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死牢の覚醒

ジメついた死牢の闇。鉄鎖が手首に食い込み、皮を裂く痛みが走る。

鼻をつくのは、錆びた鉄のような血の匂いと、腐ったかびの臭気だ。


明日の早朝、俺は斬首される。


牢の外から、獄卒たちの下卑た笑い声が鼓膜を刺した。


「ヒャハハ! 見ろよ、鷹見たかみ家の“雑種”が震えてやがるぜ! 明日には首と胴体がおさらばだ!」

「親父同様、泣いて命乞いするに賭けるぜ! あの腰抜け大将の息子だからな!」


酒臭い息と共に吐き出される、粗野な嘲笑。

鷹見涼真たかみ りょうまは奥歯が砕けそうなほど噛み締め、震える拳を握りしめた。

悔しさが毒蛇のように心臓を齧り取る。


その時――頭蓋をハンマーで殴られたような激痛が走った。


記憶の破片が弾け飛ぶ。

コンクリートのビル群、学校の廊下、雨のように降ってくる拳と蹴り。

『失せろ、ゴミ野郎!』

嘲笑うクラスメートたちの歪んだ顔。

キキーッ! という耳障りなブレーキ音。視界が傾き、世界が暗転する。


涼真はハッと息を呑み、カッ開いた目で虚空を睨んだ。


「俺は……転生、したのか?」


前世はイジメられっ子の高校生、鷹見涼真。

今世は謀反人の息子、鷹見涼真。

二つの記憶が重なり、憎悪が活火山のように噴火する。


俺を嘲笑ったクラスメート。そして、父を陥れ、無惨な死に追いやった男。

――徳川家光、あのクソ野郎!


「ふざけんな……全員、ぶっ殺してやる!」


血管の中で力が脈打つ。殺気に当てられたのか、牢屋の隅でネズミが悲鳴を上げて逃げ出した。

空間が歪み、不可視のエネルギーが波紋を広げる。

涼真は荒い息を吐き、胸の灼熱感に手を当てた。


「これは……なんだ?」


脳内に、無機質なシステム音声が響く。


『異世界召喚システム、起動。宿主は現代兵器および歴史上の英雄を召喚可能。ただし、召喚には対価として“寿命(生命力)”を消費します』


視界に半透明のホログラムウィンドウが浮かび上がる。

リストがスクロールしていく。拳銃、戦車、織田信長……。


ハンドガン:寿命一年消費。


戦車:寿命十五年消費。


織田信長:寿命五十年消費。


涼真の心臓が早鐘を打つ。

「チート能力(金手指)……! こいつが俺の切り札か!」


ウィンドウを素早くスキャンし、脳をフル回転させる。

「まずは生き残ることだ。明日死ぬくらいなら、寿命一年なんて安いもんだろ?」


その時、足音が近づいてきた。

松明の揺れる光と共に現れたのは、三人の獄卒だ。

先頭のデブが、脂ぎった顔を揺らしながら下品に笑う。


「おいガキ。誰かさんが金を積んでな、今夜中にあの世へ送ってやれってよ。明日の処刑で恥かかなくて済むんだ、感謝しな! ギャハハ!」


後ろの痩せ男が短刀を抜き、刃に火を映しながら震える声で嗤う。

「お前の親父、死ぬ前に泣き叫んだらしいな? お前はどうだ? 土下座して『おじいちゃん』って呼べば、一思いにやってやるよ、ヒヒッ!」


三人目の大男が舌なめずりをした。細めた目は残忍に光っている。

「無駄話はいい。さっさと刺して終わらせろ。金が入ったら酒盛りだ」


切っ先が涼真に向けられ、距離が詰まる。

涼真はゆっくりと顔を上げた。その瞳に冷酷な光が宿る。


「丁度いい。テメェらで試してやるよ。――“絶望”ってやつをな」


心の中で念じる。

『召喚――現代拳銃(グロック17)!』


体から熱がごっそりと奪われる感覚。寿命が水のように流れ出る。

ズシリと右手が沈む。黒光りする鉄塊の冷たい感触に、心が震えた。


獄卒たちが呆気にとられ、動きを止める。

デブが目をこすり、少しうわずった声を出した。


「ああん? なんだその鉄の塊は? お前、妖術でも使う気かよ!」


痩せ男が半歩下がる。短刀を持つ手が震えている。

「こ、こけおどしだ! ビビらせようとしやがって、切り刻んでやる!」


大男が怒鳴った。

「やれ! 殺せば金は俺たちのモンだ!」


涼真は銃口をデブの眉間に向けた。

声は低く、前世からの鬱屈した怒りが込められていた。


「こいつは“死の制裁”ってんだよ。地獄へ落ちな」


ダンッ!


雷鳴のような銃声が石牢を震わせる。

デブの頭がザクロのように弾け飛び、血の雨が降った。

脳漿が壁に飛び散り、ビチャリと音を立てて落ちる。


「ヒッ……!? よ、妖怪だ! こいつ妖怪だあぁぁ!」


痩せ男が悲鳴を上げ、股間を濡らして泣き叫ぶ。腰が抜けてその場にへたり込んだ。尿の臭いが充満する。

大男は踵を返して逃げようとしたが、足がもつれた。


「殺すな! 助けてく――」


ダンッ!


二発目。ヘッドショット。巨木が倒れるように死体が転がる。

痩せ男が出口へ向かって這いずりながら泣きわめく。


「助けて! 化け物が!」


ダンッ!


三発目。静寂が戻った。

硝煙が漂う中、涼真は手の中の銃を見つめる。


「現代のテクノロジー(科学)は、お前らの常識じゃ測れねぇんだよ」


死体を蹴り飛ばし、デブの腰から鍵をむしり取る。

ガチャリ、と鉄鎖が外れた。

自由の味は、喉を焼く酒のように甘美だった。


涼真は死体から刀と財布を奪い、大男の服を剥ぎ取って着替えた。粗末な布が肌をこするが気にしてはいられない。

残弾、あと十二発。

十分だ。


牢を振り返る。

「前世じゃ負け犬だったが……今世じゃ俺が“王”だ」


その時、牢の外から大勢の足音が響いてきた。

「チッ、本隊のお出ましか!」


鉄格子の向こうから、二十人以上の武士が雪崩れ込んでくる。

完全武装。抜き身の刀がギラついている。

先頭に立つのは、立派な直垂ひたたれを纏い、業物を帯びた中年男だ。

山のような威圧感。声は落ち着いているが、底知れぬ陰湿さを孕んでいる。


桐生忠義きりゅう ただよしだ。徳川様が腹心にして、この場の責任者。……小僧、今の騒ぎは貴様の仕業か?」


武士たちが隊列を組み、殺気を放つ。

副将らしき男が、野太い関西弁交じりで叫んだ。

「お頭、こいつは鷹見の残党でっせ。銃声? 妖術か何か知りまへんが、バラせば終わりや!」


若い武士が早口で続く。

「囲め! 逃がすなよ、賞金首だ!」


涼真はグロックを握りしめ、弾数を計算する。

十二発対、二十数人。

勝算は薄い。だが、その目に恐怖はない。


「来いよ。現代ミライの恐怖ってやつを教えてやる」


桐生が目を細め、刃のような声を放つ。

「小僧、いい度胸だ。だが今夜が貴様の命日だ」


涼真は冷笑し、銃口を上げた。

「死ぬ? そいつはどっちかな」


(内心:この古代人どもが。刀が最強だとでも思ってやがるのか? 鉛玉の速度を見せてやるよ)


武士たちがジリジリと間合いを詰める。足音が揃う。

ドン、ドン。

涼真は半歩下がり、思考を加速させる。

視界の端でシステムウィンドウが明滅し、さらなる召喚を促す。

だが、寿命コストは……無駄遣いできない。


桐生が刀を振り上げた。

「掛かれ! 捕らえろ!」


引き金に指をかける。


ダンッ!


一発目。先頭を切って走ってきた武士の胸板を撃ち抜く。

血の花が咲き、男は悲鳴を上げて転がった。


「ぐああっ!? な、なんだこれは!?」


混乱が広がる。

隊列が乱れ、武士たちが動揺した。

若い武士が慌てた声で叫ぶ。

「弓だ! 弓で射殺せ!」


弦を引き絞る音がする。

涼真は素早く身を翻し、牢の壁を盾にした。

カカンッ! カンッ!

矢が虚しく壁に突き刺さる。


(内心:弓? 遅すぎてあくびが出るぜ)


一瞬だけ身を乗り出し、ダブルタップ。

ダンッ、ダンッ!

二人の弓兵が崩れ落ちる。


桐生が咆哮した。その声には焦りが混じる。

「狼狽えるな! 妖術だろうが数はこっちが上だ! 押し潰せ!」


雄叫びと共に武士たちが殺到する。

涼真の心臓が早鐘を打つ。

弾は有限だ。無駄弾は撃てない。

狙うは――桐生。


「まずはヘッドを潰す」


ダンッ!


弾丸は桐生の肩を掠め、血飛沫を上げた。

桐生が肩を押さえて後退る。その目に初めて驚愕が浮かぶ。

「ぐぅ……! 速い……この鉄礫、目に見えぬとは!」


副将が突っ込んでくる。刀が振り下ろされる。

涼真は紙一重でかわし、至近距離から発砲した。


ダンッ!


副将の胸に風穴が開く。男は痙攣しながら倒れた。

「お、お頭……助け……」


涼真は荒い息を吐く。銃口から白煙が昇る。

「あと八発だ。来いよ!」


武士たちの足が止まった。

古参の武士が、枯れた声で震えながら言う。

「こいつは人間じゃねえ……引きましょう、お頭!」


桐生が歯を食いしばり、怒鳴る。

「退くな! 徳川様のご命令だ、逃亡者は斬る!」


だが、士気は崩壊していた。

涼真はその隙を見逃さない。氷のような声で告げる。


「死にたい奴からかかって来い。――生きたい奴は、失せろ!」


(内心:心理戦だ。現代じゃ基本中の基本だぜ)


若い武士が震え、手から刀を取り落とした。

「こ、降参だ……!」


桐生がその若武者を背後から斬り捨てた。

「裏切り者め! 死ね!」


内輪揉めが始まった。

涼真はこの機を逃さず、連射する。

ダンッ、ダンッ、ダンッ!

さらに三人が倒れる。


混乱に乗じ、涼真は牢を飛び出した。

桐生が顔を歪めて追いかけてくる。

「待て! 逃がさんぞ!」


涼真は走りながら振り返り、威嚇射撃で牽制した。

「追ってこいよ。地獄まで案内してやる」


廊下を疾走する。背後で悲鳴と怒号が響く。

システム警告が明滅する。『生命力残量、注意』。

だが今は考えている暇はない。


別の牢へ飛び込み、身を隠す。

武士たちの捜索する声が近づいてくる。

「どこだ!?」

「手分けして探せ!」


桐生の声には、煮えたぎるような憎悪が混じっていた。

「小僧……奇妙な武器を持っているようだが、弾切れがあるんだろう? じわじわと追い詰めてやる!」


涼真は暗闇でニヤリと笑う。

(内心:勘はいいな。だが、俺の切り札を見誤ってるぜ)


扉の隙間から人影を狙う。

ダンッ!

また一人、武士が沈む。


残り弾数:五発。

出口を探さなければ。

涼真は身を屈め、巡回を避けて進む。

角を曲がったところで、獄卒らしき男と鉢合わせした。


「あっ! おま――」


ダンッ!


即座に射殺。

死体を探り、別の鍵束を見つける。

出口の大門が見えた。

だが、そこには桐生と五人の手下が待ち構えていた。


「小僧、観念しろ。無様な死に方はさせん」


涼真は銃を構え、平然と言い放つ。

「無様? お前らの死に様のことか?」


桐生が冷笑し、探りを入れるように言う。

「その鉄筒、妖術か何か知らんが……あと何回使える?」


涼真は答えず、逆に問い返した。

「徳川家光の差し金か? 親父を陥れた真実を吐けば、命だけは助けてやる」


桐生が一瞬固まり、表情を曇らせた。

「……小僧、何を知っている? 鷹見忠勝は裏切り者だ、死んで当然!」


涼真の目に殺意が迸る。

「裏切り者? ハッ、濡れ衣だろうが。吐け!」


桐生が刀を強く握りしめる。

「問答無用。死ね!」


一斉に掛かってくる。

涼真はトリガーを引く。

ダンッ、ダンッ!

二人が倒れる。


桐生が身を沈め、斬りかかってくる。

涼真は地面を転がって回避した。

近接戦!

銃把グリップで桐生の手首を強打する。

桐生がうめき声を上げ、刀を取り落とした。

涼真は銃口を桐生の胸板に押し付ける。


「言え! さもなくば撃つ」


桐生は荒い息を吐き、複雑な目で涼真を見た。

「……徳川様が、俺の家族を人質に……。貴様のその武器……不気味すぎる」


涼真は声を落とす。

「人質だと? 詳しく言え!」


その時、外から多数の足音が聞こえてきた。

増援だ。

桐生はその隙を突き、涼真の銃を蹴り上げた。

「これで終わりだ!」


涼真は舌打ちした。

(内心:チッ、油断した! 残り三発!)


バックステップを踏みながら発砲。

ダンッ!

桐生の太腿を撃ち抜く。


桐生が膝をつき、絶叫する。

「生け捕りにしろ! 奴の武器はもう使えん!」


武士たちが雪崩れ込んでくる。

涼真は脇の通用門へダッシュした。

奪った鍵を差し込み、回す。カチャリ。

開いた。


外の夜気が顔を打つ。

だが、追手が迫る。

一人が涼真の腕を掴んだ。

「捕らえたぞ!」


涼真は肘鉄を入れ、至近距離で撃つ。

ダンッ!

残り二発。

一人が死に、一人が怯む。


そのまま闇夜へと駆け込む。

背後で桐生が叫んでいる。

「城門を封鎖しろ! 逃がすな!」


涼真の心臓が早鐘を打っている。

自由だ。

だが、復讐はまだ始まったばかりだ。


(内心:徳川家光、首を洗って待ってろ。俺の覇道は、今夜ここから始まるんだ)


山林の影が見えてきた。

彼は茂みへと飛び込み、闇に溶ける。

背後では松明が揺れ、追っ手の罵声が響いている。


「クソッ! 小僧を見失った!」


桐生が撃たれた足を抑え、憎々しげに呻く。

「……報告せよ。あの小僧には、人智を超えた力があるとな」


涼真は荒い息をつきながら、大木に背を預けて座り込んだ。

マガジンを抜く。残弾、一発。

消費した寿命、一年。


安いもんだ。


「前世の“弱者”は死んだ。今世の“王”が覚醒したんだ」


拳を握りしめ、その目に揺るぎない決意を宿す。

復讐の道が、今、開かれた。

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