㉑
「憎い?俺は一度も本田のことを憎いとなんて思ったことはない。ただ、ずっと隣にいたと思ってた奴がどんどん違うところに行ってしまうのが悲しかった」
「あなたからしたら大きな問題だと思います。でも、僕から言わせてみれば、そんなちっぽけな理由で本田さんを殺害しようとするのは狂ってる。あなたの行動はおかしい」
「分かってる…だから謝罪に来たんだ」
後藤さんはポケットからナイフを取り出す。僕は持っている鉄の棒を後藤さんに向ける。
しかし、後藤さんはこちらではない方向にナイフを向けている。
「勘弁してくださいよ後藤さん」
後藤さんの視線の先から草間が現れる。不服そうに、僕が持っているのと同じ鉄の棒をいじりながら。
「俺は自分の過ちに気付いた。こんなことを、私怨で動いてしまったことを心から悔いた。草間にも謝罪し、計画の中断と謝礼として俺の全財産は渡した。しかし、草間は殺害を続行すると言って止まらなかった」
「当たり前じゃないですか。ぜーんぶ持ってて、幸せな奴はこの世から消えればいいんですよ。俺はこんなにも不幸なのにさ。不平等すぎるだろこんなの」
正直、後藤さんは擁護できない。元々この人がこんな計画を企てず、踏みとどまることができていれば、こんなことにはならなかった。そして、声を掛けた奴が悪すぎた。人を殺すことに躊躇いもなく、むしろ、楽しんでいる人間だ。いくら懇願しても変わらないだろう。
「…本田。本当にすまなかった。俺がこんなことをしなければ。本当に本当に申し訳ない」
ずっと黙っていた本田さんの口が開く。
「許すわけないだろ。俺にはまだまだやらなければいけないことがある。やりたいこともある。仮に俺が殺されたら、家族はどうなる?佐藤や部下はどうなる?後藤。よく考えろ。1人の命がどれだけの人に影響するか分かるか?」
普段見せない本田さんの滲み出る怒りの感情に後藤さんは気圧されている。
「大事な友であり、仲間だから許されると思ったか?勘違いするなよ。子供同士の喧嘩じゃないんだ。謝って済む問題じゃないんだよ。俺はお前を許さない。絶対にだ」
本田さんの言葉に草間は吹き出しながら笑った。




