⑦
精神科の先生に案内され、施術してくれる先生と対面する。
「これは…もはや自己催眠を掛けているような状態ですね」
先生曰く、圭太は記憶を消し去ろうと自分自身に暗示を掛け続けている。これ以上心の崩壊を起こさないために。無意識下で行われているようだ。
「このままだと、脳の機能にも影響が出ます。すぐに施術を施します」
先生は圭太を仰向けに寝かせ、瞳を閉じさせた。
先生は語りかけたり、体をリラックスさせるように動かしたりとしている。
正直、効果があるとは思えない。仮に効果があったとしても、一時的なものだろう。
だが、他に圭太を救う方法はない。このままの状態にしていたら、下手したら自ら命を絶つかもしれない。
それならば、望みは薄くても掛けるしかない。
施術を終えたようだ。圭太は瞳を閉じたままである。静かに寝息を立てている。
「今までの患者の中で一番手ごたえがありました。きっと、圭太くんも心を救ってもらう時を待っていたのでしょう」
「成功ですか?」
「それは分かりません。催眠療法は私が言うのもなんですが、確実性があるものではありません。効果が出ても、それはすぐ消えてしまうかもしれません。それと、記憶を封じることが得策なのかは、これも私には分かりません」
プロなのに過信しない姿、自分の力は絶対ではないと認知できている先生のことは信頼できる。
この人に圭太を診てもらえてよかった。
「ありがとうございます」
「今、深い眠りについているので、目が覚めるまで待ちましょう」
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4時間後。圭太は目を覚ます。
「おはよう圭太くん。先生のことは分かるかな?」
目を覚ました圭太は先生を不思議そうな目で見ている。
「圭太」
俺が声を掛けると、
「おと…さん?」
心臓が高鳴る。
「圭太?」
「おとさん」
圭太が話せた。そして、俺のことを父だと思っている。
「圭太くん体調悪かったからお父さんが病院に連れてきてくれたんだよ」
「ありがと、おとさん」
「圭太!」
圭太を抱き締める。圭太はなぜ自分が抱き締められているのか状況が分からないみたいだった。
「よかった…本当によかった…」
「だいじょうぶ?おとさん」
形はどうあれ、圭太の心が救われた。心の底から安心した。本当によかった…これからは俺が幸せにしてやるんだ。
喜びで溢れていたが、先生に耳打ちされて、一気に絶望が胸に押し寄せた。
「圭太くんのお母さんはどうしますか?」
圭太になんて言えばいいのか分からなかった。




