⑭
オフィスに戻り、ミーティングスペースの席に座る。
本田さんが気を遣ってコーヒーを差し出してくれた。
「まずは一息つこう」
「すみません。ありがとうございます」
一口コーヒーを飲む。楓の淹れてくれるコーヒーとは違い、苦味が少ない。
「佐藤、ゆっくりでいいから状況を説明してくれないか?」
僕は後藤さんとの顛末を話す。
前に見た夢の中で出てきた殺人犯、草間と後藤さんが繋がっていたこと。そのことを問い詰め、後藤さんと言い争いになったこと。そして、本田さんの殺害を企てていると予想したこと。
「…信じ難い話だな。率直に言うとあり得ないと思っている。後藤が俺に対して恨みなんてもっていないし、大体、俺を消してあいつにプラスになることなんてない」
本田さんと後藤さんの信頼関係は人並み以上に強い。だから、僕の話は、それこそ夢物語だと捉えられてしまう。
「ただ、一つ気になることはある」
「なんです?」
「草間という男。作業着を着ていたということは社員やこの会社の関係者であることは間違いないよな」
「はい」
「でも、俺はそんな名前の人は知らない。仕事柄様々な部署の人と関わるから、全員ではないにしても、会社の社員や関係している人たちの名前は把握しているつもりだ」
本田さんは顎を触りながら考え込む。
「一度人事部に聞いてみましょうか」
「たしかに、それが手っ取り早いな」
「もう一ついいですか?」
「どうした?」
「後藤さんが草間と話していたのは、仕事で大きなミスをしたことへの指導だったそうです。どうやら取引先の方に危害を加えたみたいで。そういう話って聞いてますか?」
「いや、俺には届いていない。そんな会社に打撃を食らうような事案が起きたら、すぐ伝わるはずだが」
後藤さんの発言はやはり嘘だったのか。いや、それは早計か。
一度僕たちは草間の所属に関して人事部に問い合わせることにした。




