胃袋の洞窟、永遠という名の賞味期限
プラズマ化したオムレツで網膜を焼かれた後遺症もようやく癒えてきた頃、私たちの前に立ちふさがったのは、巨大な生物の口のように開いた不気味な洞穴――通称『エコーの胃袋』だった。
「……何よ、この入り口。粘ついていて、おまけに胃酸のような酸っぱい臭いがするわ。私のドレスが台無しよ。ベレッタ、迅速に(デス)この空間を無菌状態にしなさい」
「セレスティーヌ様、恐れながらここは、洞窟自体が巨大な意思を持つ食の審判場。出てくる料理を心から美味しいと褒め称え、その『満足の残響』を響かせない限り、壁から分泌される粘液で溶かされるという……いわば、巨大な胃袋の中に招待されているようなものですわ」
「……はあ? 私に、食べたくもないものを褒めろと言うの? この私が、世辞を言うために口を開くと思っているなら、この洞窟は救いようのない無能ね」
「エコーの洞窟」:毒舌による消化不良
洞窟の奥へ進むと、壁から生えた不気味な触手が、不格好に盛り付けられた『洞窟キノコのソテー』を差し出してきた。洞窟全体が「さあ、褒めろ」と言わんばかりに期待の震動を送ってくる。
「…………(一口食べて、即座に吐き出す)。……土の匂いしかしないわ。下処理も雑、味付けも単調。あなたの舌は家畜と同レベルかしら? もしこれが貴方の渾身の一皿だと言うなら、今すぐその胃壁を切り裂いて、野良犬にでも食わせた方がマシよ。私の味覚を、こんなゴミで汚した罪を万死に値すると知りなさい」
私の至高の毒舌が響き渡った瞬間、洞窟は怒り狂った。壁が激しく震え、天井からはドロドロとした消化液が降り注ごうとする。
「セレスティーヌ様の御言葉こそが真理。貴様のような出来損ないの胃袋に、セレスティーヌ様の時間をパッキングされる謂れはありませんわ」
ベレッタが瞬時に傘を広げ、消化液をすべて弾き返す。そして、馬車の前に立ちはだかったのは、待ってましたと言わんばかりに筋肉を躍動させるアルフレッドだった。
「おおお! なんという不届きな洞窟! セレスティーヌ様の厳しいお言葉を消化できないとは、腹筋が弱りきっていますな! 私が正義の指圧で、その胃痙攣を叩き直して差し上げましょう!!」
アルフレッドは壁面に拳を叩き込み、一分間に数千回の「正義の指圧(連打)」を繰り出した。
ドガガガガガガガッ!!
あまりの衝撃に、洞窟は「ギャアアア!」という悲鳴のような地響きを上げ、最後には「……も、もう無理です……参りました……どうぞ通ってください(絶命)」という弱々しいエコーを残して、出口の門を全力で開放したわ。
「ふん、最初からそうしていれば、無駄なエネルギーを使わずに済んだものを。アルフレッド、拳についた粘液をしっかり拭きなさい。私の視界に不潔なものを入れないで」
胃袋の洞窟を強引に通過した私達が次に辿り着いたのは、奇妙な透明のドーム状の結界に包まれた「ピクルス村」だった。ここは村全体が巨大な保存瓶の中にあるような特殊な環境で、あらゆるものの「鮮度」が保たれ、腐ることも老いることもないという。
「……あら、静かな場所ね。でも、なんだか空気が酢っぽいわ。私の肌が酸で溶けそうじゃない」
村人たちは皆、若々しく美しい顔をしていたけれど、その瞳には生気がなかった。彼らは私たちの「外の匂い」に気づくと、一斉に不気味な笑みを浮かべて詰め寄ってきた。
「美しいお嬢様……。外の世界は腐敗に満ちている。さあ、貴女もこの瓶の中に入りなさい。永遠の鮮度を……ピクルスの一部となるのです!」
「……永遠の鮮度? 冗談じゃないわ。私は常に、一秒ごとに『最高』を更新しているのよ。過去の自分を瓶の中に閉じ込めて保存するなんて、成長を止めた敗北者のすることだわ。そんな死んだも同然の美しさに、私のプライドが屈するとでも?」
村人たちが「保存」という名の誘拐を試み、粘着質のある液体を投げつけてくる。
「セレスティーヌ様の鮮度は、私が生涯をかけてパッキングしておりますわ。貴様らのような不衛生な瓶詰めなど、迅速に(デス)解体いたします」
ベレッタの短刀が閃き、村を覆っていた巨大な結界の膜を、まるでシルクを引き裂くように一閃。その瞬間、村の中に「停滞していた時間」がデリバリー(強制進行)された。
「おお! 腐敗を恐れるあまり、熟成を忘れた迷える子羊たち! 私が正義の発酵を注入し、生命の躍動を思い出させて差し上げましょう!!」
アルフレッドが叫びながら、村の広場で猛烈な勢いのスクワットを開始した。彼から放たれる「正義の熱気」が、村に立ち込めていた酸っぱい空気を一気に加熱し、停滞していた菌たちを活性化させる。
「発酵! 熟成! 正義の代謝アップ!!」
一瞬にして、村人たちの肌には「生きた証」であるシワやシミが刻まれ始め、彼らは「ああ、体が重い……でも、生きている!」と叫びながら、瓶の中から解放されたことを悟った様子。
結末として、村を覆っていた酸の気配は消え、私たちは「永遠の若さ」という名の退屈を粉砕して村を後にした。
けれど、アルフレッドの「正義の発酵」を間近で浴び続けた三頭の「雑巾馬」たちは、その毛並みの汚れが絶妙な具合に発酵し、今や「熟成肉」のような濃厚で芳醇な香りを周囲に撒き散らす『歩くご馳走』へと変貌していた。
「……セレスティーヌ様……。ボブたちから、私の食欲を刺激する……殺意(空腹)が湧いてくるのですが……パッキング(解体)してよろしいでしょうか?」
「ダメよ、ベレッタ。食べたら絶対にお腹を壊すわ。……それにしても、アルフレッド。あんた、自分の体温で馬を調理し始めるなんて、本当に救いようのない料理下手ね」
「なっ、セレスティーヌ様! 私はただ、彼らに正義の活力を与えただけで……!」
馬車の片隅では、謎の姫が「もう、お城の歴史書にある『平和な旅』なんて幻想だわ……。胃袋に食われかけ、ピクルスにされかけるなんて……」と、呪いの人形を抱きしめて震えていたわ。
「……さて。熟成も終わったし、次はもっと刺激的な『前菜』を期待しているわよ。王都の門番が、私の到着を待ち侘びて首を長くしている頃でしょうからね」
私たちは熟成された馬の香りを引き連れ、依然として混沌のハラペコニア街道を突き進んでいく。王都の扉が開くその時まで、私の毒舌が止まることはないのだから。




