戦術革命
翌朝。東の空が白み始めると同時に、涼真は山賊たちを広場に叩き起こした。
朝露に濡れた空気の中、眠気眼の男たちがだらしなく整列する。
「今日からお前たちを鍛え直す! いいか、お前らはただのゴロツキじゃない。俺の“軍隊”になるんだ!」
涼真が腰に手を当てて怒鳴る。
武蔵がボサボサの髭を掻きながら、あくび混じりに尋ねた。
「ボス、一体何を始めるんですかい? 人斬りの練習なら、俺たちゃあ慣れたもんですよ」
桐生が刀を突き立て、静かに諭す。
「若のお考えがあるのだ。控えろ。お前たちの我流の戦い方など、戦場では捨て駒にもならん」
涼真は頷き、木の枝を拾って地面に図を描き始めた。
山賊たちが興味津々で覗き込む。
「お前らの戦い方ってのは、要するに『わーっ』と集まって力任せに殴りかかるだけだろ? そんなもん、敵が少しでも頭を使えば一網打尽だ」
小柄な手下が恐る恐る手を挙げる。
「へ、へい……ボス。じゃあどうすりゃいいんで? 教えてくだせぇ」
涼真は不敵に笑い、地面に描いた円と矢印を指し示した。
「よく聞け! 俺が教えるのは、この時代をひっくり返す“最強の戦術”だ! まずは基本用語を覚えろ。『制圧射撃』、『交差射撃』、そして『分隊戦術』だ!」
武蔵が目を丸くして太ももを叩いた。
「はぁ!? ボス、何語ですかいそれは? 何やら難しそうで、俺たちの頭じゃパンクしちまいますぜ!」
桐生も眉をひそめる。
「若……耳慣れぬ言葉ですが、その図……理に適っておりますな。力押しではなく、獲物を追い詰める狩りの極意に似ています」
(内心:やっぱり一から教え込むしかないか。まあいい、知識の差を見せつけてやる)
涼真は枝を投げ捨て、身振り手振りを交えて熱弁を振るう。
「難しく考えるな! 要は『頭を使って戦え』ってことだ! 全員で突っ込むな。役割を分けろ!」
彼は地面の図を指す。
「例えば敵がここにいるとする。A班が正面から注意を引く。その隙にB班が横から撃つ。C班は後ろから退路を断つ。これを『包囲殲滅』という」
武蔵が興奮して鼻息を荒くする。
「なるほど! 正面から殴り合うんじゃなくて、卑怯……いや、賢く立ち回るってことですな! こいつぁすげぇや!」
涼真はニヤリとした。
「そうだ。戦場じゃ卑怯もクソもない。勝った奴が正義だ。いいか、重要なのは“火力”と“連携”だ。一人が狙われてる間に、別の奴が敵を撃つ。これで敵は手も足も出なくなる」
一人の手下が首を傾げる。
「でもボス、敵に弓隊がいたらどうするんです? 近づく前に蜂の巣にされちまいますぜ」
「ハッ、弓だと?」涼真は鼻で笑った。「俺の戦術なら、奴らに矢を番える暇すら与えねぇよ。圧倒的な火力で頭を押さえつけるんだ!」
桐生の目に理知的な光が宿る。
「若の申される戦術……もし実現できれば、少数で大軍を翻弄することも可能ですな」
武蔵が大笑いする。
「ガハハ! ボスに出会うのが遅かったぜ! もっと早く知ってりゃあ、俺も一国一城の主になれたかもしれねぇ!」
(内心:現代軍事理論はこの時代じゃチートだからな。さて、次は実演だ)
涼真は皆を見回し、宣言する。
「理屈は分かったな? じゃあ次は実戦練習だ。――全員、少し離れてろ」
深呼吸をし、システムを起動する。
『召喚――M16A2アサルトライフル! 手榴弾!』
心臓を抉られるような喪失感。寿命三年分が消し飛ぶ。
だがその対価として、涼真の手には二丁の漆黒のライフルと、数個の鉄球が現れた。
冷たい金属の感触に、涼真は口角を上げた。
山賊たちが一斉に平伏する。昨日のAKの恐怖が蘇ったのだ。
「ひいいっ! また出たぁ! 妖怪の杖だぁ!」
武蔵が一番に土下座する。
「ボス! あんたやっぱ人間じゃねぇ! 神様仏様鷹見様ぁ!」
桐生も息を呑むが、すぐに気を取り直す。
「若……その武器の威力は?」
涼真はM16を武蔵と桐生に放り投げた。
「武蔵、桐生。お前らが使い方を覚えろ。その後、部下たちに叩き込め」
武蔵は恐る恐るライフルを受け取り、赤子を抱くように震えている。
「こ、これが神器……! 重てぇ……! これがありゃあ天下も夢じゃねぇ!」
桐生は冷静に構えてみる。
「若、ご教授を。こいつはどう扱えば?」
涼真は手本を見せる。
「ここがセーフティだ。解除しないと撃てない。これがトリガー。ここを覗いて狙いを定める」
離れた大木に狙いをつける。
タン、タン、タン!
セミオートの正確な射撃。樹皮が弾け飛び、穴が開く。
「撃つときは息を止めろ。しっかり構えろ。銃身、照準、標的を一直線にするんだ」
武蔵が見様見真似で構える。
「こ、こうですかい? ……うおっ、すげぇ反動だ! 危ねぇ!」
暴発しかけて慌てる武蔵。
対して桐生は筋がいい。数発で木の幹を捉えた。
「なるほど……弓より遥かに速く、強力ですな」
周囲の山賊たちがどよめく。
「すげぇ! あんな距離から百発百中だ!」
「ボス、俺にも撃たせてくれよ!」
涼真は厳しくたしなめる。
「順番だ! まずは基礎からだ。構えがなってねぇぞ! サルのダンスじゃねぇんだ、腰を落とせ!」
武蔵の背中を蹴り飛ばして修正する。
「武蔵、手が震えてるぞ! 女を抱く時みたいに優しく、かつ大胆に扱え!」
ダダッ!
武蔵の弾が岩を砕く。
「ヒャッハー! たまんねぇなコリャ! 俺が雷神になった気分だぜ!」
桐生が頷く。
「若、この武器があれば敵は近づけません。あとは連携ですな」
涼真は手榴弾を取り出した。
「こいつは手榴弾だ。ピンを抜いて投げれば、広範囲を吹き飛ばす。……いいか、絶対に足元に落とすなよ? 自爆するぞ」
手下が興味深そうに覗き込む。
「ボ、ボス、こんな小さい鉄球が?」
「投げてみろ。遠くへな!」
ドカーン!!
爆音と共に土煙が舞い上がり、山賊たちが腰を抜かす。
「ぎゃあ! なんだこりゃあ!?」
涼真は満足げに笑った。
「これが“火力”だ。使いこなせれば、お前らは無敵の軍隊になる」
それから三日間、地獄の特訓が続いた。
谷底には絶えず銃声と爆音が響き渡る。
涼真は高台から、整列した部下たちを見下ろした。
薄汚れた山賊たちは、いまや鋭い眼光を宿した兵士の顔になっていた。
「いい面構えになってきたな。もうお前らはただの野盗じゃねぇ。立派な軍隊だ!」
涼真の檄が飛ぶ。武蔵がM16を掲げて吠える。
「ボスのために命張るぜぇ! 俺たちゃあ最強の“鷹見軍”だ!」
「オーッ!!」
全員が拳を突き上げる。士気は最高潮だ。
桐生が涼真の横に立つ。
「若、驚きました。たった三日でこれほど変わるとは……。若の用兵術、恐るべし」
涼真はニヤリと笑う。
(内心:スパルタ教育と最新兵器の組み合わせだ。負ける気がしねぇよ)
彼は遠くを指差した。
「だが、これで終わりじゃねぇ。俺たちの目標は徳川家光の首だ! そのためにはもっと力が要る。手始めに……近くの街を一ついただくぞ」
山賊たちが色めき立つ。
「街を!? 略奪ですかいボス!?」
涼真は首を横に振る。
「違う。――“征服”だ。俺たちの新しい戦術でな」
武蔵が舌なめずりをする。
「へへっ、面白くなってきやがった! ボス、どこへでもついて行きやす!」
夜。作戦会議室(と呼んでいるボロ小屋)。
蝋燭の灯りが、手描きの地図を照らし出している。
「桐生、武蔵、よく見ろ」
涼真が地図の一点を指す。
桐生が目を細める。
「若、これは甲府城……。この辺りでは最大の拠点です。人口三万、守備兵は約五百」
武蔵が頭を抱える。
「ボス、いくら何でも無茶だぜ。俺たち三十人ちょいだぞ? 正面から突っ込んだらハチの巣にされちまう!」
涼真は不敵に笑う。その瞳には、冷徹な計算の光が宿っていた。
「誰が正面から行くと言った? バカ正直に戦うのは能無しのすることだ。俺たちはもっとスマートにやる。――内部から食い破るんだ」
桐生が反応する。
「諜報と潜入……ですか? 内部を撹乱し、守りを崩すと?」
「ご名答。まずは街に人を潜り込ませ、不満分子を取り込む。噂を流して士気を下げろ。仕上げに、俺たちの火器部隊で重要施設――兵糧庫や武器庫を急襲する」
武蔵が机を叩いて喜ぶ。
「カッカッカ! ボス、あんた悪党だねぇ! いや、最高の策士だ! 商人に化けて探りを入れるってのはどうで?」
「採用だ。情報は武器だぞ。桐生、お前は潜入班を仕込め。武蔵、お前は武器の準備だ。徳川が気づいた時には、甲府は俺たちの庭になってる手筈だ」
桐生が拳を握る。
「御意。この策が成れば、甲府は落ちます。徳川への反撃の狼煙ですな」
武蔵が笑う。
「ボスの頭の中はどうなってんだ? 千人の兵より頼りになるぜ!」
涼真は地図を見つめ、野心を燃やす。
復讐劇の第二幕が、今上がろうとしている。
(以下、拡張パート)
翌日からの訓練は、さらに実戦的なものになった。
「A班、制圧射撃開始! B班、右から回り込め! 撃てぇ!」
ダダダダッ!
銃声が轟き、案山子が木っ端微塵になる。
武蔵が怒鳴る。
「コラァ! 狙って撃てっつったろ! 無駄弾使うな! 三点一线だ、忘れたか!」
手下が肩をさする。
「兄貴、肩が外れそうだ……」
桐生が冷静に指導する。
「呼吸を整えろ。若の教えを思い出せ。焦るな」
涼真も巡回し、檄を飛ばす。
「違う! 交差射撃ってのは、お互いの死角をカバーするんだ! 俺とお前で敵を挟み撃ちにするイメージだ!」
手下たちが頷く。徐々に動きが洗練されていく。
「すげぇ……これなら敵は顔も上げられねぇぞ!」
「これが“火力制圧”ってやつか!」
三日目、手榴弾訓練。
涼真がピンを抜いて投げる。ドカン!
「ピンを抜いて三秒数えろ! 投げたら伏せろ! 爆風で死ぬぞ!」
武蔵が投げて大爆笑する。
「ギャハハ! こりゃあいい花火だ! ボス、これを突撃の合図にするんですかい?」
「そうだ。一人が投げて道をこじ開け、二人が撃ちまくる。後ろの二人は背後を警戒。――完璧な連携だ」
桐生が補足する。
「若、夜襲にも使えますな。闇に乗じてこれを投げれば、敵はパニックに陥るでしょう」
夜の帳が下りても、谷には爆音が響き続けた。
山賊たちはもはや恐怖など感じていない。あるのは勝利への確信だけだ。
「ボス、俺たちなら百人の侍だって蹴散らせるぜ!」
涼真は冷たく返す。
「百人? 目標は千人だ! 慢心するな!」
最終作戦会議。
「甲府城の守備兵は五百。だが分散している。そこを突く」
武蔵が提案する。
「ボス、街に俺の知り合いの酒屋がいやす。そいつに武器を隠させましょう」
「いい案だ。桐生、徳川に不満を持つ武士はいないか?」
桐生が思案する。
「武田家の遺臣たちがおります。彼らは徳川の支配を恨んでいるはず。復興をチラつかせれば、味方に引き込めるかと」
涼真の目が光る。
「よし! それだ。まずは三人、乞食に化けて街へ入れ。情報は三日に一度だ」
武蔵がニヤつく。
「へへっ、徳川の狸親父も、足元に火がついてるとは夢にも思うめぇ」
涼真は頷く。
「ああ。寿命を四年も削ったんだ。……元は取らせてもらうぜ。俺たちの軍隊は、この時代の悪夢になる」
会議が終わり、涼真は一人夜空を見上げる。
胸の奥で燻る復讐の炎は、甲府城を焼き尽くすまで消えることはない。




