石化村と狂信者の聖地
メロン果汁の雨に打たれ、甘い香りを漂わせながら進む私たちの前に、奇妙な静寂に包まれた村が現れた。村の入り口から広場に至るまで、あらゆる場所で村人たちが「天を仰ぎ、口を半開きにしたまま」の姿で、精巧な石像となって固まっている。
「……何よ、この村。芸術祭の最中かしら? それにしては、どの像も顔がだらしなさすぎるわね」
私が馬車から降りて不機嫌に扇子を広げると、ベレッタが迅速に周囲を偵察し、情報をデリバリーしてきた。
「セレスティーヌ様、ここは『究極のボロネーゼ』を出す店があることで有名な村ですわ。ですが、あまりの美味しさに、食べた者がそのまま感動で石化してしまうという『味覚の石化呪い』が蔓延しているようです」
私は、村の中央にあるその「究極の店」へと踏み込んだ。厨房では店主すらも、最高の麺を茹で上げた瞬間のポーズで石化している。私は、店主の指先に残っていた出来立てのスパゲッティを一口、優雅に口にした。
「……ふん。感動で固まる? 笑わせないで。ソースのコクが足りない上に、麺の芯にわずかな迷いがあるわ。せいぜい『首筋が少し涼しくなる程度』の代物よ。こんなもので石になるなんて、この村の人たちはよほど貧相な食生活を送っていたのね」
私から放たれた絶対零度の毒舌——その冷たさが、村全体を包んでいた「感動の熱」を瞬時に打ち消した。
パキパキパキッ!
広場の石像たちから一斉に亀裂が入り、村人たちが次々と「解凍」され、元の姿に戻っていく。
「助かった……! あの冷たいお言葉のおかげで、美味しさの地獄から帰ってこれた!」
「冷たすぎる! あの人の視線だけで、茹で上がった僕の脳が氷点下になったぞ!」
「おお! これぞ正義の解凍! 皆さん、冷え切った体には熱い抱擁が必要ですな!」
アルフレッドが「正義のハグ」を開始したが、興奮しすぎた彼は「この家も石化している(ただの石造りの家)!」と勘違い。次々と村の建物を「正義の解体」として粉砕していった。私は、崩壊する村を背に、再び馬車へと乗り込んだ。
石化の村を抜けた先。王都の城壁まであとわずかという場所に、異常な熱気を帯びた集落があった。村の入り口には、かつて私が箸置きにした「巨大な私の顔の岩」のレプリカが並び、村人全員が泥まみれの「雑巾馬」を引いている。
「……何よ、あの地獄のような光景は。私のセンスを冒涜しているわ」
村に一歩足を踏み入れるなり、村人たちが一斉に地面に這いつくばった。
「女神様! 美食と破壊の女神、セレスティーヌ様万歳!」
「どうか、その高貴な唇から放たれる汚物を見るような言葉で、私を罵ってください! 私をパッキングしてください!」
「……汚らわしいわね。視界に入らないで。あんたたちの存在そのものが、私の網膜に対するバイオテロよ」
私が氷のような声で一蹴すると、村人たちは「あああ! 女神様の聖なる毒だぁぁ!」「最高に蔑まれた!」と狂喜乱舞し、さらに行列をなして詰め寄ってきた。収集がつかないとはこのことよ。
「……セレスティーヌ様。このままでは、王都への入城時刻に間に合いませんわ。迅速に、村人の記憶を物理的にパッキング(全滅)して突破いたします」
ベレッタが瞬時に動いた。鋼糸を編み上げた巨大な「おやすみハンマー」を振り回し、迫りくる信者たちを次々と昏倒させ、道を作っていく。
「女神様! 正義の名の下に、皆様の煩悩を粉砕して差し上げましょう!」
アルフレッドも、村のシンボルである「私の似顔絵(下手くそな方)」を「これは偽物だ!」と叫んで粉砕。阿鼻叫喚と歓喜の叫びが渦巻く中、私たちは一気に王都の門へと馬車を飛ばした。
馬車の片隅では、謎の姫がもはや「無」の境地に達していた。
「……もう、何も言わないわ。石が人間になって、人間が罵られて喜ぶ……。これがハラペコニアの外の世界なのね。お父様、私を助けて……」
呪いの人形が、震える手で姫の肩をポンと叩く。




