摩擦熱の晩餐会
霧を抜けた先にあったのは、その名も『インスタント・ヴィレッジ』。一見すると賑やかな村だけれど、ここには恐ろしい呪いがかかっていると、腹痛(殺意)に耐えるベレッタが報告してきた。
「セレスティーヌ様……この村の料理は……完成から『三秒』以内に口に運ばないと、この世から消滅するという……呪いがかかっているそうですわ。……ああ、まだ胃袋が……殺意でパンパンです……」
「三秒? 私に、犬のようなスピードで食事をしろって言うの? 私の『優雅な時間』と『高貴な所作』を何だと思っているのよ、この村の無能な呪い師は。食事とは、銀のカトラリーが奏でるリズムと、私の吐息によって完成する芸術なのよ。それを三秒で台無しにするなんて、万死に値するわ」
私は食堂の椅子に座り、扇子でテーブルを叩いた。
「……いいわ。アルフレッド、あんたの出番よ。その無駄な筋肉、少しは役に立てなさい」
「承知いたしました! 正義の配膳、光速で成し遂げてみせましょう!!」
村の料理人が、必死の形相で『究極のオムレツ』を作り上げた。フライパンから皿へ移った瞬間、タイムリミットまで残り三秒。
「一! 二——」
「正義の超高速サーブ!!」
アルフレッドが皿を掴んだ。次の瞬間、彼の腕が残像すら見えない速度で振り抜かれた。
シュゴォォォォォン!!
あまりの速度に、空気との摩擦で皿と料理が強烈な光を放ち始めたわ。
「……ま、眩しいわよ! 何よこれ、プラズマ化したオムレツなんて聞いたことがないわ!」
私の目の前に叩きつけられた皿からは、火花と電磁波が放出され、オムレツはもはや「光り輝くエネルギー体」と化していた。
「セレスティーヌ様! 三秒以内です! さあ!!」
私は眩しさに目を細めながら、光るフォークを突っ込んだ。口に入れた瞬間、味覚を襲ったのは「美味しさ」ではなく、純粋な「熱エネルギー」と「爆発的な風味」だった。
「…………熱いわ。味が分からないじゃない。私の味覚を、核融合の実験場にしないでくれるかしら?」
「し、しかしセレスティーヌ様! 料理は消滅しておりません! 摩擦熱が呪いの魔力を焼き切ったのです! これぞ、正義の加熱調理!!」
結局、アルフレッドが村中の料理を「光速で運び、摩擦で焼き固める」という荒技を繰り返したせいで、料理にまとわりついていた「三秒消滅の呪い」は、物理的な熱量によって根絶された。村人たちは「これでゆっくり食べられる!」と涙を流して喜んだけれど、私は、私の目の前でプラズマを撒き散らす『炭化したステーキ』を見て、深い溜息をついた。
ようやく五感も元に戻り、ベレッタの胃袋(殺意)も落ち着いた頃、私たちは村を後にした。
馬車の片隅では、新入りの姫とカップホルダー人形が、プラズマ料理の余光でチカチカする目を擦りながら、寄り添っていた。
「……私、もう何が普通なのか分からないわ。痛みが味になって、殺意がお腹いっぱいになって、料理が爆発する……。ねえ、人形さん、お城ってあんなに光り輝く場所だったかしら?」
「『イエス……マイ……ロード……(網膜がパッキングされました)』」
私は、ベレッタに「迅速に、今の摩擦熱で汚れたカトラリーを磨きなさい」と命じながら、再び地図を広げた。
「……王都へ行く前に、どこかでもっと『まともな』口直しが必要ね。アルフレッド、次は絶対に私の食事を光らせるんじゃないわよ。私の胃袋は、イルミネーション会場じゃないんだから」
「承知いたしました、セレスティーヌ様! 次回は正義の適温を追求いたしますぞ!!」
三頭の雑巾馬は、メロンの匂いと焦げたプラズマの臭いを漂わせながら、依然としてハラペコニアの奥深くへと進んでいく。王都の門は、まだまだ、私たちの「食欲」という名の蹂躙を待たねばならないようだわ。




