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裏通りのお掃除屋さん、今日も死体のおかたづけ  作者: ニー太
第二章 恨みを買わずに生きることは出来るのか?
6/14

5 見え透いた感動ポルノで泣く漢

「『コンセント』飲んどけ」

「はい」


 俺がりえにコンセントの服用を促し、俺自身も袖の下から錠剤を一つ取り出し、口の中に放り込む。

 コンセントは裏通りの住人が戦闘前に服用する薬品だ。集中力や反射神経や動体視力を極限まで高めてくれる。一昨日はカプセルタイプだったが、今日は錠剤タイプだ。違いは――あまり無いと思われる。


 程なくして、髪型も服装もダサい集団が現れた。言うまでもない。連絡を受けた中華マフィアの援軍だ。


「車を出せっ! ここは俺が受け持つ!」


 俺が叫ぶと、組織の運び屋が即座に発車した。


 その光景を見て、援軍のマフィア共が一斉に銃を抜く。

 報告を受けたお仲間が、俺達がお暇する前にやってきたのは運が悪かったものの、死体を全部積み込み終えたのは、不幸中の幸いだった。


 しかしまあ、この展開が予期される危険な仕事だからこそ、岳都はこの依頼を俺に任せたわけで。


 銃撃戦が始まる。俺は建物の物陰をカバーして銃を撃つ。


 ところがりえは、銃を抜くことなく物陰から飛び出していった。その行動に一瞬度肝を抜かれた俺だが、りえの動きを見て、その行動の意味を理解した。

 無数の銃弾が飛び交う空間を、りえは弾と弾の間を正確に縫って駆け抜ける。個人の技量にも依るが、コンセントの力を借りれば、これくらいなら不可能でもない。

 だがりえの動きは、明らかに人間離れした代物だった。速度からして人のそれとは違う。まるで獣だ。こいつは超常の力を有しているか、あるいは肉体改造がされているかなのだろう。特殊な薬品の投与というケースも考えられるが。


 襲撃者の一人の近くまで迫ったりえが、腕を払う。敵の一人の胴体が、輪切りに切り裂かされる。そいつのいた後方に、巨大な爪で引き裂いたかのような斬撃痕が、壁に刻まれている。

 今の攻撃――肉体改造による代物ではなく、超常の力の作用っぽいな。触れてねーのに、りえが腕を振る仕草に合わせて斬撃が走って、相手の体を切り裂いたからな。『孫の手』と呼ばれる念動力の一種だ。


 俺と組ませて仕事させるだけあって、戦闘力も卓越しているが、危なっかしい戦い方だ。敵の数も多いってのに。自分の力を過信しすぎっつーか、戦いに酔っているかのようだ。


「来てくれ……」


 俺が声に出して呼びかける。


 周囲にいた動物霊や物質霊が、俺の呼びかけに答えて集まる。


「力を貸してくれ」


 俺が霊達に手を掲げる。高密度に凝縮されたエーテル体が、掌の上に集中している。

 全ての霊が呼応してくれたわけではないが、三体の動物霊が俺の頼みを聞いてくれた。それらの霊に俺から力が注ぎ込まれ、物質への干渉が可能となる。


 三体の動物霊達が襲撃者へと向かっていく。霊達は襲撃者達が手にする銃に狙いを定め、前足で叩き、体当たりをして叩き落す。一体は銃を咥えてもぎ取った。

 急に獲物を失って戸惑う襲撃者達。三人分の銃撃が無くなったことで、大分ぬるくなる。


 銃を落としたうちの一人が、わざわざ銃を取りに飛び出してきた。馬鹿が。俺はそいつの頭を狙い撃ちにしてやる。


 俺の前にはカイがいる。俺に向けて飛来する銃弾を受け止めてくれる役割だ。俺が当たりそうになった弾だけ器用に見極めて、防いでくれる大した奴だ。しかし今回は必要ないかもな。


「油断大敵。必要無いかもしれないけど、俺は気を抜かないよ。もしもってことがあるし、そのもしもでおじさんが死んだら嫌だからね」


 カイが言った。ごもっともだ。


 俺はさらに銃を撃ち、一人始末する。


 一方、りえは敵に接近して、超常の力による斬撃を繰り返し、次から次へと襲撃者の数を減らしている。


 りえが積極的に戦っている様を見て、俺は歪なものを感じた。

 りえの口元に、歪んだ微笑が浮かんでいる。目はガン開きだ。戦いを楽しんでいる? すげえ嬉しそうなオーラを出しながら、敵を殺している。同時に強い怒りのようなものが見受けられる。いや、怒りをぶつけてそれを楽しんでいるとでもいうか。いずれにしてもこいつ、ヤバい奴じゃねーか。


 やがて襲撃者は残らず死体となった。こいつらの始末も……うちらの仕事だよな。やれやれすぎるぞ。


「あらあら、お祭りの音色が聞こえたからやってきたら、私が来た頃にはちょうどお開き?」


 戦闘が終わった所で、アコーディオン婆さんがやってきて、笑顔で声をかけてきた。


「祭りの片付けの手伝いしてくれるなら嬉しいぜ」

「あははは、それは遠慮しておくわねー。だって、せっかくのお洋服が汚れちゃうもの。モキョエルさんも気が乗らないって言ってるし。モキョエルさんは気の弱い天使だから、こんな殺伐とした場所にいたくないのよー。それじゃ、また~」


 俺が声をかけると、アコーディオン婆さんは笑いながら立ち去った。


「おい、あれは一体どういうことだ? 前に出すぎだぞ。」


 りえを問い詰める俺。


「あっ、言うの忘れてました。私って、戦闘になるとついテンション爆上がりしちゃうんですよねえ。日頃の鬱憤というか、過去から積もり積もった恨みだの怒りだの、全部叩きつけるカタルシスを味わっちゃう感じで」


 気恥ずかしそうに答えるりえ。


「危なっかしい奴だ。雑魚相手ならそれでもいいが、敵の数がもっと多かったり、手強い奴が相手だったりしたら、どーすんだ? 今のバーサーカーモードで戦う気か?」

「バーサーカーはひどいですよ」

「戦闘中はちゃんと自分をコントロールしろって話だ。そんなんで今までよく生きてこれたな」

「わかりました。御忠告感謝です」


 むっとした顔で、ひどく硬質な声を発するりえ。うん、あまり反省してなさそうだ。そして反抗的。


 アリサとは大分違うな。あるいはアリサも若い頃は? いや……あいつと比べるのはよそう。


***


 仕事を終え、りえと別れた俺は、買い物してから帰宅した。


 夜、俺は映画を観る。


「またおじさん泣いてる」


 映画のラストシーンで、とめどなく涙を流している俺を見て、カイが呆れ声を発する。


 子供の頃、俺は泣き虫といじめられていた。今もまた涙もろくなって、感動ものの映画とかで、すぐに泣いちまう。


「こんな見え透いた感動ポルノで泣くなんてさ」

「お前それ以上言うな。人が浸ってる所でよ」


 涙をぬぐいながら抗議の声をあげる俺。


「おじさんはやっぱピュアすぎるのかなあ。ウェットというか、おセンチというか、おじさんなのにおじさんぽくないというか」

「ちげーよ。歳取ると色々経験して、あれこれわかってくるから、それで涙脆くなるんだ」

「残念、それも違うよ。歳取って涙もろくなるのは、脳の機能の問題。歳を取ると感情のブレーキがかかりにくくなる」


 俺が反論すると、カイは反論し返してきた。しかも身も蓋も無いロジカル攻撃してきやがった。畜生、こまっしゃくれた餓鬼め。何だこの敗北感は……


「お前餓鬼のくせにつまんねえ奴だなあ」

「あ、その指摘はムカつく。差別的だし。子供差別で幽霊差別」


 俺が言うと、カイは頬を膨らませる。こういう仕草は正直可愛い。あ、可愛いとか思うと、また何かからかわれそうだ。


「からかわないよ。そう思われて悪い気はしない」


 俺の考えを読み取って、カイが言った。


「そもそも哀しい話を見て楽しむって、変に思えるよ。他人の不幸や悲劇を、神様視点で見て楽しんでいるの?」

「神様視点のつもりはねーよ。現実の悲劇は楽しめねーけど、フィクションなら安心して見られる部分あるし、わりと悲劇の後に救いのある物語の方が多いだろ? 悲劇だけで終わる、作者の自己マンニヒリズムリアリズム投影のバッドエンドの糞物語もあるがよ」

「その言い方からすると、おじさんはバッドエンドの話が大嫌いだね」


 カイのこの指摘は正解だ。


「現実はマジでバッドエンドだらけ、悲劇だらけだ。せめてフィクションでは救いや希望があってほしいもんさ」


 俺は天井を仰ぎ、目を細めた。


「やっぱりおじさんピュアでロマンチストなのかなー。おじさん年齢なのに、擦れてない。口では擦れているような発言しているけど、内面は違うっていうか」

「お前もそれ言うのかー……」


 岳都と同じ台詞を口にするカイに、俺は頭を掻きながら溜息をつく。


「りえって子に、もっとキツく釘をさしておくべきだったね」


 カイが話題を変える。


「そうかもな」


 曖昧に同意する俺。


「そうかもじゃなくてそうだよ。パートナーになるわけでしょ?」

「教育係兼、監視対象だ」

「じゃあ尚更だよ。あれは放っておくとマズい問題児と見た」


 いちいちごもっともだ。そして同意だ。


「おじさんはたまに詰めが甘い。危なっかしい時があるよ」

「そうだな。つい気が抜けちまうっていうか……」

「ま、そんなおじさんのピンチを救ってきたのが、俺なんだけどね」


 得意満面になるカイ。


「じゃあお前と会う前の俺は、どうやってピンチを切り抜けてきたんだって話だぜ」

「どうやってピンチを切り抜けていたの?」

「根性で何とかしたさ」


 カイに問われ、俺は肩をすくめて言ってのけた。


「根性だけでなく、おじさんはツキにも恵まれていたんだろうね。最大のツキは、俺と巡り合ったことだけど、その巡り合いは――」


 カイの台詞が途中で止まった。何でカイが途中で台詞を止めたか、俺にはわかる。

 カイの目を見る。ひどく昏い、遠い目をしている。こいつはたまに、子供の目をしていない時がある。見た目は七歳の子供でも、死んでから何年もの間、霊として時間を過ごして知識と経験が、こいつを見た目以上に成長させているのだろう。だがそれにしても…昏く冷たく淀んだ目になることがある。そいつが気がかりだ。

 理由を知りたいとは思う。どんな事情が、背景が、こいつにそんな目をさせるのか。助けが要ることなら助けてやりたい所だ。何しろ俺とカイは運命共同体に等しい。少なくとも俺はそう思っている。でもこいつは、自分のことを何も語らないからな。


 一つだけわかっているのは、こいつの死因だ。こいつは殺された。誰に殺されたかも知っている。俺の妻だった女――俺を裏切り、俺が殺した女――蟻塚アリサに殺された。しかしどうして殺されたのか、その詳しい理由は話してくれない。

 カイが俺の守護霊になった理由は、アリサを殺して仇を取ってくれたから。カイはそう言っている。果たしてそれだけだろうか?


 それはともかく、カイが台詞を止めた理由は、俺とカイが巡り合うに至る経緯が、決していいものではないからであり、それを思い出したからなんだろうな。何しろカイはアリサに殺され、俺がアリサを殺した。だから俺達は巡り合い、その後十一年もの間、共に過ごしている。


「俺がおじさんを守護するようになった理由が、他にあったと思う? じゃあ理由をもう一つ教えてあげる。俺がアリサって女の代わりに、おじさんの心を埋めたいと感じたからだよ。おじさんを護りたいと思ったんだ」


 柔らかく、そして同時に強い口調で、カイは告げた。


「カイ、あのホテルの時の話をしていいか?」

「俺が昏い目をしていて、気がかりなんだね。俺があの時、子供が殺されている光景を見て、それで固まっていたわけじゃないと、おじさんは見抜いているんだ」


 心が読めるってのは、こういう時は便利だな。


「そういうことだ。話したくなければ話さなくていいが」

「俺、おじさんの心は読みまくっているのに、俺はおじさんに話してないこと多いよね。そろそろこれ、話した方がいいかな。俺が殺された理由」


 そう話すカイの目は、決意の眼差しになっていた。


「ホテルのあの殺しと、関係あるのか」

「俺も似たような殺され方。商品として売られたんだよ。俺の場合は殺されてから、体をばらばらにされて、妖術の道具にされたっぽい? 同じ奴等かどうかは不明」

「そうか」


 似たような殺され方だからこそ、カイも内心穏やかではないんだろうな。


「そうだ。こいつを見てみねーとな」


 りえから貰った香水を取り出す。

 香水を握りしめ、サイコメトリーの力を発動させ、記憶を掘り起こす。


 白人少女とりえが激しく口論している。りえと口論している相手、知っているぞ。

 りえ、わりとトラブルメーカーっぽいな……。つーか我の強い奴ってのは厄介だわ。ま、昔の俺もそうだったけどな。


『こんな組織辞めてやるっ』


 りえが吐き捨て、部屋を出ようとする。


『ほえほえ~。待ってくだサーイ。餞別に、良い情報を提供しマース』


 白人の少女がりえを呼び止める。こいつは情報組織『鞭打ち症梟』のボスだな。名前はローラ・シェリダンだったかな。


『良い情報って何よ』

『貴女がずっと探っていた、貴女の母親にまつわる情報デース。貴女の母親、蟻塚アリサは、二つの組織に所属していたのデース』

『二つの組織って?』

『あっふん。一つは後始末専門の組織『恐怖の大王後援会』。もう一つは悪名高き乗っ取り組織『しみったれニヒリズム』デース』


 しみったれニヒリズム――嗚呼、あの組織の名前がここで出たか。点と線が繋がりそうな予感だぜ。


 サイコメトリーはそこで終わった。


「記憶の再生、いい情報得られたね」


 カイが微笑む。


「もう少し色々と知りたいが……。俺の能力では、同じ物や場所から掘り起こせる記憶は、一つだからな」


 香水をポケットにしまう。


「ふっ……アリサの忘れ形見が、時を越えて、俺に復讐しにきたのかねえ?」


 俺が自虐を込めて笑うと、やにわにカイが俺に抱き着いてくる。


「そうだとしても、そんなことはさせない。俺が護るから安心して」

「はいはい、頼もしいよ」


 俺は微笑を零し、カイの頭を軽く撫でた。

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