快適軟禁生活
私がここ、通称「嘆きの塔?」ネームセンス最悪な塔の最上階に軟禁されてから、早いもので三ヶ月ぐらいが経つ。
罪状は何だったかしら。国家反逆罪? それとも王太子の婚約破棄にまつわる何か? 正直、どうでもいいかな。重要なのは「私が今、ここにいる」という事実だけ。
ここはとても静かで最高。しかも見晴らしがとても良い。
処刑されないってのは貴族や王族の特権よね〜♪
「……セレスティーヌ姫。明朝、全権は委任され、あなたの一族の名は歴史から抹消される。お労しいことに、貴女の血筋はこの塔の埃と共に、静かに腐り果てていく運命です」
部屋の隅、午後の柔らかな光が届く窓際で喋る男。そこで何故かみんな意味も分からずよくやってる。遠くを見つめて背中で語る演出を真似てる。彼は確か……この国の宰相、オーギュストだった、はず。面倒事を全部代わりにやってくれている。
白髪を完璧に整えた彼は、手元の書類から視線を外すことなく、流暢な皮肉を紡いでいく。
「絶望のあまり食事が喉を通らないようであれば、明日のメニューからメイン変更するよう指示しておきましょうか? なんと言ってもあなたにはここで無駄に生きてもらわなければならぬ身」
私は、フォークの先でフォンダンショコラをそっと割った。
温められた生地の中から、濃厚なカカオの香りが立ち上る。計算され尽くした温度。溶け出すショコラの粘度は、まさに理想的だった。
「モグ、モグ……。あら、エマ。今日の焼き時間は完璧ね。外側のわずかな抵抗感と、内側の官能的な滑らかさ。このコントラストが、退屈な午後にささやかな彩りを与えてくれるわ」
「左様でございますか。お嬢様のお口に合い、光栄です」
控えていたメイドが、手際よく皿を下げていく。
オーギュストはなにやら深刻な表情でなにか言っているようだけど、声が小さくてよく聞こえない。やっぱ歳よね。オーギュストは流麗な動作で次の書類をめくった。
「資産の差し押さえは、明日の正午に完了する予定です。かつて貴女が愛用していた宝石やドレスは、今頃は卑しい民衆の手によって切り刻まれ、安酒の代金に変わっていることでしょう。ああ、想像するだけで胸が痛みますね」
私は、宰相のすぐ横のワゴンに置かれた、冷えた最高級の白ワインを取り、ドバドバとグラスに注いでいく。
立ち上る果実の香りは若々しく、それでいて奥底に熟成された深みがある。口に含んだ瞬間に広がる爽やかな酸味が、先ほどのショコラの甘みを綺麗に洗い流していく。
「この白、少し温度が上がると蜂蜜のような甘さが顔を出すのね。エマ、次のグラスはあえて少し手元で温めてから頂くわ。変化を楽しむのが、テイスティングの醍醐味ですもの」
「畏まりました。最適なタイミングで注がせていただきます」
オーギュストは、深く刻まれた目尻の皺を微かに動かし、視線を壁のタペストリーへ向ける。
「セレスティーヌ姫。そうやって、ここで不自由な生活を謳歌していればいいでしょう。この籠から出られぬ辛さを、不自由の元、せいぜい楽しむといい」
今日の料理はいつもに増して美味しい。やっぱり丁度季節だからかしら? どれも食べ頃なのよね。夕飯は何にしようかしら。
なんだか、静けさに慣れてるせいか、塔の下から変な音がしてくる。
どうでもいいかな。
その時、けたたましくドアが打ち破られてきた。
「セレスティーヌ様! ご安心ください、このアルフレッドめが。今お助けします!」
突然、静寂が引き裂かれた。重厚なオーク材のドアが、外側から乱暴に蹴破られた。
私のお気に入りのソファにドアの破片が!!
「なにしてくれんのよ!!」
「貴様何者だ!!」
そこには、無駄に磨き上げられた銀の甲冑に身を包んだ、いかにも「正義」を煮詰めて固めたような暑苦しい男が立っていた。
でも顔はイケてて、結構好みかも。でもソファの責任はきっちり取ってもらう。
私は、口に運ぼうとしていた二皿目の小菓子を、再び刺し、ゆっくりと頬張る。
……せっかくの繊細なムースの泡が、振動で萎んでしまったじゃない。




