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死への前借り

「鷹見様の仇討ち、見事でございました!」


桐生の声が硝煙の匂いと共に響く。

山賊たちが一斉に膝をつき、熱狂的な眼差しを向ける。

涼真は血の海に立ち、まだ熱を帯びたM16を握りしめていた。


「ああ、だが――」


答えようとした瞬間、胸の奥で爆弾が破裂したような激痛が走った。

内臓を雑巾絞りにされるような感覚。

視界が歪み、世界が傾ぐ。


「ぐっ……!」


涼真はよろめき、咄嗟に砦の石壁に手をついた。

指先が粗い石肌に食い込む。

喉から熱い鉄の味が込み上げ、ゴボリと音を立てて血が溢れ出した。

弾薬の空薬莢が散らばる地面に、鮮血が滴り落ちる。


「ボスッ!?」


武蔵が雷のような大声で駆け寄り、丸太のような腕で涼真の肩を支えた。

「おい! どうしたんですかい!? 流れ矢か!?」


涼真は奥歯を砕けんばかりに噛み締め、無理やり体を起こした。

脳裏にシステムウィンドウが明滅する。

M16、手榴弾、弾薬……大量の兵器召喚が、彼の魂を削り取っていたのだ。

今までにない反動。まるで、寿命いのちそのものをむしり取られたような喪失感。


「……なんでもねぇ」


声は低く、金属のような響きを含んでいた。

涼真は鋭い視線で全員を牽制する。その目はカミソリのように冷たい。


「戦場の後始末だ。夜明け前に撤収するぞ」


桐生が眉根を寄せ、心配そうに見つめる。

「若……ですが、お体が……」

「黙れ。動け」


山賊たちが慌てて動き出し、死体を片付け、戦利品を回収する。

涼真は壁にもたれかかり、内側から焼かれるような痛みに耐えた。

心の奥底で、冷たい事実が氷解していく。

(この異能はチートなんかじゃねぇ……等価交換だ。俺の命と引き換えのな)


時を同じくして、甲府城。


「なんだとぉ!? 小野寺勝家が全滅しただと!?」


徳川家光の咆哮が広間を揺るがす。

投げつけられた茶碗が粉々に砕け散り、床に破片を撒き散らした。

彼は支配者の傲慢さを剥き出しにし、鞭のように言葉を叩きつける。


「たかが二百とはいえ精鋭だぞ! どうやって一夜にして消えたと言うのだ!」


伝令の兵士が額を床に擦り付け、ガタガタと震えている。

「も、申し上げます……! 砦は跡形もなく吹き飛び、生存者はゼロ。現場には奇妙な焦げ臭さと……見たこともない金属片が散乱しておりました。その金属片は、まるで小さな筒のような……」


松平信綱が顔色を青ざめさせ、現場から回収された薬莢を蝋燭の光にかざした。

その老獪な知恵者が、重々しく口を開く。

「殿……これは尋常ではありませぬ。火縄銃など比較にならぬ威力と射程。敵はただの野盗にあらず……恐らくは、鷹見家の残党かと」


家光の目に、どす黒い殺意が宿る。

「鷹見だと? あの謀反人のガキはとっくに死んだはずだ! どこの馬の骨だろうが、私の庭で好き勝手させてたまるか! 松平!」


「ハッ」


「五百の兵を直ちに出せ! 最新の火縄銃を持たせろ! 逆らう愚か者どもに、徳川の鉄槌を下してやる! 血の雨を降らせてやれ!」


伝令兵が転がるように退出する。

松平は目を細め、指先で薬莢を転がした。

「殿、これは不吉です。この武器……もしや南蛮渡来の未知の兵器か、あるいは妖術か。慎重になるべきかと」


「慎重? フンッ!」家光は鼻で笑い、拳を机に叩きつけた。「徳川家に怖いものなどない! 行け、信綱。あの残党の首を持ってこい!」


夜明け。

涼真たちは山中の拠点に戻っていた。

朝霧に包まれた隠れ里に、昨夜の血の匂いが漂ってくる。


涼真の顔色は死人のように白く、足取りも覚束ない。

だが拠点に入ると同時に、彼は気力を振り絞り、全員を招集した。

山賊たちは勝利の余韻に浸りながら集まってくる。


「昨夜の戦いで、俺たちの力は証明された!」


声は枯れているが、絶対的な威厳に満ちていた。

涼真は高台に立ち、全員を見渡す。

「だが、これは始まりに過ぎない! 徳川家光はすぐに大軍を差し向けてくるだろう。気を抜くな!」


手下の一人が小声で囁く。

「おい、ボス……なんかヤバくねぇか? 顔色が……」


桐生がすかさずその男を睨みつけ、涼真に向き直る。

「若、少し休まれては? 昨夜の消耗は激しかったはず」


涼真は氷のような冷笑を返す。

「かすり傷だ。桐生、お前は過保護すぎる」


彼はしゃがみ込み、地面に指で戦術図を描き始めた。

「今から全員、近代戦術の訓練だ! お前ら素人集団を、最強の殺人マシンに変えてやる!」


武蔵が頭を掻く。

「近代戦術ぅ? 難しそうな響きですな、ボス! またあの火を噴く棒の使い方を教えてくれるんで?」


「おう!」別の手下が続く。「ボスの凄さは分かったぜ! 徳川の犬どもなんざ、返り討ちにしてやらぁ!」


士気は高い。

涼真は吐血を飲み込み、口の端を歪めて笑う。

虚弱な体躯から放たれる覇気が、山賊たちを圧倒していた。


それから三日間、地獄の特訓が続いた。

涼真は死に体を引きずりながら指揮を執り続けた。

拠点には銃声と怒号が飛び交う。

火力配置、浸透戦術、援護射撃……。

時代を超越した知識が、山賊たちに叩き込まれていく。


「いいか! 戦争は個人の武勇じゃねぇ! システム化された殺戮だ!」


涼真は講義の合間に血を吐き、袖で乱暴に拭って続ける。

「火力を集中させ、各個撃破する。これが現代戦の鉄則だ! 武蔵、お前の隊は交差射撃の練習だ。桐生、敵襲を想定したシミュレーションをしろ!」


武蔵がM16を構え、下手くそな狙いで的を撃つ。

「へへっ、ボス、こいつはたまんねぇな! 引き金を引くだけで人がゴミみたいに死ぬんだからよ!」


「バカ者、弾を無駄にするな!」桐生が叱責する。「若が教えているのは規律だ! 乱射するな!」


山賊たちは真剣に取り組む。数日で基礎的な連携ができるようになってきた。

涼真は不眠不休で指揮を執り、体重は目に見えて落ちていく。

咳き込むたびに、命が削り落ちていくようだ。


桐生が何度か諫めようとする。

「若、このままでは……」


だが涼真の凍てつくような視線が、言葉を封じる。

「若は我らの希望です。もし万が一……」


「万が一、なんだ?」涼真が遮る。「俺は退かない。訓練を続けろ!」


四日目の夕暮れ。

見張りが転がり込んできた。


「ボス! 徳川の大軍です! こっちに向かってます! 数は五百、全員火縄銃持ちです!」


涼真がガバリと立ち上がる。体がふらついたが、目には狂気じみた殺意が宿っている。

「来たか!」


彼は喉の奥で笑った。

「松平信綱の古狸め、やっと尻に火がついたか! 桐生、確認しろ」


桐生は顔を曇らせる。

「若、多勢に無勢です。それに若のお体では……正面衝突は無謀です」


涼真は獣のような目で桐生を見る。

「正面からやり合うバカがどこにいる?」


彼は地図の一点を指した。切り立った崖に囲まれた、狭い峡谷だ。

「現代戦の真髄を教えてやる。――戦場はこちらが選ぶ。敵を俺の土俵に引きずり込んで、俺のペースで殺すんだ!」


武蔵が目を輝かせる。

「待ち伏せですかい? ギャハハ! こいつは面白くなりそうだ!」


「そうだ」涼真が頷く。「全滅させる必要はない。再起不能なまでに叩きのめし、心を折る。鷹見家の復讐が遊びじゃないことを教えてやる」


部下たちが沸き立つ。涼真の悪魔的な知略に、心酔しきっていた。

桐生が呟く。

「若……その策、あまりに苛烈……」


「苛烈? 敵に情けは無用だ」


涼真は激痛に耐えながら、地図に印をつけていく。

その指先は、死の宣告を書き記しているかのようだ。


「武蔵、お前は十人連れて谷の入り口に隠れろ。敵が入ってきたら、仕掛けておいた指向性地雷クレイモアを起爆しろ。タイミングを外すなよ――爆発したら即座に十字砲火だ。一人も逃がすな」


武蔵が胸を叩く。

「合点承知! 派手な花火を打ち上げてやりまさぁ!」


「桐生、お前は退路を断て。側面から回り込み、M16で蓋をしろ。袋のネズミにするんだ」


桐生が頭を下げる。

「御意。……ですが若、ご自身で出陣なされるのですか? そのお体で……」


「俺のことは気にするな」涼真の目がギラつく。「目的は殲滅じゃない。徳川軍にトラウマを植え付けることだ! 甲斐国中に知らしめてやる。この地における絶対王者は、俺だと!」


一人の山賊が叫ぶ。

「ボス最高! 徳川の犬どもを皆殺しだ!」


「黙れ!」涼真が一喝する。「作戦開始だ。散れ!」


部下たちが配置につく。

涼真は最後に桐生に言った。

「この戦いで、徳川家光は思い知るだろう。鷹見家の亡霊がどれほど恐ろしいかをな」


「若……ご武運を」


深夜。

涼真は一人、崖の上に立っていた。

月光が彼を照らす。その姿は孤独な軍神の彫像のようだ。


体内の激痛は限界を超えていた。呼吸するたびに寿命が燃え尽きていく感覚。

だが、復讐の炎はそれを上回って燃え盛る。


「親父……見ててくれ。俺は絶対に、犬死になんかさせない」


彼は親指を噛み切り、鮮血を地面に垂らした。

赤い誓い。

召喚システムの光が明滅し、周囲の空気が凍りつく。


さらに寿命が縮むことは分かっている。だが、覚悟は決まっていた。

金色の光の中から、禍々しいほどの殺気を放つ鋼鉄の塊が現れる。

――バレットM82対物ライフル。

“禁忌の射手(Forbidden Sniper)”。


涼真は冷たい銃身を撫で、狂気を孕んだ瞳で微笑んだ。

「松平信綱……。明日、テメェに“本当の恐怖”ってやつを教えてやるよ」


夜風が吹き抜ける。

闇の中に佇む涼真の姿は、まさに死神そのものだった。

復讐へのカウントダウンが、今始まった。

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