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裏通りのお掃除屋さん、今日も死体のおかたづけ  作者: ニー太
第二章 恨みを買わずに生きることは出来るのか?
12/13

11 ニヒリズムなんてものがそもそもしみったれてる

 俺とカイとりえは、安楽市民健康ランドにやってきた。子供向けの遊具施設、体育館、テニスコート、プール、池や公園もある。市民の憩いの場だな。


「おおお、懐かしい。俺が生きてた時、ここに来たことあるよ」


 カイが弾んだ声をあげる。表情も明るい。


「父さんと母さんがまだいた頃だよ。結構経つのに、あまり変わってないなあ。あ、あそこに店舗があったのに、潰れちゃってる。池の鯉とか亀とか、あの時いた奴かなあ。どっちも長生きだし。おーい、俺のこと覚えてるー?」


 はしゃぐカイ。たまに見た目相応の子供っぽくなるな。


「カート乗りたい」


 カイが俺の手を取る。


「りえと乗ってこい」

「何でだよ。りえなんか嫌だよ。俺はおじさんと乗りたい」


 俺が促すが、カイは拒む。


「りえなんかって……いや、マジでさー、カイ君は何で私をそんなに嫌うの? 嫌われるようなことした覚え全然無いし、理由教えてほしいんだけど」

「別に……」


 りえが真顔で問うが、カイが不貞腐れたようにそっぽを向く。


「あ、わかった。わかっちゃった」


 りえがにやりと笑う。


「大好きなおじさんを独占できないとか、私におじさんをとられちゃうかもしれないとか、そんな理由でしょ?」

「ふざけんなよっ。俺は見た目こそ子供だけど、実年齢はりえより上なのに、そんなわけないだろっ。見当違いも甚だしいっ」


 りえの指摘に、カイは明らかにむきになって反発した。


「へー、そうなんだあ。ふーん。じゃあ私のこと嫌う必要も無いし、私が九郎さんと仲良くしても問題ないよねえ?」

「ぐぬぬぬ……」


 カイの反応を見て、りえはますます気をよくしてからかう。カイは悔しげに呻いている。つーか、確かに嫌いすぎなんだよなあ。りえを怪しむのはわかるが、拒絶しすぎだろ。


「りえがおじさんを罠にかけようとしているんじゃないかって、疑ってる」


 カイが耳元で囁く。


 俺を殺すなりハメるなりしたいなら、機会はあったはずだ。昨日なんて大ピンチだった所を、りえに救われただろ。


「甘いよ、おじさん。それも信用させるための演技という可能性がある」


 それはいくらなんでも疑いすぎだ。


「でもおじさんは一度騙されているんだよ。りえの母親にね」


 あー……それを言ってくれるなよ……畜生め。


「人身売買の証拠隠滅ってことは、売買の時点で、痕跡が残ってしまうってことですよね?」


 りえが確認する。


「そうだな。商品がすぐに殺されるってわけだ。さっきも岳都――ボスが言ってただろ。取引相手は殺人儀式を行うカルトな奴等だからな」


 喋っている最中に、俺は足を止めた。りえとカイも一旦止まる。目的地の体育館に着いたのだ。入り口の前には、貸し切りで立ち入り禁止と書かれた札が立てかけられていた。


「時間、大分早かったですね」


 りえが時計を見て言った。


「わざと早めに来たんだよ。俺達の仕事はお掃除だ。しかし、依頼者は掃除する前に指定した場所を汚すつもりなんだろう? 出来ればその前を狙いたいと思ってな」

「ああ、そういうことですか」


 全てを語らずとも、りえもこの時点で俺の目論見に気づいたようだ。


「でも、それならそういう作戦があると、事前に教えてくださいよ。言葉が足りませんよ」


 いちいち突っかかってくるなあ、こいつ。実に面倒な性格だ。


「早めに来る時点で、それくらい察すると思ったけど、りえは案外頭よくないね」


 小馬鹿にするカイ。


「じゃあカイ君はわかっていたの?」

「もちろんわかってたよ」


 そりゃカイはわかっているだろうさ。俺の考えていること筒抜けなんだからな。


 移動を開始する。体育館の裏口から中に入る。鍵がかかっていたが、カイに内側から開けてもらう。

 警備の気配は無い。依頼者も到着前かな。こっちの動きは見切られていないか、それともわかったうえでペテンにかけてくるつもりか。一応その可能性は考えたうえで、こっちも保険は用意してあるんだがな。

 カーテンが全て閉まっているせいで、体育館の中は暗い。しかし電灯をつけなくても見えないほどてもない。カーテンの隙間からの光だけでも十分な光源だ。


 そして誰もいない。だが、何も無いわけではなかった。

 怪しげな祭壇。床に敷かれた大きなカーペットにも怪しげな紋様。今から怪しい儀式をしますと宣言しているかのような、舞台セットだ。


 不意に電灯がつく。

 三人一斉に警戒し、身構える。同時に周囲を見渡す。


「りえ、裏切ったのか?」


 聞き覚えのある声がした。直に肉声を聞くのは初めてだ。サイコメトリー中に一度聞いた声だ。


 屈強な男達を両脇と後方に従えて、葉巻を咥えたひどく人相の悪い小男が現れた。しみったれニヒリズムのボス、サンティアゴ東山だ。


「何で貴方がここに……」


 唐突に現れた東山を見て、呆然とするりえ。


 俺もりえと同じ台詞を吐きたい。しみったれニヒリズムのボスが――一応部下を連れてはいるが――こんな場所に訪れるとは。


「りえ、おじさんをハメたの?」

「違うっ」


 カイが鋭い声で問うが、りえは小さくかぶりを振った。 


「裏切った? 私はそっちに与したつもりもないよ。私は真実を確かめたいって言ったでしょ。母さんのことが知りたかっただけだし」

「ああ、そうかい。だが報告が遅い。俺は待っていられなくなったんだよ。おまけに鴉山の危機を救いやがったそうじゃねーか」


 りえが東山の言葉を否定すると、東山はりえではなく、俺に視線を向けて告げた。


 東山の口元には悪党特有の歪んだ薄ら笑いを浮かべているが、目は笑っていない。それどころか、確かな瞋恚の灯が宿っている。こいつは俺を恨んでいる? 憎んでいる?

 いや――怒りや憎しみだけではない。親しみや懐かしさのような光も、その瞳に同居している。とにかくこの男は、俺に対して複雑な感情を抱いているようだ。


「会いたかったぜ。鴉山九郎。いや……忘れようとしていたけど、何の因果か、十一年前の因縁が再燃しちまった。だから、ケリをつけることにした」


 東山が俺に声をかけてきた。こいつは何を言ってるんだ?


「しみったれニヒリズムのボスともあろう御方が、たかが一介の掃除屋さん風情とわざわざ御対面を望むとは、どういう了見だ?」

「お前には直接聞きたいことがあったからな」


 俺の問いに答えつつ、葉山は懐をまさぐり、ケースを取り出した。


「吸うか? 高級品だぜ」


 ケースを開くと中には葉巻だ。差し出すポーズは取っているが、両者の距離は離れている。


「禁煙してんだ」

「はははは、マジかよ。何日めだ」

「十一年だ」

「すげえな。そりゃ大したもんだ。ははは」


 俺の答えを聞いて、屈託なく笑う東山。


 何だろうな。こいつはどう見ても悪党なんだが、俺に対して妙に馴れ馴れしく、そして俺もこいつに対して、奇妙な懐かしさと親しみを感じてしまっている。

 初対面でいきなりウマの合う奴って、たまにいるもんだ。こいつが正にそれっぽい。しかしその一方で、東山の方は俺を憎んでもいる様子。理由はわからんが……


 東山の顔から笑みが消える。


「聞かなくてもわかっちゃいるんだが、答えてくれ。蟻塚アリサを殺したのはお前さんだな?」


 東山の問いに、俺は答えなかった。ただ、りえを一瞥した。


 りえは俺を注視していたが、このわかりやすい娘は無表情のままだ。あまり緊張もしていない。今この瞬間の俺の答えに注目しているとはいえ、真実を知って、俺を殺しにくるような気配は無い……かな?


「沈黙が答えになっちまってる気がするぜ。しかしはっきりとその口で答えて欲しいな。俺は真実を直接聞きてーんだよ」


 紫煙を吐き出して嗤う東山。


「そんなこと、お前に何の関係があるんだ?」

「あるからこそ、俺がこうして出しゃばってきた」


 俺が問うと、東山はどこか寂しげは表情になって話す。


「パズルのピースは揃っている。蟻塚アリサの娘が現れ、しみったれニヒリズムと恐怖の大王後援会という二つの組織が、また触れ合った。同じタイミングでだ。そして俺の前に再び、忌まわしい男の名が浮かび上がった。鴉山九郎。この名から、この男から、逃げるんじゃねえって、運命が俺に言っていやがる」


 東山の芝居がかった台詞を聞き、俺は段々わかってきた。こいつはひょっとして……


「で、俺を殺すためにわざわざボス自ら来たと?」

「いんや。今日は話をしにきただけだよ」

「俺は話すことはないぞ」


 懐に手を入れる俺。俺の所作を見て、東山の部下達も一斉に懐に手を入れた。しかし東山は軽く手を上げて、部下たちを制した。


「鴉山、話をしにきただけだと言ってるだろ。今日はそんな気分じゃねーんだ。争いはやめてくれねーか。無駄な死人が出る。俺は負ける気はしねーが、俺の部下の何人かは、お前さんに殺されそうだ。お前さんが銃を収めてくれれば、お前さんも部下も死ななくて済む」


 まあ、実は俺も本気でやりたいわけじゃねーんだが、一応威嚇して反応を探ってみた。この東山という男を知るためにも。


「やるならサシで、だ。なあ、頼むよ」


 へらへら笑いながら、へりくだった口調で東山が言う。相変わらず目は笑っていない。


 やるならサシで――か。この台詞を聞いて、俺はこいつの憎しみの根源が確信できた。ひょっとしてから、ひょっとしなくてもそういうことなんだと、理解できちまった。

 はあ……男ってのはつくづく馬鹿な生き物だ。こいつも俺と同じだ。十一年経った今も傷が癒えていないんだ。


「アコーディオン婆さんとヒッキーブラウン達をけしかけているのは、お前なんだろう? ここで始末すれば、その問題も終わる」

「違うな。あれは肉塊の尊厳が雇った殺し屋共だ。下部組織とはいえ、あいつらは俺の言うことを何でも聞くわけでもねーし、お前さんに仕事を邪魔され、おまけに告発されたことで、相当お冠なようだぜ。お前さんを罠にはめる準備をここでしているって話を聞いて、俺もここに来た。話がしたくな」


 そこまで話すと、東山は視線を横に向けた。東山が入ってきた体育館の横口だ。


「あーあ、ろくに話ができてねーのによ。招かれざる客が来るようだ。いや、鴉山にとっては俺の方が招かれざる客か? じゃ、今日はここまでだな」


 そう言い残すと、東山は部下を連れて、横口へと向かう。


 外に出る寸前、東山は足を止めて振り返る。視線の先は、りえだった。


「りえ、俺も真実が知りたいが、お前の知らない話を俺は知っている。お前の母親がどういう女だったか、何でそいつに嫁いだかをな。そいつの口から聞くもよし。だが俺なら、偽りのない答えをくれてやるぜ」


 そう言い残し、東山は今度こそ立ち去った。


「九郎さん……」

「知りたいことがあるなら訊いていいぜ。答えるとは限らないが。ま、後でな」


 曇り顔を向けるりえに、俺は微笑みながら告げる。今は喋っている暇はない。東山の言葉を信じるなら、依頼者とその取引相手が接近している。


「私には訊かないの?」

「後でって言っただろ。時間が無い。さっさと作業をするぞ」


 俺が促し、三人で体育館の正面扉側に仕掛けを施しに回った。


「お目当ての奴等が来たようだ」


 言いながら俺は体育館の事務室に移動する。りえとカイもついてくる。


 扉の中に入り、微かに扉を開けて、ホールの様子を見る。体育館の正面扉が開き、トランクケースを持った男女が十一人、ホールに入ってきた。

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