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裏通りのお掃除屋さん、今日も死体のおかたづけ  作者: ニー太
第二章 恨みを買わずに生きることは出来るのか?
13/14

12 追い詰められたネズミの気分を味わおう

「中身――全部じゃないけど、幾つかには人が入っている。中身はやっぱり子供」


 カイが報告する。

 怒気を感じ、俺はりえの方を見た。りえが凄い目で、入ってきた男女を睨んでいる。


「りえ、俺が出るまで先走るな」

「わかりました。見過ごす気は無いですよね?」


 俺が釘をさすと、りえは馬鹿な確認をしてきた。


「見過ごす? 狙われているのを承知で、俺はここにいるんだぜ?」

「そうですよね」


 俺がうそぶくと、りえは安心したかのように微笑む。


 体育館の電灯がつけられる。トランクケースの幾つかが開かれる。十一人の男女のうち五人が、中から衣装を取り出して着替え始める。山羊を模した怪しげな頭巾、自分の尾を咥えた蛇と砕けた太陽の紋章。ああ、この服は知っている。件のカルト宗教集団の正装だ。

 カルトの糞共の手によって、儀式の祭壇が作られる。そして着替えていない者達の手によって、まだ開いていないトランクケースが開けられた。

 トランクケースの中からは、拘束された子供が出てきた。カイの報告通り、そして予想通りの展開だ。


 着替えていない奴等は、人身売買組織肉塊の尊厳の構成員だろう。どっかからさらってきた子供達を、イカれたカルトに売り、またイカれた儀式をやって、その掃除を俺達にさせようって寸法だ。


 だが今回はそれだけじゃねえ。一度取引を台無しにした(他ならぬ俺の手で)恐怖の大王後援会に、再度依頼をしたということは、俺を誘き寄せるための挑発なんだ。そして制裁を与えるつもりなんだろう。恐怖の大王後援会に対するけじめというニュアンスもあるか?

 あるいは試している可能性もあるな。今後もよろしくやっていくのか、それとも拒むか、こちらの出方を試している。ま、俺の答えは決まっているんだがな。


 電灯が消される。祭壇のロウソクに火が灯される。山羊頭巾を被った男が、怪しい呪文を唱え始める。さあ、イカれた儀式の開始だ。

 子供の一人が祭壇の前へと連れてこられ、うつ伏せの姿勢にさせられた。巨大な鉈を持った男が、子供の前へと進み出る。


 男が子供の上で鉈を振り上げる直前、俺は銃を撃った。

 手首を貫かれた男が、鉈を取り落とす。


「映像、撮らせてもらったし、中枢にも送ったぜ。お前達、これでおしまいだな」


 俺が事務室から出て、腐れカルト集団に向かって告げた。


「ふっ、おしまいなのはお前達だ」


 カルト野郎ではなく、スーツ姿の男が嘲笑し、使い古された常套句を放つ。こいつは間違いなく依頼者――人身売買組織肉塊の尊厳の一員だろう。


「これでこちらとしては、お前達恐怖の大王後援会を完全に敵と見なせる大義名分が出来た。そしてそのきっかけになった鴉山九郎、お前には然るべき代価を払ってもらう」


 男が告げると、体育館の正面口と横口が開き、刺客複数名がなだれ込んできた。その中には、アコーディオン婆さんとヒッキーブラウンの姿もある。


「遅いぞ。遅刻じゃねーか」

「あーら、ごめんなさいねー……って、時間は遅れてないわよー。貴方達が早すぎたのよ」


 俺が軽口をたたくと、アコーディオン婆さんが笑いながら言い返した。


 肉塊の尊厳の構成員が子供達を連れていく。助けたくても、今その余裕はない。


「数、多いですよ」

「裏口に人が待ち構えている。裏口から出た所でズドンだよ」


 りえが言い、カイが報告した。


「俺をおびき寄せ、逃げ場も塞ぎ、救援も届かないようにして――と、実にシンプル極まりない罠だ」


 意図的に嘲るように言う俺だが、実際には見くびってはいない。シンプルで面白くも無い罠だが、効果はデカい。状況にもよるが、今回に関しては、変にこねくり回した策より有効だろう。

 ま、俺もそれを承知のうえで来た。シンプルな罠ならこっちも仕掛けておいたしな。


 ヒッキーブラウンがマシンピストルを撃つ。狙いは俺だ。

 他の雑魚共も一斉に俺めがけて銃を撃ってきやがった。しかもあちこちから。


 いくら何でもこれは避けきれない。ハチの巣だ。カイがいなかったらそうなっていただろう。

 カイは俺が避けられない銃弾だけを見極めて、素手で銃弾を弾いていく。


 アコーディオン婆さんがアコーディオンを奏でだす。カイを無力化する気だろう。


 りえがアコーディオン婆さんに向かって疾走すると、勢いよく片腕を振った。りえの超常の力、威力はあるが、攻撃範囲が短めなのが難点だな。あの分だと射程距離2メートル程度だろう。


 不可視の斬撃が空間を切り裂く。アコーディオン婆さんは笑みを張り付かせたまま、余裕を持って後方に跳び、りえの攻撃を避けている。


「お嬢ちゃんの背中から力を感じるよ」


 アコーディオン婆さんがそんな台詞を口にすると、りえが一瞬目を丸くした。だから~、そのわかりやすい反応はやめろっての……。裏通りで三年もやってきて、表情隠すことも出来ねーとか……


 アコーディオン婆さんがアコーディオンを奏でる。ただそれだけで、何かしら超常の力が働くのは明白だった。

 りえもそれを察してか、横に跳躍する。


 刹那、りえがいた床の後方に、三本の斬撃が走る。まるでりえの攻撃をお返しでもしたかのように。


「ちょっと真似してみたよ。そんなに難しくないわね~」


 こともなげに言うアコーディオン婆さんに、りえは臆して――はいなかった。怒りに満ちた顔だ。


 一方で俺はというと、複数の方向からの銃撃から必死に逃げ回りつつ、たまに隙を見つけて撃ち返していた。このたまに隙を見つけた瞬間が重要。このタイミングで、確実に一人ずつ始末して、敵の数を減らす。


 カイがガードしてくれるせいで、今は何とかなっている。だがカイの防御も完璧ではない。そのうちどこかで綻びが出てしまいそうだ。そうなったら――


 いや、その前に重要な問題があった。ヒッキーブラウンだ。

 逃げ回る俺の進路を遮る格好で、いつの間にかヒッキーブラウンが立ち塞がっていた。


 無数の銃撃に晒されている状況で、こいつに前に立たれちまうというのは、かなりヤバい状況だ。追い詰められたネズミになった気分だ。


「どけよっ」


 俺が小さく叫び、ヒッキーブラウンに向かって銃を撃つ。苦し紛れの銃撃だ。


 ヒッキーブラウンは銃撃を避け、俺の方へと踏み込んだ。


 雑魚共の銃撃を避ける。そのタイミングを見計らって、刀を振るうヒッキーブラウン。


 カイがヒッキーブラウンの斬撃を止めようと飛んできたが、ヒッキーブラウンの方が早かった。

 回避直後の不安定な姿勢だった俺は、ヒッキーブラウンの刀を避けられなかった。背筋に寒い感覚が走る。


 直後、俺は体のバランスを大きく崩す。重心が著しく変化した。体の片側が軽くなったように感じた。

 つんのめるようにして倒れる俺。


「おじさんっ!」


 カイが悲痛な声をあげる。


 自分の体に起こった変化に気づいたのは、倒れて数秒してからだった。ヒッキーブラウンの刀が、俺の右腕の肘の部分を切断していた。倒れた俺の腕の切断面から、すごい勢いで血が流れ出ている。すぐ近くに、切り落とされた俺の右腕が転がっている。


 カイがやってきて、俺の切断された腕をキツくしめて、出血を止めにかかる。


「きゃあっ!」


 呆然としている俺の意識を取り戻したのは、りえの悲鳴だった。

 アコーディオン婆さんから攻撃を食らい、服を大きく切り裂かれて横向きに倒れている。


 りえが切り裂かれた服は、背中の部分だ。背中までは切られていない。服だけだ。俺は自分が置かれた状況も一瞬忘れ、りえの背に目を奪われる。


「ああ、やっばりそれね~。明石羅禅さんの力作」


 感心したような声をあげるアコーディオン婆さん。

 りえの切り裂かれた服の背中から、黒豹と呪紋のタトゥーが確認できた。りえの持つ超常の力の根源はこれか。俺も噂には聞いたことがある。彫り師にして妖術師として名高い明石羅禅。彫った相手に超常の力を与えることが出来るという。ただし、素質がある相手にしか彫らないとのことだ。


 それはともかく、絶体絶命だ。俺は戦闘不能で、今すぐにでも殺されるかもしれない。

 だが、俺に殺意は向けられていない。ヒッキーブラウンも、他の連中も、倒れた俺を殺そうとしない。倒れた俺にとどめが刺される気配は無い。


 理由はわからないが、今この瞬間が最後の好機だ。

 怪しい動きをすれば、すぐ察知されて対処されるだろう。しかし、その動きを見せずに、仕掛けを起動できる。


 ブレイン・マシン・インターフェイスによって、俺は仕掛けを起動させた。この前純子のところに行った際に、BMIの起動装置を貰っていた。


 爆音が立て続けに響く。

 肉塊の尊厳が来る前に、俺達は作業をしていた。体育館の中に爆弾を仕掛けておいたんだ。正面扉側にな。俺達は体育館の裏側に陣取っている。爆風によって致命的なダメージを受けない距離を保っている。


 爆風を浴び、正面入り口側にいた奴等が一斉に倒れた。

 残念ながらこの好機を、俺は活かせない。立つことも出来ない。しかし――


「りえ、逃げろ!」


 俺がりえに向かって叫ぶ。俺はもう駄目だが、りえなら逃げられる。


 りえは躊躇している。ああ……この馬鹿野郎が……


 幸いなことに、アコーディオン婆さんもヒッキーブラウンも、撤退か交戦か迷っているりえに、すぐに攻撃を行う気配は無いようだ。りえの出方を伺っている。他の奴等も銃撃を止めている。

 この分なら、りえがここで逃げたとしても、追うことはしないだろう。奴等の目的は俺なんだから、逃げる相手まで追い回すひとなどしない。


「俺達にかまうな! お前だけでも逃げろ! 一緒に死ぬなんて馬鹿げてる!」


 俺が力を振り絞って叫ぶと、りえが入り口に向かって駆けだした。


 それを見て、俺は安堵の吐息をついた。りえ、最後に正しい選択をしてくれた。ここで踏み止まったら、りえは殺されていただろう。


 俺の体から力が抜ける。体がつめたくなっていく。瞼が自然閉じる。


「おじさんっ! 死なないで!」


 カイの叫び声が聞こえる。何か答えてやりたかったが、声も出ない。

 意識が薄れていく。限界だ……

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