メロン爆風
幻影のレストランを物理的に消去した先に待ち構えていたのは、一見すると美しい果樹園……と思いきや、衝撃を与えると即座に爆発し、粘り気のある果汁を周囲数メートルに撒き散らす『ボンバー・メロン』が自生する広大な地雷原だった。
「何よこのトラップ。一歩進むごとに私のドレスが果汁ベタベタの『メロンの煮凝り』になるじゃない。セレスティーヌ、人生最大級の危機よ。こんな不潔な場所、平然と歩けるのは泥を愛するボブ(雑巾馬)くらいなものだわ」
「……お礼を申し上げます。セレスティーヌ様の靴一足、いえ、空気一閃すら汚させはいたしません。迅速に(デス)、空中の道をデリバリーいたします」
ベレッタが瞬時に動いた。周囲のわずかな岩場や枯れ木に超極細の鋼糸を張り巡らせ、馬車ごと中吊りにした状態で空中を滑走させ始めた。これこそ、私の侍女に相応しい仕事ね。
完全なる対地回避。しかし、地上の「モモちゃん(アルフレッド)」は、その芳醇な香りに正義の血が疼いてしまったらしいの。
「おお! 熟れすぎて爆発を待つばかりの不憫な果実たち! 私が正義の手で適切に収穫し、その溢れ出すエネルギーをこの筋肉で受け止めて差し上げよう!!」
アルフレッドが地面を駆け、次々とメロンを素手でキャッチしていく。だが、あの男の「正義の握力」に加減なんて言葉はない。
彼が触れたそばからメロンが次々と大爆発を起こし、その衝撃が周囲のメロンに伝わり、平原全体が連鎖爆発を開始した。空からは、美しくも禍々しい、緑色のメロン果汁の雨が豪雨となって降り注ぎ始めたわ。
「……ちょっと、アルフレッド! メロンソーダの雨なんて、趣味が悪すぎるわよ! 湿度計が糖分で壊れそうじゃない!」
私が窓を閉めて毒を吐く中、ベレッタは空中で馬車を操りながら、ナイフを一閃させた。
「……セレスティーヌ様、ご安心を。爆風で舞い上がったメロンの果肉のうち、糖度16度以上の個体だけを、迅速に空中パッキングいたしました。……現在、アルフレッドの体熱を利用して、天然の『メロン・コンポート』へと加工中でございます」
「……あら。……なら、許してあげるわ。このメロンの雨、香りは合格点ね。むしろこの果汁、アステリアの香水よりもずっと高貴な気分になれるわ」
結局、空中を滑走していた馬車はベレッタの糸のおかげで無傷だったけれど、地上でメロンをキャッチし続け、爆風の直撃を受け続けたアルフレッドと、彼に連れられて全力疾走した三頭の「雑巾馬」たちは、全身が粘り気のある甘いメロン果汁で何重にもコーティングされていたわ。
夕日に照らされた彼らは、テカテカと不気味に輝く、『メロン騎士』の姿へと変貌していた。
「……ふぅ。正義の収穫、完了いたしました! セレスティーヌ様、私の筋肉も、かつてないほどのツヤ(糖分)を手に入れましたぞ!」
「……寄らないで。暑苦しい上に、あんたの周りにだけ大量の蜂が集まっているわよ。……でもまあ、泥臭いよりはマシね。甘い匂いを漂わせながら王都へ入るなんて、私の到着を知らせる芳香剤としては丁度いいわ」
馬車の片隅では、呪いの人形と謎の姫が、メロンの爆風による風圧で魂が抜けかけた顔をしていた。
「……死ぬかと思った……。なんで食べ物が爆発するのよ、この国は……」
「『イエス……マイ……ロード……』」
二人の悲鳴を糧に、私はベレッタが爆風の中で作り上げた『即席メロン・シャーベット』を優雅に口にした。
「……さて。メロンの洗礼は済んだわ。次は、本物の王都の門番を、私の毒舌で溶かしてあげましょう」
私たちは甘く芳醇な(そしてベタベタな)香りを荒野に残し、ついに地平線の向こうに本物の、正真正銘の「ハラペコニア王都」の城壁を捉えた?




