表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/49

むせ返る試練

いつも通り一緒に主人公と考察をどうぞ。

恒例のオリジナル門答。

■ 以下に答え。

石窯の内部は、私の想像を絶する熱量で満ちていた。

 呼吸をするたびに、肺の奥まで熱せられた鉄を流し込まれるような苦しさが襲う。揺らめく炎は私を舐めとるように四方から迫り、出口は蜃気楼のように遠ざかっていく。


「……はあ、はあ。……ふざけないで。私のドレスが、この熱で変質しかけているじゃない」


汗の一粒すら流すまいと、私は奥歯を噛み締めて恐怖を押し殺した。

 すると、その時。焦げ付いた煉瓦の壁そのものが震えるような、低く不気味な声が窯の内部に響き渡った。


『……本日のメニューの一品は、からあげ。しかし、からあげで腹が膨れることはなかった。なぜか……?』


……問い?

 こんな、脳が沸騰しそうな極限状態の中で、この洞穴は私に「問いかけ」を強いるというの?


一瞬、意識が遠のきそうになる。けれど、門に掲げられていたあの不吉な言葉が脳裏をかすめた。

 『質の悪い食材は、灰と化す』

 ……なるほど。知性なき具材は、調理される価値もなく焼き捨てられるということね。


「いいわ。不本意だけれど、その退屈な余興に乗ってあげる」


私は足を止めた。

 思考を巡らせる。ボリューム不足? いえ、それでは答えとして品がないわ。脳と胃のギャップ? それとも、噛むたびに溢れる肉汁が食欲に火をつけてしまい、満腹中枢が作動する前に食べ終わってしまった……とか?


……いいえ、違う。

 窯の温度が、目に見えて上がっていく。壁が赤熱し、足元の石畳がドロドロと溶け始めた。

 早く正解を導き出さなければ、私はここで「焼き損じ」として灰になる。


私は深呼吸をし、喉の渇きを無視して、冷静にその言葉を反芻した。

 「からあげ、からあげ……」……。「お腹が膨れない」……。













 

「……分かったわ。答えは、それが『空揚げ(からあげ)』だったからよ。中身が空っぽだったのよ!」


『……正解だ』


声が響くと同時に、肌を焼くような熱風がわずかに和らいだ。


「ふん。くだらない。何の教訓にもならない、冷めた料理のような問いだわ。でも、『問いで空腹が満たされない』という着点だけは、皮肉が効いていて合格ね」


扇子を一度開き、自分を仰ぐ。けれど、試練は終わらなかった。


『……次の問いだ。いつも文句ばかり言っている果物は、何だ……?』


また、下俗な問いかけ。

 そんなの簡単よ。……。

 言いかけて、私は一度言葉を飲み込んだ。

待つのよ、セレスティーヌ。これは命が懸かった問い。もう少し慎重に、脳のシワを伸ばして考えなさい。


「文句」……。

 あれも無し、これも無し……梨(無し)かしら? いえ、あれは厳密には否定であって文句ではないわ。

 なき? 泣き言は文句とは違う。

 もっと、こう……直接的で、聞いているだけで不快になるような、そんな性質を持った果物……。


そうか、分かったわ。














「答えは、『モモ』よ。――もー! もー! と、いつも不満を漏らしているからよ!」


『……正解だ』


その瞬間、正面の煉瓦が音を立てて崩れ落ち、眩いばかりの光が差し込んできた。

 熱気が引き、ようやく出口が開いたのだ。


「……はあ。真面目にこんなことを考えて答えている自分が、心底馬鹿らしくなるわ。一体どういうセンスをしているのよ、この街の支配者は……」


私は乱れた髪を指先で整え、光の先へと足を踏み出した。

 

 けれど、出口の向こうから漂ってきたのは、解放の香りではなかった。

 それは、鼻を突くような不気味な「脂」の匂い。

 

 肉を焼き過ぎた後の、重苦しく、それでいて甘ったるい死の予感が鼻を刺激する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ