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「でも、本心は明実さんにバイクを買ってあげたかったんじゃないか。お前にとって明実さんは唯一の家族であり、大事な人だった。だから、本田さん殺害事件にも関与させないように本当はしたかったんじゃないか?」
草間は気の抜けた表情をしていた。何やら力が抜けたようだ。
「…面白い仮説だな。でも、悪くはない。そして、そのバイクは今どこにあるんだ?」
僕は2人を店の外に連れ出す。
時刻は午後7時。いつもの時間だ。
冷たい潮風と波の音が聞こえる。今は周囲の建物からも光は消え、人の姿も消えている。カップルのシュチュエーション的には最高だが、これは恋愛物語ではない。
僕は暗闇を指差す。
−−−−−バイクは、はるかさんと明実さんと共に海に沈んでる。
「過去の自分が言っていた『女の人と一緒にバイクで落ちてった』というのは、はるかさんと明実さんのことですよね?」
「…そうね。」
明実さんは僕が指差した虚空を見つめ、語りだす。
「はるかって子はね、あんたのことを守ってたんだよ。私はあんたを殺そうとした。そしたら、はるかが私の邪魔をした。だから、私は先にはるかをナイフで刺した。それでも、怯まずに突っ込んできてね。逆に私が返り討ちにあって死んだのさ」
−−−−−−大丈夫圭太くん。お姉ちゃんの後ろにいてね。
−−−−−−最後まで油断できない。圭太くん、強く生きてね。
「…はるかおねえちゃん」
「もうそろそろ私は幕引きかな。どう?最初に会った時、あんたたちに三十代って嘘ついたけど、騙せてたかな?」
最初に明実さんに会った時、念の為に年齢を聞いたら
三十代ですと言われた。
「騙せるわけないじゃないですか。どう見ても大学生ですよ」
「…やっぱりね。まぁ大学生も、三十代も経験できなかったんだけどね」
明実さんの体が透けていく。
「最後なんだけど、思ったこと言っていい?」
「何ですか?」
「もしもさ。私たちみんな違う出会い方してたら、違う関係性があったのかな?」
「…それは分からない」
「だよね。でも、私は信じたいな。とりあえず、みんなの分もしっかり生きなさいよ。そして、殺そうとしてごめんね。兄さんも、こんな私のためにずっと我慢してくれてありがとう。私が馬鹿なことして先に死んじゃってごめんね」
明実さんが僕と草間に手を振りながら、虚空野中へと消えていった。
またしても、残ったのは僕と草間だ。
「女子高生行方不明事件の真相は、女性2人による殺し合いの末の身投げだった」
草間は明実さんが消えた空間を眺め続けていた。




