第二の至福
ギムレットに案内され、私たちは裏通りの一角にある彼のアジトへと足を踏み入れた。
そこは外観からは想像もつかないほど豪華だが、いかにもマフィアの親玉が住んでいるといった、重厚でどこか危険な香りの漂う場所だった。
「良いところじゃない。センスいいわね」
「さすがセレスティーヌ様。他の王族連中には、この趣味の良さがさっぱりお分かりにならないようで」
ギムレットが揉み手をしながら私を迎え入れる。
私は、ギムレットの連れの傭兵がダッシュで買ってきたマック・ナイトの「L(諸侯)」サイズセットを至福の面持ちで味わいながら、赤絨毯の上を歩いた。
「……ふう。やっぱりマック・ナイトは、この、血管が詰まりそうな暴力的な塩分がたまらないわね。」
ちなみに、私の横を歩く屈強な傭兵の肩には、新色のドリンクホルダー付き鞍が、それも「シークレット色」がしっかりと装着されている。抜かりないわね。
パサリ、と食べ終えた包み紙を指先から放す。
すかさず、反対側に控えていた別の傭兵が、空中でそれを見事にキャッチした。
アジトの中は、紳士的ではあるが、雰囲気のヤバそうな連中が揃っていた。トランプに興じている者、カウンターで高級な葉巻を燻らす者、酒を飲みながら女性といちゃついている者。
「ああ、ギムレット、着替えも頼むわ。あとお風呂も。見ての通り泥だらけなのよ」
「はいはい、お安い御用で。おい、お嬢様のために最上の準備をしろ!」
ギムレットは、さっきまでの怯えた小悪党のような顔を消し、マフィアのボスらしい堂々とした口調で使用人たちに命じた。
私は彼と共に、二階にある執務室へと向かう。
執務室に到着すると、ドリンクホルダー付きの鞍と諸侯サイズの残りを丁寧に置いた傭兵たちが、一礼して去っていった。
ギムレットは早速、壁に備え付けられた巨大な金庫のダイヤルを回し始める。
「最近、調子はどうですか?」
私は、ボブの毛並みよりも遥かに上等な毛皮が敷かれた椅子に深く沈み込み、マック・ナイトの「諸侯」サイズ、ダブルチーズサンドを頬張っていた。ふかふかの豪華な椅子に深く腰掛け、「ギロチン・タイムズ」を広げた。
『読者の首が飛ぶ前に届ける』をモットーにしているだけあって、相変わらずスピード感だけは立派な新聞だわ。「ギロチン・タイムズ」の紙面に目を走らせる。
『昨日の処刑:予定より15分短縮。執行人の手際に称賛の声』
……相変わらず、ろくでもないニュースばかりで安心するわ。残りのダブルチーズサンドを頬張る。
「まあまあかな~。そう言えば、『ウィッチハント(魔女狩り)・ポスト』は? もう取ってないの?」
小さい見出し。
聖女セシリアが追放! 漆黒公爵と恐れられるアルカード公爵の元へ!! レダニス教皇不在の珍事!
「ああ、あれは発行していた国が、魔女は戦争で役に立つとか言い始めて。急に手のひらを返して廃刊になりましたよ。」
「ギロチン・タイムズ」の広告欄を見る。
「最近、心が汚れていると感じませんか? ユニサクリファイス(誰かの幸せのために、誰かを「犠牲」にすることを推奨する団体)に銅貨3枚を寄付して、『マック・ナイト』のクーポン(諸侯サイズへの無料アップグレード券)を手に入れよう! あなたの胃袋と魂、両方を満たします。」
ギムレットが慣れた手つきでダイヤルを回し、中からずっしりと重い金貨の袋を取り出す。
「残念ねぇ。あの偏見に満ちた、頭の古い記事を読むのが一番の暇つぶしだったのに」
私が最後の一口を飲み込み、優雅に指先を拭おうとした、その時だった。
ゴガァァァァァァン!!
一階から、建物全体を揺るがすような凄まじい衝撃音が響き渡った。
私とギムレットは即座に廊下へ飛び出し、手すりから一階を見下ろす。
そこで私たちが目にしたのは……。
つい先ほどまで、整然と片付けられ、大人の社交場として機能していたはずのエントランスホール。紳士的な連中が優雅にトランプを楽しみ、カウンターで葉巻を燻らせていたはず……なのに、それが今や、入り口の壁もドアも粉々に粉砕され、瓦礫の山と化している無残な光景だった。
私とギムレットは、顎が地面にめり込みそうなほど口を空け、完全に目を点にさせて固まった。
その瓦礫の頂点。
舞い上がる埃の中から、キラリと光る銀色の甲冑を纏った「歩く天災」が、私たちを見上げて満面の笑みを浮かべていた。
「助けに参りましたよ、セレスティーヌ様!」




