃ち返したのは四発だが、仕留めたと確認できたのは一人だけだ。木陰から一人の女が倒れ、そのまま動かなくなっている。


「今回はドンパチは無いって言ってましたよねっ?」


 銃弾を避け続けながら、りえが俺に向かって声をあげる。


「多分って言っただろ……」


 実は心当たりが無いわけでもない。俺個人は、恨みを買っていてもおかしくない。そう、先日の人身売買組織『肉塊の尊厳』に対する告発のせいで。

 しかし、恨まれるのはともかく、復讐される可能性は低いと思っていたがな。肉塊の尊厳と恐怖の大王後援会では、組織の規模が違う。ジャッカルがハイエナに襲いかかるようなものだ。

 ただ、組織の規模はうちらが上でも、うちらはドンパチする性質にない組織だから、戦闘力は微妙なんだよなあ。


 檜原姉妹はホテルの塀をカバーして、銃を撃って応戦している。

 銃撃戦が発生しているので、表通りの住人は素早く避難している。あるいは近づかない。安楽市内では頻繁に抗争が発生しているので、カタギの連中も対処の仕方を心得ている。


 襲撃者達の何人かを撃退した後、通りを堂々と歩いてくる者がいた。俺はそいつを見て目を剥いた。

 全身茶色のボディースーツに身を包み、右手には日本刀、左手にはマシンピストルを携えた男。茶色いボディースーツは頭頂部まですっぽり覆っているので、その顔はどうなっているのかわからない。


「ヒッキーブラウン……」


 俺はその珍妙な格好の男の名を口にした。因縁の相手だ。かつて俺を狙った殺し屋だ。その時、俺は歯が立たず、自衛のために純子の元で改造したんだ。


「へー、じゃあこの人がいなかったら、俺とおじさんが巡り合うこともなかったわけだ。感謝しないとね」


 俺の頭の中を読んだカイが、ヒッキーブラウンを見て言う。ああ……そしてアリサの正体と裏切りにも気づかず、俺がアリサを殺すこともなかっただろうな。


「半身不随になって、裏通りから足を洗ったと聞いてたぜ」


 俺の方からヒッキーブラウンに声をかける。


「僕みたいなはずれだらけの男にも、奇跡が起こったのさ」


 ヒッキーブラウンが自虐的な口調で言う。相変わらずだな、こいつ。昔と変わっていなさそうだ。


「復讐しにきたのか?」

「まさかね。そんな気持ちは僕にはない。これは仕事だよ。気が進まないけどさ」


 問う俺に、ヒッキーブラウンは本当に気乗りしない口調で答える。

 気が進まない――か。その理由はわかるが、こいつにもそんな心があったわけか。意外だ。


「復帰してすぐの仕事が、まさか僕を斃した鴉山さんだってことには驚いた。凄い運命を感じた」


 そこまで喋ると、ヒッキーブラウンが俺の方に銃口を向けた。


 マシンピストルから弾丸が掃射される。あっという間に撃ち尽くしてすぐに空になるとはいえ、中々厄介な得物だ。裏通りでは、拳銃はともかく、機関銃や小銃の類はあまりお目にかからない。拳銃とはいえ、マシンピストルも珍しい。その手の銃は、余計な被害者を出す可能性が高いので、中枢によって抑制されている。


「頼む……力を貸してくれ」


 俺が周囲の低級霊達に呼び掛ける。


 その間に、りえがヒッキーブラウンの方に駆け出していた。


「気をつけろ! 手強いぞっ」


 俺がりえに向かって叫びながら、ヒッキーブラウンに対して銃を撃つ。それと同時に、低級霊達もヒッキーブラウンに向かって飛行する。


 ヒッキーブラウンには霊が見えない。かつて俺がこいつと戦った際は、霊の力を借りたことで、一方的に蹂躙する格好で勝利できた。まあ、改造前に襲われた際は、逆に殺されかけたんだが……


 しかし今回は、そうはいかなかった。


 聞き覚えのある音色が周囲に響く。霊達の動きが止まった。いや、止まっただけに過ぎず、霧散していく。祓われて、成仏してしまった。

 音色の正体はアコーディオンだ。ペデストリアンデッキの上で散々聞いた曲だ。


「ルピピのお父さんはね、とっても嘘吐きなの。我が子のルピピにも嘘ばっかり。自分に対しても嘘ばっかり、調子のいいことばかり言うけど、約束は何一つ守らない。だからルピピも呆れて、お父さんの言うことは、何一つ信じなくなっちゃったの。奥さんにも逃げられちゃったし、ルピピのお姉さんも出ていったまま戻ってこないの」


 聞き覚えのある高い声。赤、黄色、オレンジの三色パイナップルヘアー。そして手にしたアコーディオン。


「それでもルピピだけは――例えお父さんを信じなくても、見捨てることはなかったの。でもそんなルピピに対して、お父さんは相変わらず嘘ばかり吐いていたの。ルピピのお父さんには何の悪気も無いのよ。根っからの虚言癖の持ち主だから、どうしようもなかったのよ。息を吸って吐くように嘘を吐く、とてもおぞましい人間だったの。ルピピもお父さんをおぞましいと思ってたけど、それでも無邪気なお父さんが好きだったのよ」


 銃声が鳴り続けている中だというのに、アコーディオンが奏でられている中だというのに、その婆――アコーディオン婆さんの台詞は、はっきりと俺の耳に届いていた。そして何故か俺の心を突き刺した。

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