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黒い同盟

夜明け前。山林には深い霧が立ち込めていた。


涼真は一キロ先の崖上に伏せ、バレットM82のスコープを覗き込んでいた。

レンズの向こうには、騎乗する松平信綱の姿がある。

距離一千メートル。当時の常識では、神の領域だ。


「よう、老いぼれ。現代からの“挨拶”だ。受け取れよ」


静かに息を吐き、トリガーを絞る。


ズドォォォォン!!


重低音の砲声が早朝の静寂を引き裂く。

50口径の徹甲弾が音速を超えて飛翔し、信綱の頭部を西瓜のように破裂させた。

鮮血と脳漿が噴水のように飛び散り、周囲の兵士たちの顔を赤く染める。


「しょ、将軍……!? 将軍がァァァ!!」


徳川兵たちが呆然と立ち尽くす。

何が起きたのか理解できない。指揮官の頭が、突然消し飛んだのだ。


「妖術だ! これは天罰だぁ!」


パニックが広がる中、涼真は冷静にボルトを引く。排莢音が心地よく響く。

次弾装填。


ズドンッ!


二人目。副官の胸板が弾け飛び、肉片となって散らばる。


涼真は口の端を吊り上げる。

「ハッ、面白いように当たりやがる」


呼吸を整え、次々と引き金を引く。

ズドンッ! ズドンッ!


見えない死神の鎌が振るわれるたびに、指揮官クラスが血達磨になって崩れ落ちる。

精鋭と呼ばれた徳川兵たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。


「撤退だ! 逃げろぉぉ!」


だが、谷の入り口は既に死地と化していた。


「――攻撃開始ファイア!」


涼真の号令が、トランシーバー(寿命半年分の対価)を通じて飛ぶ。


谷底で待ち構えていた武蔵が、獰猛な笑みを浮かべて導火線に火を点けた。

「ギャハハ! 徳川の犬っころども! 花火の時間だぜぇ!」


ドガガガガァーン!!


埋設された指向性地雷が一斉に炸裂。

谷の入り口が崩落し、岩石が退路を塞ぐ。

逃げ場を失った徳川兵たちが、将棋倒しになっていく。


「ボスの教え通りだ! 火力を集中させろ! 各個撃破だ!」


桐生が叫び、M16を構える。

ダダダダダッ!

鉛の弾幕が敵兵を薙ぎ払う。鎧も兜も意味を成さない。


「くそっ、こいつらの火器……デタラメだぞ!」

徳川兵が絶叫し、血の海に沈む。


かつては烏合の衆だった山賊たちが、今は涼真の精鋭部隊として機能している。

交差射撃による十字砲火。完璧な援護射撃。


「左翼制圧! 右から回り込め!」

武蔵が怒鳴りながらマガジンを叩き込む。顔には返り血がべっとりと付着している。


わずか十分。

五百の精鋭部隊は、百人足らずの敗残兵へと成り下がった。


「人間じゃねぇ……あいつら、悪魔だ!」

生き残った兵士たちは泣き叫びながら武器を捨て、散り散りになった。


涼真はスコープから目を離し、大きく息を吐いた。

口元から血が溢れ出し、地面を汚す。

顔色は死人のように白い。


だが、その瞳には達成感の炎が宿っていた。

「フン、徳川の精鋭も、蓋を開けてみりゃこんなもんか」


戦闘の余韻も冷めやらぬ中、山麓から新たな蹄音が響いてきた。


涼真は本陣の椅子に深々と座り、虚勢を張って待ち構える。

体の中はボロボロだが、王の威厳だけは崩さない。


「若、敵の増援ですか?」

武蔵が刀に手をかける。


「いや、違う。――ビジネス(商談)の時間だ」


やがて、一群の武士たちが恭しく平伏した。


それがし、武田家遺臣の代表にございます! 鷹見様にお目通り願いたく!」

先頭の男が震える声で叫ぶ。


続いて、今川家の残党、北条家の旧臣たちが次々と名乗りを上げる。


「皆様、お早い到着で」

涼真は掠れた声で、しかし傲然と言い放つ。


「鷹見様の武勇、甲斐中に轟いております! わずか百人で徳川の精鋭五百を殲滅なされるとは! 我ら、鷹見様を盟主と仰ぎ、共に暴政に立ち向かいたく存じます!」

武田の代表が拳を握りしめ、熱っぽく語る。


「左様! 今川家も末席に加えてくだされ!」

「北条旧臣も是非に! 鷹見様、あの武器……天からの授かり物とお見受けする!」

各家の使者が口々に叫ぶ。その目には、恐怖と欲望が入り混じっていた。


涼真は内心の狂喜を押し殺し、冷徹な視線を向ける。

「結構。だが、俺の軍門に下るなら、それ相応の“価値”を示してもらおうか」


使者たちが顔を見合わせる。

「価値……と申されますと?」


涼真は激痛に耐えながら立ち上がった。口の端からツーと血が流れる。

「同盟を結ぶというなら、俺の“真の力”を見せてやる必要があるな」


彼は親指を噛み切り、鮮血を滴らせた。

システム起動。


血色の光が溢れ出し、空間が歪む。

光の中から、羽織を纏い、軍配を手にした痩身の男が、幽鬼のように現れる。


「――それがしは竹中半兵衛重治(たけなか はんべえ しげはる)。主君の召喚に応じ、推参いたしました」


稀代の軍師は優雅に跪き、涼やかな声で告げた。

「我が智謀、すべて主君のために捧げましょう」


場が凍りついた。


「な……あれは、伝説の竹中半兵衛殿か!?」

武蔵が目を剥いて叫ぶ。

「戦国一の天才軍師が……生き返っただと!?」


武田の代表がガタガタと震え出した。

「た、鷹見様……まさか、死者を蘇らせる力まで……!?」


涼真はふらつく体を支え、冷酷に告げる。

「理解したか? 俺が持っているのは、時代を超越した絶対的な力だ! 俺に従えば、徳川を倒し、天下を分け与えてやる!」


使者たちが一斉に額を地面に打ち付けた。


「ハハーッ! 鷹見様に一生ついていきます!」

「今日より貴方様が我らの盟主です!」


北条の使者が野心に満ちた目で叫ぶ。


涼真は頷き、血反吐を吐き出しそうになるのを堪えた。

「よし。半兵衛、指揮を執れ」


半兵衛が立ち上がり、軍配で地図を指し示す。

「主公。某の策としては、三段階の工程を踏みまする。一に各勢力の統合、二に徳川の補給路の遮断、三に甲府城への直接攻撃でござる」


彼は地図の上で指を滑らせ、流れるように語る。

「皆様の兵力は少なくとも、主君の神兵(M16)と合わせれば、徳川の土台を揺るがすに十分」


「竹中様の仰せの通りに!」

武田代表が胸を叩く。「我ら武田残党、三百の兵を出しましょう!」


「今川家は二百! 鉄砲の扱いは任せてくだせぇ!」

「北条旧臣は百五十! ……ですが鷹見様、戦後の恩賞は弾んでいただけますな?」

北条の使者が卑しい笑みを浮かべる。


半兵衛が涼やかに微笑む。

「無論。公平な分配をお約束いたしましょう」


涼真は体内を焼くような反動に耐えながら、不敵に笑う。

「いいだろう! 今日から俺たちは運命共同体だ! 目標はただ一つ――徳川家光を地べたに這いつくばらせることだ!」


「打倒徳川!」

「鷹見様万歳!」


同盟の成立。士気は最高潮に達した。


一方、甲府城。


「なんだとぉ!? 信綱が一撃で死んだだと!? 五百の兵が全滅!?」


徳川家光が卓をひっくり返し、茶器を粉砕した。

雷鳴のような怒号が広間に響く。


伝令兵が平伏して震えている。

「は、はい……敵は妖術を……。それに、武田、今川、北条の残党が鷹見涼真に寝返りました!」


「おのれ鷹見涼真! たかが謀反人の小倅ごときが、図に乗りおって!」

家光が刀を抜き放つ。刃が殺気でギラついている。


「全軍集結だ! 私自らが出る! あの化け物を八つ裂きにせねば、私の腹の虫が治まらん!」


城全体が、主君の怒りに震え上がった。

兵士たちが囁き合う。

「殿のご乱心だ……こりゃあ大戦おおいくさになるぞ」


深夜。山中の本陣。

涼真は半兵衛と二人、地図を囲んでいた。口元の血は乾いて黒ずんでいる。


「半兵衛。家光は必ず全軍で来る。そこが狙い目だ」

地図の一点を指す指先が震えている。

「甲斐の国そのものを、奴の墓場にしてやる」


半兵衛が深く頭を下げる。

「主公の器、信長公をも凌ぐかもしれませぬ。某の全てを賭けて、覇業をお手伝いいたす」


二人の密議は続く。

「敵を誘い込み、分断する」

「現代の包囲戦術で、じわじわとな」


「主公、まずは御身の養生を。この戦、主公の指揮なくば勝てませぬ」

半兵衛が気遣わしげに言う。


「フン、これしきの反動、どうってことねぇよ」

涼真は乱暴に血を拭い、瞳に野心の炎を灯す。


「徳川家光……教えてやるよ。この乱世のキングは俺だとな! この戦いで、徳川の時代を終わらせてやる!」


月明かりの下、涼真の影は魔王のように長く伸びていた。


(以下、拡張パート)


テントの外。

武蔵が見張りをしながら呟く。

「軍師様まで召喚しちまうとは……。こりゃあ本気で天下取れるかもしれねぇな」


桐生が近づき、沈痛な面持ちで言う。

「だが、若のお体が……。見ただろう、また血を吐いておられた」


「言うな! ボスが大丈夫って言えば大丈夫なんだよ! 俺たちは信じてついていくだけだ!」

武蔵が自分の拳を叩き、不安を打ち消すように叫ぶ。


離れた場所で、武田と今川の使者が密談している。

「鷹見様の召喚……信じるか?」

「信じざるを得んだろ! 竹中半兵衛が出てきたんだぞ? 俺たちは勝ち馬に乗ったんだ!」

「へへっ、違いねぇ! 天下分け取りだ!」


北条の使者が冷めた目で見ている。

「フン、所詮は利益だ。甘い夢を見るなよ」

毒を含んだ言葉に、空気が淀む。


涼真がテントから顔を出した。

「おい、まだ起きてるのか? 決戦前だぞ」


全員が慌てて跪く。

「はっ! 兵の配置を検討しておりまして!」


「感心だな。だが覚えておけ。この同盟は遊びじゃねぇ。裏切り者は即座に処分する」

涼真の冷たい殺気に、全員の背筋が凍る。


「はっ! 裏切りなど滅相もございません!」


半兵衛が後ろから現れ、補足する。

「主公の仰る通り。明朝、詳細な作戦会議を行いまする」


涼真は頷き、テントに戻った。

激痛に顔を歪める。(クソッ、また寿命が二年縮んだか……。だが、安いもんだ)


甲府城では、家光が諸将を集めていた。

「鷹見涼真が古人を召喚しただと? 笑わせるな! ただの幻術か、そっくりさんだろう!」

家光が嘲笑う。


一人の将が進言する。

「殿、しかし噂では……」

「黙れ! 妖術などあってたまるか! 明日、一万の軍勢ですり潰してくれる!」


山中にて。涼真と半兵衛の作戦会議は続く。

「半兵衛、補給線が命綱だ。そこを断てば、徳川は干上がる」

「御意。忍びを用いた破壊工作を推奨しまする」

「よし! 桐生、お前の出番だ」


外で控えていた桐生が応える。

「承知いたしました! 徳川の兵糧、一粒たりとも通しません!」


武蔵が乗り出す。

「俺も行きやす! 派手に暴れてやりまさぁ!」

「バカ、お前は待機だ。計画通り動け」


同盟内部にも不穏な空気が漂う。

北条の使者が部下に囁く。

「鷹見の小僧を監視しろ。あの召喚術……タネを暴けば高く売れる」

「承知。しかしバレたら……」

「黙れ! 虎穴に入らずんば虎子を得ずだ」


涼真は敏感に察知していた。

「半兵衛、北条の狐が怪しいな」

「主公の慧眼、恐れ入ります。監視をつけておりまする」

「いいだろう。乱世の忠誠なんざ、鉄と血でしか買えねぇからな」


翌朝、同盟会議。

半兵衛が采配を振るう。

「第一段階、兵力の統合。武田殿は先鋒、今川殿は側面支援、北条殿は殿しんがりをお願い申す」


「任せろ! 一番槍は我らが貰う!」

武田代表が吠える。


「今川家は援護射撃だ! M16の使い方も覚えたぜ!」


北条の使者が難色を示す。

「殿ですか? 一番危険な役回りでは……」

「危険? だからこそ価値があるんじゃねぇか、えぇ?」

武蔵が凄む。

北条使者は渋々頷いた。「……承知した」


涼真が立ち上がる。

「半兵衛、続けろ」


「第二段階、補給線の遮断。桐生殿が既に出立しました。三日で効果が出るでしょう」

「第三段階、甲府城攻略。主公の“神兵”が切り札となりまする」


どよめきが起きる。

「すげぇ! 徳川も終わりだ!」


涼真は痛みを堪えて宣言する。

「いいか、これはゲームじゃねぇ。負ければ全員、晒し首だ。肝に銘じろ!」

「応ッ!!」


甲府城。

徳川家光が出陣の号令をかける。

「全軍出撃! 鷹見涼真の首を我が手に!」

万余の軍勢が動き出す。


だが、涼真は既に網を張っていた。


深夜、涼真は一人、咳き込んでいた。

掌に吐き出された血を見つめる。

「クソッ……またかよ」


だが、その目に後悔はない。

「親父、前世のクソ野郎ども……。見てろよ、全員に落とし前をつけさせてやる」


野心の炎は、命を燃やして輝きを増していく。

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