08-16.皇女の祝福。
ジャクソン教授に「ダンジョン化などの危険もあるので、増産より危険性の究明を優先してほしい」と告げ、エミリアたちは研究室を後にした。
エミリアはマナとアイーナを引き連れ、そのまま街中へ歩いて出る。日差しが中天近くなっており、じりっと焼けるような感じがする。だが風はからっとしており、心地が良かった。
(もしセラフ王子が3つ〝魔核〟を持ち出していて……それを爆弾にした、としても。正直、ちょっと探し出せないわ。王子本人や、諜報員をとっ捕まえておくくらい? 本国に持ち帰られて、製作されてたら……もうどうしょうもないわね)
エミリアは口に出さず、暗い気持ちを胸の奥に押しこめた。〝魔核〟や爆弾の製法は古代西方から伝わったものだとするなら、セラフらが知っている可能性は十分にある。そのまま国元で爆発させられたら、巻き添えで全滅だ。
(場合によっては、〝魔核〟や……アイーナのスキルなどを用いて、〝魔核〟や〝魔核爆弾〟を封じるようなスキルを生み出さないといけないかも? そんなこと、可能かどうかすらわからないけれど)
「本質的に魔力の塊に過ぎないから、安全に解体するのは難しくないと思う。万が一を考えて、3個以上は作らないようにしてもらわないとだけれども」
隣を歩くアイーナが言っているのは、あくまでジャクソン教授側の懸念だ。エミリアは自身の不安を伝えてしまわないように、笑顔を作る。
「アレって、もっと白い感じのやつよね?」
マナや通行人もいるので、ぼかして尋ねる。もちろん……〝魔核爆弾〟のことだ。
「そう。スキルの中に、使用すると魔力が減るんじゃなくて、高まるものがある。そういうのを引っ付けて、魔力をさらに収集して起爆するのよ」
おおよそ、ゲーム三作目の展開から想像できる答えを返され、エミリアは頷く。だが気になることがあり、口を開いた。
「使うと魔力が減るとか高まるとか、どう見たらわかるの? 魔力って、目に見えないし。計測もできないでしょう」
「外側からは区別がつきにくい……私やガレットは減る方だった。あなたとかイリスちゃんとかは見てる感じ、増える方かも」
使うと魔力が増えるスキル。確かに使用時に昂りのようなものを覚えるが、それだろうか? エミリアは小首を傾げる。
「増える場合はどうなるの? 精神が影響を受けるでしょう」
「昂って、徐々に心のありようが変質していくはず。減る方は底があるから、それを下回ると気が狂っちゃう」
「変質……だんだん恋をしてくとか、そんな?」
眉根を寄せ、エミリアは自分事に当てはめて口にした。横を歩いているアイーナは、目を丸くしている。
「私はスキルを使うと〝もやもや〟したものが大きくなるのを感じていて……さっき〝魔核〟に〝もやもや〟が吸われたの。あれが魔力だとすると……嫉妬とか、好意とかに影響していた、気がして」
「そうなんだ? 良い方じゃない? 社会生活を送るのに、不便がないなら」
アイーナの返事に対し、エミリアは口元を歪めた。思いっきり人生に影響があったのだから。
「好きになったのが女の子なんだけど。しかもお互いに魔力の影響っぽい」
「あっ。あー……お互いに? そんなことある? 魔力の性質って、結構千差万別みたいだけれど」
そう言われ、エミリアは首を大きく傾げる。確かにエミリアが見たことのある、スキルの影響と思しき〝癖〟は、人それぞれだった。
(魔力の性質……スキルの影響……スキルは、精霊の祝福…………)
知っていることを、ぼんやりと頭の中で巡らせる。答えは出ず、思いついたことを口にした。
「祝福。精霊の祝福って何なの? アイーナは祝福を与えるのよね?」
「感覚的には、だけど。魔力を整える。スキルという形で発現しやすいように」
期待せず聞いたつもりだったが、答えが返ってきた。アイーナは自らのスキルによって、なんとなく理解があるようだ。
「スキルそのものを与えるんじゃないんだ? ということは……精霊の祝福によって魔力の性質が変わる?」
「だと思う。あくまで整えるだけで、自由に変えられるわけじゃないけど。だから、モノにスキルを与えるとなると大変。魔力を与えて、その上でになるから」
「ほぉー……」
エミリアは思わず、感心した声を上げる。アイーナは「ふふん」と実に得意げで。
「お姉さまはやっぱり、すごいですね……いろんなことが、わかってらっしゃって」
間に、マナが割り込んできた。ずっと話を聞いていたようで、笑顔がキラキラとしている。
「そうでもないわよ? だいたい憶測。ちゃんと科学してないもの」
(この子、前世科学者だったりするのかしら? ずいぶん幼いから、元が学生かとも思ったけれど)
一転して顔を赤くし、微妙な顔をしているアイーナを見て、エミリアはそんなことを考える。
「精霊様も、いらっしゃられるということなんでしょうか」
「観測が難しいけど、たぶん? もしかしたらスキルって、親兄弟とか友達の影響で魔力が整って、使えるようになってる可能性もあるし。でも」
エミリアがぼんやりしている間に、二人の話が進んだ。アイーナはエミリアをじっと見てから、にっと笑みを見せる。
「私やエミリアみたいな、特殊な例を考えると……いるんじゃないかな、って気がするね」
(転生者……。精霊が皆、転生者の魂だとは限らないとしても……転生者は、精霊? アイーナは祝福を与えられる。私も、イリスに……)
思考が明後日に行き、エミリアは小さく首を振った。
(いや、違うか。イリスはどこかの精霊の祝福を受けて、魔力が高まる方向のスキルを手にした。それで強くなっているだけ。でもあの時の、アレは……)
「ところでエミリア。これからはどうするのです? 外に出てきて」
「ん? ああ。ちょっとガレットに話があって。今日は外回ってるはずなのよ」
マナの声に引き戻され、エミリアは街中を眺める。そろそろ、中央広場に近い。すぐ見つかるとは思わなかったが。
「あら? エミリア。マナ様と…………アイーナ様。本当に、戻られたのですね」
緑の瞳をしたすらっとした女性に、声を掛けられた。お目当ての侯爵令嬢、ガレットだ。
「ん。これからもよろしく、ガレット。調子はど? スキル、また使ったんでしょう?」
「平気です。アイーナ様こそ、どうかお気をつけて」
「あー。私はなんか、スキル使えなくなっちゃって」
ガレットとアイーナの会話でとんでもない話が出て。
「「「え?」」」
エミリア、マナ、ガレットが呆然と声を上げた。
「〝魔核〟に飲み込まれて、気づいたらダンジョンになっててさ。スキルをあれやこれや使って、なんとか体を用意したけどスライムでねぇ。その後にマナに会ったんだけど、なんかあれ以来全然ダメで」
「そんな! お姉さま、どこかお加減が……!」
エミリアが唖然としていると、マナがアイーナに詰め寄った。当のアイーナは真っ赤になって、顔の前で手をぶんぶん振っている。
「あああいああいやそんなことないよ大丈夫!?」
「本当、ですか?」
「ぅ、うん」
マナはとても心配そうな顔で、眉尻を下げ、瞳の端には涙すら浮かんでいた。顔を逸らしているアイーナは、バツが悪そうだ。
(この二人……両想いだけどかみ合ってない感じねぇ)
エミリアは思い付きを、ため息とともに口にした。
「スキルが使えなくなったんなら、もう心を病むこともないんでしょう? ありがたいんじゃない?」
「それはまぁ、そうかも……?」
「よかった、お姉さま……」「本当に、ほっといたします」
マナとガレットがほっとした様子で、エミリアも頬を緩めた。
(あれ?)
その頬がひくつき、表情が密かに凍り付く。
(アイーナが祝福を与えられなくなったなら……爆弾対策、一つ減ったってことじゃ?)
大爆発して大陸が更地になる……そんな幻想が頭をよぎった。
エミリアは泡を噴きそうになるのを堪えながら、気取られぬように笑みを浮かべ続けた。




