表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/111

07-20.私の祝福を、愛しいあなたに。

 遠くの山で精霊竜がもがき、起き上がろうとしている。巨木の先端に立っていたイリスが、竜を目指して跳んでいった。


(イリス……異常、だわ。前はジーク王子のスキル〝いと高きハイヤーセルフ〟に力負けしていたはず……向こうは二重に強化(バフ)がかかっていた、とはいえ。こんな)

「彼女の〝才能(タレント)〟というスキル……これほどのもの、なのですか?」


 ドニクスバレットに尋ねられ、エミリアは首を振る。


「わからない。でも、こんなの変よ。そんな長く持つとは……思えない」


 遠く彼方で、イリスは格闘戦を演じているようである。イリスの影は小さく、竜が暴れて、倒される様子しか見えないが。


「エミリア! あれは……」


 後ろから声を掛けられ、エミリアは振り返る。ゾランダルの私室に駆け込んでくる、少女と青年の姿があった。


「マナ、ジャクソン教授!」

「とんでもないものが、見えている気がするね……」


 ジャクソンとマナを見つめ、エミリアは口を開く。


「二人とも、避難して! またこっちに来るかもしれない!」

「そういうことなら、エミリア! あなたも――――」


 マナが部屋に踏み入ってきて。

 その真ん中で。


「あ、なに? 体が、動かない」


 立ち止まった。

 否――――何かに止められていた。



「動くなよ、お前たち」



「ハッ、ゾランダル!?」


 うっすらと、ヒビの入った眼鏡をかけた、皇子がその姿を現す。彼はマナを後ろから、羽交い絞めにしていた。


(しまった、潜んでいた! 部屋から出て逃げる機会を、窺っていたの!?)

「お兄さま!? いったい、なにを……」

「うるさいうるさい! この女ども!」


 ゾランダルが笑みを――――狂乱を見せる。


「私を、この私を追い詰めやがって! 私が何をしたっていうんだ! 私は! 私はアイーナの! あの女の尻ぬぐいをしているだけだというのにッ!」


 喚くゾランダルに対し、エミリアは思わず、踏み込むのをためらった。武器は持っていないようだが、いつ実の妹を絞め殺しにかかるか……わからない。


「どういう、ことです、お兄さま……!」

「昔から無茶苦茶やってたあいつ! アイーナッ! 暴れて捕まったというから見舞いにいってやればッ! 妙な玉を残して消えてやがった!」

(っ!? あれか、アイーナが消えた時の……玉って? まさか、〝魔核〟?)


 口角から泡を噴き、ゾランダルが喚き散らしている。エミリアは眉根を寄せながら、視線を走らせた。ディーバートが様子を窺っているが、明らかに警戒されており、飛びつくのは難しそうだ。


「あのクソ玉……あの女みたいだ。落っことしたら、そのままダンジョンになんてなりやがって! 人に迷惑かけてる、アイーナそのままみたいな奴だッ! 私はそれを処分しただけだッ! あの女のやらかしを、なんとかしたかっただけなのに! 大学にまであんなに数があって! アイーナ、おのれアイーナッ!」

(えぇ……? どういう、こと? こいつは〝魔核〟が危ないものだと知って、処分しようとして……というか持て余していただけってこと?)


 エミリアはわけがわからず、混乱した。ゾランダルは錯乱して真実を語っている……ようでもある。精霊竜が明るみになってしまい、もう取り返しがつかないからと、パニックになっているように見受けられた。


「送りつけた父上は、とんでもない謀略に使いやがって! あのセラフも、どうするつもりかわかったもんじゃない! だから、だから……!」


 だがそれにしても、あんまりである。彼が保身のために行ったことが……帝都を混迷の底に陥れた、などと。

 エミリアは取り押さえようと、飛び掛かる機会を窺い。



「お前を作ったんだ、アイーナッ! やれ! そんな偽皇帝、蹴散らしてしまえッ! そらよッ!」



(しまっ!?)


 ゾランダルが、手の中から何か黒いものを投げたのに、反応できなかった。

 エミリアは振り返って、視線で追いかける。それは途中で()()なって、一直線に山の彼方まで飛んで行った。怪獣に直撃し――――倒れていた竜が、勢いよく起き上がる。


「イリス!」


 エミリアは思わず叫ぶ。

 黒い墨のような模様が滲んだ精霊竜は、俊敏で。

 その前足が、振るわれると。

 何かが、飛んできた。


「きゃっ!?」「なんだ!?」


 振動、轟音。そして土煙。

 埃が晴れた後には。


「イリス!?」


 バルコニーの手すりを砕き、床に直撃した……イリスの姿があった。


「イリス、しっかりして! イリス!」


 エミリアは近寄り、ひざまずき、イリスを抱き起す。素早く出血がないか、痛みや折れているところがないかを確認した。


「ぐ、あいつ、急に、強く……」


 イリスが震えながら、力をいれようとして……起き上がるのに失敗している。傷はないが、ダメージが深いようだ。


(なんて、こと。あっ、これ! 傷じゃなくて……疲労が限界、なんだ)


 エミリアは直感し、青ざめる。イリスはもう、限界なのだ。スキルの使い過ぎが、体にきているのだろう。


「ハハアハハ……あと一つだ、ようやく、これで……全部始末できる! なかったことに!」


 しんと静まり返り、遠くからの振動だけが聞こえる中。

 ゾランダルの叫びが、耳に入った。

 そして。


「なによ…………」


 怒りをにじませる、マナの声も。


「お兄さまが悪いんじゃないの! あなたが余計なことしなければ、こんなんことにはならなかったのにっ!」


 羽交い絞めにされながら、マナが叫んでいる。エミリアはイリスを抱き寄せながら、彼女たちと、遠くの怪獣を交互に見る。


「なんだと!? 可愛がられていたお前やディランには、わからないだろうがなッ! こうでもしなけりゃ、あいつはまたとんでもないことを……!」

「第一、あれがお姉さまですって? 作ったですって? ふざけないでよッ!」

「ほぎゃっ!?」


 何か透明なものが、マナのスカートからするりと出て……一瞬で、ゾランダルを引き倒した。


(あれ、スライム!? まだマナについてたの!)

「なんだ、こい、つ」


 マナが巻き込まれたダンジョンからついてきていた、スライムだ。ゾランダルに絡みつき、彼を抑え込んでいる。マナはせき込んでから、兄を見下ろしていた。


「お姉さまは! アイーナお姉さまは! あんなところにはいないわよッ!」


 マナが精霊竜を指さしている。徐々に城に近づいてきている竜を思い出し、エミリアは。


(ハッ、〝魔核〟!)


 ゾランダルの手から転がり出た、最後の〝魔核〟に手を伸ばす。イリスを抱えながら、限界まで体を伸ばして。


(これをうまく使えば……いえ、せめてゾランダルに使わせないように! ――――え?)


 だが、玉に素早くスライムが伸びて。

 魔核を取り込んだ、スライムが。

 にゅるっと、絡んで。


「……………………えっ?」


 エミリアの手に、吸い込まれた。


 視界が、眩い何かに塞がれる。



 ☆ ☆ ☆



 一瞬の、間。

 光り輝く、どこかで。


「エミリア。どうか彼女に、祝福を」


 黒い髪、黒い瞳。確かにどこか、自分に似た、彼女に。

 エミリアは、そう願われて。



 ☆ ☆ ☆



『ガアアアアアアァァァァァ――――ッ!?』



 光が晴れ、視界が戻る。

 遠く、咆哮と震動が響く中。


「エミリア、様?」


 腕の中には、傷だらけのイリス。


(イリス…………)


 彼女を目にした途端。

 ぶわり、と。


 〝もやもや〟が全身に、広がった。


 それは体の外にまで出て――――虹の、光となる。取り込んだ()()が、力を与えてくれている、ようで。


 輝きが。〝もやもや〟が。

 どこまでも強く。


 七色に光って、燃え上がった。


「しゅく、ふく。私が」


 エミリアは呆然と、呟く。腕の中のイリスを、強く抱きしめて。

 思い出すのは、イリスに初めて会った時のこと。

 彼女に感じた、眩い輝き。

 心惹かれる、魂の光。

 強い、想い。


 ――――前世からずっと、彼女の力に、なりたかった。


 世界のヒロインに。

 その苦難多き人生に。

 どうかもう一筋の、祝福を。


「イリス――――」


 溢れる虹の光が、イリスに注がれていく。

 彼女の〝才能〟を、より輝かせていく。

 かつて()()()()()()祝福を。

 世界の何よりも。眩く。


「大丈夫。私がずっと、ついているから」

「エミリア様……」


 エミリアは手の中から、剣を取り出す。その刀身は白銀ではなく、虹の光となっていて。


「行ってらっしゃい」


 柄が、エミリアから、イリスに渡された。

 イリスは立ち上がり、頷く。

 エミリアは笑顔で。

 彼女を見送った。


 聖剣を手に、再び〝万才の乙女〟が空に飛び立つ。その向こうには、漆黒を白銀ににじませた、精霊竜。竜の獰猛な顔は、怒りを示しているかのうようで。その大きな叫びは、悲しみの嘆きを表すかのようで。


「イリス……あなたが力を使うなら、私がいつでも補いましょう」


 エミリアは立ち上がり、遠くなる背中を見つめる。


「あなたが心を痛めるのなら、私がいつでも癒しましょう」


 イリスが虹を振り上げる。


「私の祝福が、どうか」


 光が駆ける。

 森が割れる。

 山が裂ける。



「あなたの幸せと、なりますように――――」



 怪獣がゆっくりと。

 左右に分かれて。

 倒れた。



「す、ごい」「まじかよ、やりやがった……」「イリス様……エミリアも! すごいわ!」


 仲間たちの言葉が、背中にかかる。エミリアは誇らしげに、穏やかにほほ笑んで。遠くのイリスと、竜の亡骸を見つめた。


 二つに割れた巨獣は、光の奔流を放って。

 世界を輝きで、満たした後。

 静かに消えてなくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

――――――――――――――――
婚約は破棄します、だって妬ましいから(クリックでページに跳びます) 
短編版です。~5話までに相当します。
――――――――――――――――

――――――――――――――――
伯爵になるので、婚約は破棄します。(クリックでページに跳びます)
新作短編、6/14(土) 7:10投稿です。
――――――――――――――――

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ