⑤
−−−−−−康輔たちが殺された。
誕生日会から2か月が経過した頃だった。その日は圭太の誕生日だった。
父から職場に連絡が入り、告げられた。
俺は父が何を言っているのか分からなかった。理解ができなかった。
すぐに職場を後にし、指定された病院に到着した。
病院には父と母、雫さんのご家族、そして、唯一生き残った圭太が居た。
「武史」
父に声を掛けられる。母と雫さんの家族は状況を受け入れられず混乱している。
警察と病院の関係者が身元の確認をしてもらいたいということで、父と雫さんのお父さんが代表で霊安室へと入る。
俺は圭太の隣に座る。圭太は一点を見つめている。瞳に光が宿っていなかった。
…こういう時ってどうしてあげたらいいのか。
俺の手に圭太が手を重ねる。視線は変わらない。瞳に光はない。
でも、その手の温もりから、不安や恐怖、言葉で表現できない感情が伝わる。
3歳になったばかりで、この出来事を処理することは、できるわけがなかった。
俺は…圭太を抱き締めていた。
この子を一人にしてはいけない。
父と雫さんのお父さんが霊安室から出てきた。
兄貴、雫さん、康太が亡くなった事実が伝えられた。
みんながその場に崩れ落ちる。悲しみに染まっていく。
しかし、俺は悲しみよりも、今腕の中にいる圭太を守らなくてはいけないという気持ちが強かった。
圭太の瞳から涙は溢れなかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−
事件から翌日、はるかさんともう1人の女性が、兄貴の自宅近くの海から発見された。
はるかさんが女性を自分の体に紐で縛り付け、バイクで海に飛び込んだことが分かった。
なぜそのような事になったのか。俺には分からなかった。
−−−−約束ですよ!
指切りした時の笑顔が忘れられない。彼女の笑顔が離れない。あの子は、本来は多くの人の心を救える人だった。
兄貴だって、会社でかなり期待されていた。次期社長とまで言われていたぐらいだ。それに、家族の幸せを一番大事にしていた。
雫さんは、家庭をずっと守ってきた。雫さんも仕事で忙しかったが、文句を言わず、康太と圭太を精一杯支え、育てていた。
康太はヒーローが大好きな正義感溢れる子だった。きっと、兄貴の熱さと雫さんの愛情を受け取り、立派な人になっただろう。
そして…圭太はどうなる?
一度に大事な人たちをなくした圭太は?
俺の手を握りながら眠る圭太の姿を見ていると、涙が溢れてきてしまった。
俺にできることはなんだ。この子が幸せだと感じる道を歩かせるにはどうしたらいいんだ。
俺の泣き声に圭太は目を覚ます。
「圭太…大丈夫だ。おじさんがお前を守る。何があっても幸せにしてやる」
圭太を育てていく。俺の心に火が灯った。




