第3話: 霧の谷と牙の連鎖
夜が明けると、火山の熱気は遠のき、冷たい霧が漂う谷に立っていた。佐藤太郎、生き残り3日目。足元の苔は湿り、靴底が滑る。空は灰色の雲に覆われ、視界は10メートル先まで。木々の間を縫う風が、ざわめく葉音と混じる。遠くで甲高い鳴き声。鳥じゃない、恐竜だ。鼻を利かせると、腐臭。近くに死骸がある。
「動くぞ。一歩間違えたら、食われる。」
背負った石のナイフと棘植物の汁を入れた皮袋が、唯一の装備。青い光の力は頼りだが、使いすぎると頭がクラクラする。霧の中、シルエットが揺れる。デイノニクス? 群れで動く奴らだ。足音を殺し、苔むした岩に身を隠す。心臓がバクバク。奴らの爪が地面を引っかく音。獲物を探してる。
岩の隙間から、谷底を見下ろす。そこには巨大な死骸。トリケラトプスだ。角が折れ、腹が裂けてる。ティラノサウルスの仕業か? 血の匂いが霧を濃くする。食料になるが、危険すぎる。だが、腹は限界だ。昨日から汁しか飲んでない。
「賭けるしかねえ。やるぞ、俺。」
光の力で、岩を浮かせて囮に。デイノニクスが反応し、岩に群がる。隙を突いて死骸に近づく。ナイフで肉を切り出す。生臭さが鼻をつく。血が服に飛び、冷や汗が混じる。10キロの肉を確保。重い。皮袋に詰め、逃げる準備。だが、霧が裂け、巨大な影。ティラノだ。目が俺を捉える。口から滴る唾液、牙が光る。
「見つかった……逃げろ!」
光で自分を加速、谷の斜面を駆ける。ティラノの咆哮が背後で炸裂。地面が震え、木が倒れる。霧が晴れ、川が見えた。水音が轟く。飛び込む賭け。光で水面を固め、滑るように渡る。ティラノは川辺で足を止め、吼える。助かった……か?
川の対岸、倒木の陰で息を整える。肉は無事。だが、濡れた体が冷える。火を起こす。光で火花を散らし、枯れ枝に点火。肉を炙る匂いが広がる。腹が鳴る。初めてのまともな食事。だが、霧の向こうで新たな影。人間? いや、服を着た少女。槍を持ち、俺を睨む。
「お前、転生者だろ? ここで何してる?」
彼女の声は鋭い。敵か味方か。谷の霧が、俺の運命を隠す。