血税の集積地
ボブの乗り心地は、控えめに言って「拷問」だった。
アルフレッドはといえば、前方にそびえ立つ険しい山々を指差し、目を輝かせている。
「セレスティーヌ様、見てください! あの断崖絶壁のルートを行けば、追っ手は来られませんし、何より山頂からの絶景は魂を浄化してくれますよ!」
「断るわ。絶景で腹は膨れないし、私の魂は汚れたままで結構よ。いい? あのマック・ナイトのドライブスルーがある街道にしなさい。あそこを通らないなら、私は今すぐこの雑巾から飛び降りて、自ら首を吊ってやるわ」
「……なんと、命を賭してまで、私に人の集まる場所……つまり、人々の『絆』の大切さを教えようとしてくださるのか……! 分かりました、セレスティーヌ様!」
結局、筋肉の塊は私の脅し(という名の教育)に屈し、街道へとボブを向けた。
揺られるたびに腰が悲鳴を上げる中、私は彼の背中に向かって、できるだけ冷ややかな声を投げかける。
「いい? 勘違いしないで。これは立派な誘拐よ。あなたは今、一国のお姫様の平穏を奪い、不衛生な環境に監禁し続けているの。裁判になれば、あなたは確実に死刑よ」
「ははは、照れ隠しが過ぎますよ。誘拐ではなく、救出です」
「……この男、言葉が通じないわ」
やがて、街道の先に大きな街の門が見えてきた。王都から少し離れた、物流の要所。
アルフレッドは、夕日に照らされた街並みを見て、感嘆の声を漏らした。
「……美しい街ですね。人々の活気と、歴史ある建物が調和している」
「ただの血税が集まる場所よ。あの美しい彫刻の柱一本で、私が一ヶ月に食べるフォアグラが何個買えると思っているの?」
私は鼻を鳴らし、ボブの背中から降りようとして——あまりの足の痺れに、無様にアルフレッドの甲冑に縋り付いた。
「それより、あなたお金はあるんでしょうね? 私はお城で一度も財布なんて持ったことがないの。あなたが連れ出したんだから、宿代からデザート代、もちろん『ハッピー・ナイト・セット』の代金まで、一分一厘残さずあなたが払うのよ。わかった?」
「……お金、ですか?」
アルフレッドは、自分の空っぽの腰袋をぺちぺちと叩き、爽やかな笑顔で私を振り返った。
「騎士たるもの、金銭などの世俗的な重荷は持ち歩きません。………ですがご安心を! 私には、この揺るぎない正義の心と、ボブがいます!」
「…………死ねばいいのに」
私は、街の入り口に建つマック・ナイトの看板を、血の涙を流しながら見つめた。




