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裏通りのお掃除屋さん、今日も死体のおかたづけ  作者: ニー太
第二章 恨みを買わずに生きることは出来るのか?
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9 少女は汚いものでも見るような目つきで拒絶される

 組織本部を出た後、俺とカイは自宅に向かった。


「おいりえ、何でこっちに来るんだ?」


 その俺達に着いてくるりえを見て、俺は訝る。


「狙われているのは鴉山さんでしょ。しかもさっきの様子だと、鴉山さんとカイ君だけでは対処できそうにないから、私も一緒にいて鴉山さん護ります」

「はあ?」

「余計なお世話だよ。りえは帰って」


 勇ましく宣言するりえに、俺はぽかんと口を開き、カイは心底嫌そうに拒絶した。


「あ、それと九郎さんて呼んでいいですか? 九郎さんも初対面からいきなり私のこと名前呼びでしたし」

「駄目だよ。お前を名前で呼んだのは、お前の母親との区別化だ。苗字呼びで一緒だとややこしいからな」


 俺は半分嘘をついた。アリサのことは最初こそ苗字呼びだが、途中から名前で呼ぶようになった。だから半分嘘だ。ややこしいのは半分事実だ。


「俺を無視しないで。りえは帰って。あと、俺のこと気安く名前で呼ぶな」

「先輩の権限で私は名前呼びして、私には許さないんですね」


 カイがりえに向かって刺々しい声をかけるが、りえはカイを無視して俺との会話を続ける。


「そんなことでいちいち突っかかんなよ」

「突っかかっていません。ほんの軽口です」


 軽く口のわりには表情に険があるし、口調にも刺がある。


「りえ、俺を無視しないでよ。りえはいらないから帰っていいよ」


 同じ台詞を繰り返すカイの方に、りえの視線が移る。


「カイ君、どうして私のことをそんなに嫌うの? 私は貴方に嫌われるようなこと、何もした覚え無いけど?」

「俺はりえを見ていてあまりいい気分しない。我が強くて、人と衝突するタイプに見える。そんなのがおじさんのパートナーになって、おじさんの足を引っ張りかねないのが嫌」


 りえの問いかけに対し、カイは歯に衣着せぬ答えを返す。


「言いたい放題言ってくれるね。でも……確かに私はよく人と衝突する。わかってるんだけど……。それはそれとして、さっき二人してピンチだったでしょ。あの調子じゃまたアコーディオン婆さんに襲われたら、ひとたまりもないじゃない」


 まあ……それはそうだが……。そしてさっきこいつには相当助けてもらったし、ガードしてくれるのは心強い。だが――


「で、まさか俺の家までついてこようってのか?」

「ええ」


 俺が尋ねると、りえはあっさり頷いた。


「いや、それはちょっと違うんじゃねーかなー……」

「馬鹿だよね。問題あるってわからないのかな」


 俺とカイで顔を見合わせて言う


「ん? まさか家にあげるかどうかの心配してるの? 家にあがらなくても、近くで張り込みして襲撃に備えておくから」


 りえがカイの方を見て言った。


「いやいや、それだってキツいだろ。むしろそっちがダメだ。つかね、いくらパートナーとはいえ、まだ組んで日が浅い俺のために、そこまでする必要無いだろ」

「日が浅かろうと、仕事のパートナーになったんだから、その辺はしっかり助け合って然るべきでしょ。例え九郎さんが、お母さんの旦那さんじゃなかったとしても」


 りえの唐突な台詞を聞いて、カイは目を丸くしていたが、俺は別に驚かなかった。流石にそれくらいのこと、調べればすぐにわかることだ。つーか、情報組織にいたんだし、りえが情報組織のボスと話している場面を、サイコメトリーで見ているんだ。あの時情報組織のボスは、りえに情報を伝えていた。

 それ以上のことは、俺とカイと岳都しか知らないことだがな。だがそれも、超常の力を駆使すれば、いくらでも知ることは出来る気がする。


「知っててトボけてたのか」

「トボけてたのは九郎さんでしょ」


 俺が皮肉げに言うと、りえはしれっと言い返した。こいつ……駄目だと言ってるのに名前で呼びやがるし……。


「俺の掘り返してほしくない記憶だ。例えあいつの娘だろうとな」

「私は掘り返したいです。真実を知りたいです。そのために裏通りの住人になったと言っても過言ではありません」

「今後その話題に無暗に触れるようなら、岳都に言ってパートナーは解消してもらう。俺の人生で一番デカい、心の傷なんだ。それを突き回したいのか?」


 俺が真剣な口調で告げると、りえは少したじろいでいた。


「そういうつもりじゃあ……。はあ、わかりました。九郎さんの気が変わるのを待ちます」

「だからよー、名前で呼ぶなってんだよ」

「色々と頭にくるので、これから苗字で呼ぶのやめて、名前で呼ぶことにします」

「何だそりゃ……」


 早口で宣言するりえに、俺は息を吐く。


「話を戻しますけど、実際危険ですよね。一人で対処しきれないでしょ?」

「一応、泊めてやれる部屋はある。家の中にあがれ。一晩中外で張り込みさせるのは悪い。ベッドはずっと使ってないから、手入れが必要だけどな」

「そうですか。どうも」


 俺が言うと、りえはあっさりと受け入れた。ちなみにその泊めてやれる部屋――かつてアリサがいた頃に使っていたものだ。何の因果だか……。


「カイ、不服なのはわかるが――」

「わかってるよ。りえの助力があれば、戦闘になった時に心強い。それは認めるよ。でも、りえの力が絶対必要ってわけじゃない。昼は油断したけど、今度はあっさりやられないから」


 俺の言葉を遮って、カイは強い語気で主張した。


 その後、俺の家に到着して、三人で入る。


「防犯機能しっかりしていますね。かなり厳重」

「冗談抜きに避難用の地下通路もあるぜ」


 感心するりえに俺が告げる。


「男の家にほいほい上がることに抵抗無いってことは、おじさんは男と見なされていないんだね。よかったよかった」

「なんでよかったになるんだよ」


 からかうカイに、小さく笑う俺。


「九郎さんが、自分を護ってもらう相手に手出しするような下衆だとは思えません。しかもカイ君の見ている前で、変なことはなしいでしょ」


 りえが真顔で言う。まー、その通りだ。しかもアリサの娘に手出しとか、出来るわけがねえ。


「カイ君、喋り方聞いていると、見た目通りの年齢って感じじゃないよね」


 りえがカイを見上げる。確かにこいつの言動は年齢相応とは言い難い。


「死んだのは七歳。その後は幽霊人生送っているよ。幽霊年齢だけでも、りえより年上なんだ」

「そうなんだ……」


 自分の半分も生きて無さそうな見た目のカイに年上と言われ、りえは鼻白んでいた。


「何か変な感じ。この家におじさんと俺以外の人間がいるなんてさ」


 と、カイ。俺もそれは同感。


「この本は……え? 詩集」


 テーブルの上の詩集を見て、目を丸くするりえ。


「うん。詩集。おじさんてロマンチストな所あるから。詩を書くのが趣味」

「おい、やめろ。人のもん勝手にあらけるな」


 にやにや笑うカイ。俺は詩集をさっと片付ける。


「お母さんも詩を書くのが好きだったみたいで、詩集持っていたんですよね」


 り絵が言う。いや、その詩集はきっとアリサが書いたものじゃなない……。


「おじさん。お風呂に入ろう」

「へー……一緒にお風呂入ってるんだ」


 カイの台詞を聞いて、りえが何故かにまにまと微笑む。


「せっかくだからりえと一緒に入って洗ってもらえよ」

「嫌だよ。冗談じゃないよ。ふざけんなよ」

「何でそんな、汚いものでも見るような目つきで拒むのよ……」


 俺が促すと、カイは全力で拒絶し、りえはカイの反応を見て憮然となった。


「風呂は俺の大事な力の源だし、俺の力が満ち溢れることで、おじさんの命も支えるんだ。つまり、入浴は神聖な儀式のようなものなんだよ。そこに他人を――しかもこんな女を入れろなんて、おじさんもひどいね」


 言いたい放題のカイ。


「九郎さん、何で私はカイ君にこんなに嫌われてるんです? 絶対に何か理由がありますよね?」

「んー……」


 りえに問われ、ただ唸るだけの俺。理由はわかってるけどな。言えるはずもない。


 俺はカイを見る。カイは割り切れないのか? お前を殺したのはりえの母親であって、その娘には罪は無いって――そう問いかける。ま、りえの見ている前が答えは返ってこないだろうが。


「理屈でわかってるけど、感情的には割り切れないね。おじさんとは違う。似すぎているし」


 ところがカイは俺の心の問いかけに対し、返答してきた。


「何? どういうこと?」


 カイの答えの意味がわからず、りえは怪訝な顔をしている。


 その後俺はカイを風呂に入れて洗ってやり、二人で出てくる。


「バスタオル用意したからお前も入ってこい。食事の準備しとく」


 りえに向かって告げる。


「わかりました。食事は出前?」

「俺は自炊派だ。料理の味付けの文句は聞かないぜ。好き嫌いは勝手にしろ」


 そう言って俺は、追い払かのように手を振った。りえは風呂場へと向かう。


「アリサの娘で、アリサに顔が似すぎているってこともあるけどさ、りえの性格も好きじゃない。自己主張激しいし、強引な所あるし、協調性もあまり無いし、おまけに頑固者っぽい」


 りえがいなくなった瞬間、ここぞとばかりにりえに対する不満を口にするカイだった。


「さてと、りえには申し訳ないが、せっかくの機会だ」


 りえがソファーに置いていった鞄に手を置き、サイコメトリーを始める。


 記憶が掘り起こされ、俺の頭の中に流れ込んでくる。映像と音声が再生された。りえの前にガラの悪い男数人がいる。中心にいる男は葉巻を咥えている。


『驚いたね。アリサと瓜二つじゃねーか』


 対峙している男のうちの一人――中心で一人だけソファーにふんぞりかえっている、一際人相の悪い小男が口を開く。こいつの顔は知っている。直接対面したことはないが、写真で見たことがある。悪名高い乗っ取り組織『しみったれニヒリズム』のボス、サンティアゴ東山だ。


『お母さんのことを知っているなら教えてほしい。お母さんはどうして死んだの?』


 凶相と言ってもいいほど凄みのある悪人面の東山に対し、りえは全く臆さずに質問をぶつける。まあ、背がな……。150センチも無さそうな小男なんで、いくら強面だろうと、あまり怖くはないだろうな。


『はっ、逆に俺が知りたいわ。情報組織に調べさせてわかったことは、アリサは恐怖の大王後援会によって、死体だけではなく、在籍した痕跡の多くも消されちまったってことだけだ。超常の力をもってしても、真実はわからねえと言われちまったよ。流石は裏通りで唯一無二の後始末組織だ』


 ああ、そうだ。東山の言う通り、アリサの痕跡は可能な限り消させてもらった。しかし、俺と同じサイコメトリーの力を持つ者が、アリサの所持品の記憶を掘り起こせば、真実を知る可能性もあったかもしれないが、どうやら情報組織はそれを見つけることが出来なかったようだ。


『十四年前になるか。しみったれニヒリズムは、恐怖の大王後援会の乗っ取りを画策していた。しかしあの組織はただの掃除屋じゃねえ。それなりに力のある組織で、乗っ取りは至難だ。何より組織の実体が不明すぎた。情報が不足していた。そこで、うちの組織のメンバーを恐怖の大王後援会の一員として潜り込ませる作戦が、実行されることになった。情報の収集だけでなく、工作活動も兼ねてな。その潜入工作員に立候補したのがアリサだ』


 俺はもちろんその話を知っている。その真実を知ったからこそ、俺はアリサを殺したんだからな。しかしりえは東山の話を聞いて、衝撃を受けていた。


『作戦実行から三年以上経過した所で、アリサからの連絡は途絶えた。まあ――バレて消されたんだろうと誰もが思ったさ。そして恐怖の大王後援会の乗っ取りは諦めた』

『それだけで諦めちゃったの?』


 不思議そうに尋ねるアリサ。


『恐怖の大王後援会は、裏通りでも非常に重要かつ、特殊な立ち位置にある組織だ。ニーズの高さも多さも半端じゃねえ。裏通りは、死体と不正でちらかることが多いが、そのまま汚しっぱなしにはしておけねえ。あいつらが掃除しないと、日本は死体と不正で溢れかえっちまう。だから恐怖の大王後援会を乗っ取って傘下に収めれば、うちらにとってもデカい。でもな、あの組織は中枢からも重視されているし、乗っ取りは一筋縄じゃいかねーし、無理があるんじゃねーかって、当時の幹部には懐疑的な奴も多かった。当時のボスも含めてな。向こう見ずなアリサと、一部の奴だけが乗り気だった。で、アリサの失敗を機に、打ち切ったのさ』


 そこまで喋って、東山は葉巻を奇妙な形状の灰皿に押し付ける。いや、奇妙っつーか下品な形状だ。女性器を象った灰皿だ。


『アリサは恐怖の大王後援会の腕利き鴉山九郎と結婚して、上手いこと取り入っていた。この男は今でも現役だ。こいつが一番臭いよなァ』


 東山の台詞を聞き、俺は自然と拳を握りしめていた。胸の奥が疼く。


『真実がわかったら――アリサを殺した犯人がわかったら、必ず俺にも教えろよ。それも取引の条件だ』


 記憶の掘り起こしはそこで途切れた。


「重要な情報ゲットできたね」


 カイが俺の耳元で囁く。


 しみったれニヒリズムの手先ってわけではなく、りえは単独で母親の死の真相を探っているようだな。そのために、しみったれニヒリズムにあたって、情報を聞き出したわけか。

 重要な情報は一つ手に入ったが、これが全てってわけでもない。あくまで記憶の欠片の一つでしかない。母親を知ることがりえの目的の全てであると、現時点では断定できない。りえが敵か味方かも判断できない。


 やがてりえが戻ってくる。


「これからどうするんです? 狙われっぱなしのままではまずいですよね」

「狙われていようが、仕事は入る。今は繁忙期だからな」


 りえの問いに、俺はあっさりと答える。


「こんな状況なのに仕事を入れるんですか? ひどいボスです」

「短絡的なこと言うなよ。仕事もこなすし、刺客も退けるだけの話だ。どっかの誰かに狙われて怖いからって、そんなんでずっと引きこもって、仕事も放棄しろってのか?」


 憤慨するりえに、呆れ気味に言う俺。


「そうですね。裏通りの人間がそんな情けないこと、言えるわけもないですよね」


 明らかに皮肉を込めて言い放つりえ。


「おやすみなさい。何かあったらすぐに起きますから」

「頼もしいね。おやすみ」


 納得いってない様子のまま、りえは部屋に引っ込んだ。本当に面倒くさい奴だなあ……


「あれはおじさんが死んでても、一人で爆睡しているフラグだよ」

「そんな笑えないフラグ聞いたことねーわ」


 カイの台詞に笑ってしまう俺。


「あのー……九郎さん。ダブルベッドなんですけど……」

「だから何だよ。ずっと使ってないって言っただろ」


 りえが戻ってきて気まずい顔で訴えたが、俺は取り合わなかった。

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