⑪
「…これがお前の過去と事実だ。そして、草間がお前を生かした理由でもある」
全てを語った父さんは力が抜けたように、背もたれに背中を預ける。
「ありがとう父さん」
「…今まで騙していて申し訳なかった」
父さんの目には涙が溜まっている。ずっと耐えてきたんだ。俺を支えなきゃって踏ん張ってくれていたんだ。誰よりも辛かったのは父さんだったはず。
俺は今にも泣きそうな父さんの頭を撫でた。
「男は泣いてはいけないんだよ」
「その言葉は…」
「俺の兄ちゃんの言葉だよ。夢の中でも教えてくれたんだ」
父さんは涙を堪え、笑顔を浮かべる。
「確かに、康太はよく言ってたな。兄貴…お前の本当の父親譲りなんだよ」
「知ってるよ。本田さん…お父さんにも夢の中で言われたからさ」
「どこまでも熱い人だよ。兄貴はさ」
父さんは席を立ち、コーヒーを注ぐ。それを俺に渡す。
「でも、俺にとっての父さんは父さんだよ。母さんも、友樹も唯も、大事な家族だし、過去を知ったからと言ってそれは変わらない。むしろ、より愛おしいし、父さんと母さんの息子でよかったと思うよ」
「…そうか」
父さんは本当の父さんではない。それでも、愛情をもってずっと育ててくれた。母さんも、そもそも最初は夫婦でもなかったということに驚いたが、そんなことは関係ない。
改めて、俺は幸せ者だ。そう感じられたからか、心に残っていた負の気持ちは、完全に払われた気がする。
「圭太」
「どうした?」
「…生まれてきてくれて本当にありがとう」
…心に温かな水のようなものが流れる。嬉しさ、喜び、様々な感情が胸に流れる。
「父さん」
「ん?」
「俺の父さんで居てくれてありがとう」
こんなこと言うのは恥ずかしい。でも、時には恥ずかしさを捨てて、本心を伝えることは大事だ。
思いは、心は、言葉や行動にしないと伝わらない。
父さんは気恥ずかしそうにコーヒーを一口啜った。
俺たちは本当の意味で家族になれたんだ。




