⑩
−−−気付けば時間は戻っていた。
僕の目の前には、ビンクのホテルではなく、寂れて古ぼけた倉庫のような建物があった。
近くの公園では子供たちが楽しそうに遊んでいる。居酒屋やコンビニがあった場所には団地が立っており、小さな町だった面影は一切消えていた。
そもそも、ここが町だったのだろうか。ただ幻を見ていたのではないか。
雫さんも康太くんも、草間も、夢の中の住人。実際にいる人ではない。夢の中に感情移入しすぎてしまっていたのではないか。
心に空いた穴を埋めるように自分を納得させながら、僕は建物に入っていった。
「あら?どちらかな?」
メガネを掛けた70代ぐらいのお爺さんがいた。
「すみません。実は事件の捜査に来まして…」
僕ははるかさん行方不明の経緯を説明した。
「そういうことでしたか…この建物は団地の集会所のようなところでしてね」
この方はこの集会所の管理人をしているようだ。事件が起きた日もこのように受け付けをしていたが、女子高生が来た姿を見ていないらしい。
「そうですか…」
「これだけ広い建物ですから、もしかしたら私が見落としてる可能性もありますけどね」
「ここは昔から集会所だったんですか?」
「違いますよ。ここは30年前はホテルだったんですよ」
「もしかして…ホテルハッピー?」
「そうですそうです。よくご存知で」
−−−さっきまで体験していたことは…
「30年前、この辺りって町でしたか?」
「町と呼べるかは分からないのですが、元々は商業施設や飲食店もあって、割と賑わっていましたよ。若い人たちがよく遊びに来ていましたし、団地もなかったですしね。でも、とある事件がキッカケですっかり過疎化しました」




