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フォンダンショコラの救出

「なにしてくれんのよ!!」


 私はそう叫んだはずなのに、自称・白馬の王子。通称「馬の付属品」の耳には届かなかったらしい。

 アルフレッドと名乗った男は、肩で荒い息をしながら、部屋の隅に立つ老いた影を睨みつけた。


「貴様が悪の権化、アステリア国の宰相オーギュストだな!」


「いかにも。……不作法な若造だ。貴様は何者だ」


 オーギュストは眉一つ動かさず、事務的な動作のまま腰の細剣を引き抜いた。その切っ先は冷たく、静かな殺気を孕んでいる。


「不動の聖堂騎士団、アルフレッドだ! 覚悟しろ!」


「……どっちも律儀な名乗りが長いのよ。」


 私は、投げ出されたドアの破片の隙間から、皿に残った無事なフォンダンショコラを必死に救出していた。

フッフッフッ、まあ、いいわ。これでもオーギュストは、老いたとはいえ、かつて戦場で「殺戮の騎士」と恐れられた男。あんな、甲冑だけが無駄に光っている馬の付属品なんかに倒せるわけがない。


 さあ早くあの若造を捻り潰して、新しいソファを注文させてちょうだい。


 そう確信した、次の瞬間だった。


ドゴォォォン!!


「がはっ……!?」


 信じられないことに、かつての英雄オーギュストは、アルフレッドの一撃……というより、ただの突進のような力押しで、紙屑のように吹っ飛ばされた。

 彼は壁に激突し、そのまま音もなく崩れ落ちて気絶する。


「嘘……」


 私は手に持っていたスプーンを落とした。

 かつての殺戮の騎士? 国の重鎮? 冗談じゃないわ。


思いっきり地面を踏みつける。


「ちょっとオーギュスト!! いつも偉そうな事言ってるくせに、肝心な時に役に立たないんだから! 早く目を覚まして援軍を呼びなさいよ!! この変な不審者を早く捕まえなさいってば!!」


 必死の呼びかけも虚しく、オーギュストの返事はない。ただ、床に転がった彼の剣が、午後の光を虚しく反射しているだけだった。


「……おお! セレスティーヌ様! 悪の親玉が倒れ、安堵のあまり錯乱されるとは! 無理もありません、この男の支配はそれほどまでに貴女の心を蝕んでいたのですね!」


 アルフレッドが、泥まみれの篭手で私の肩をがっしりと掴んだ。


「さあ、今のうちに! 自由の風が吹く外の世界へ!」


「嫌よ! 誰が錯乱してるって!? 離しなさい、せめてワインを、ワインをもう一口飲ませて——!! 当たり年だったのよーー!!」

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