表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/111

08-27.二人の王子。

 家族に結婚を認められ――――およそ一週間。ついに、この日が来た。エミリアは領都のある小山の麓、小高い丘に立ち、遠くを眺めている。公式な会談の日ではあるが、何があるかわからない。そのため今日は、男装だ。


「エミリアさん、来たよ」


 伝令の言伝が背後から、聞こえた。イリスの弟、三つ子の一人のレヴァイだ。


「ありがとう。烈火団も配置について。予想通りなら、敵は全戦力を集めてくるわ」

「抜かりはないよ。任せて」


 少年がそう言って、走り去る。丘にはまた、エミリア一人となる。非常に遠くに、馬と馬車らしき列が、見えていて。


(いよいよね……国王陛下のお出ましだわ。それに、あれは)


 さすがにここからでは判別がつかないが……馬上の一人はおそらく、ジーク第二王子。エミリアの、元婚約者だ。


(火種にならなければいいけれど。火種、と言えば)


 エミリアは振り返り、小山の上――――領都上空を見上げる。首の長い影が、翼を羽ばたかせていた。


(作戦、失敗したのよね。あまりに高空で、スキル持ちの放った弓も届かない。イリスや私が聖剣の〝(ソード)〟を撃ったけれど、それでも届かなかった。なぜか昨日今日は、ずっと領都の上を回ってるし……と、いうか)


 雲が風で流れ、日差しが姿を現す。眩しそうに光を手で遮りながら、エミリアは天高くの影を睨むように見上げた。


「あの竜。なんか……最初よりずっと高く飛んでて、しかもひょっとして」


 眉根を寄せ、呟く。それは小さな……不安。


「――――大きく、なってる?」




「エミリア様! 先触れが来ました!」




 イリスの声にハッと意識を戻す。振り返り、彼女の姿を見つけた。


「わかった、今行く!」


 声を張り上げてから、丘を下ろうとし……ふと、また背後を振り向く。雲が動いて、空に架かり。


(何もないと、いいけど)


 白銀の竜を、覆い隠していた。



 ☆ ☆ ☆



 公爵も国王も、まだ会談の天幕には入らない。その前に、両陣営の警備担当者が、互いに周辺をチェックする段取りになっている。エミリアの兄、サイクルの提案が採用され、このような運びになっている、わけだが。


「久しいな、エミリア。それにイリス」


 馬に乗って高くから見下ろしてくる貴公子は……オレン王国第二王子、ジーク。王国側の警備責任者は、彼だった。


「ええ、お久しぶりです。ジーク殿下。聖剣紛失の咎で、しばらく罰を受けてらしたとか?」

「そちらは帝国の騒ぎにだいぶ噛んでいたようだな。心躍る報告だった」


 挑発するようにエミリアは言葉を放ったが、簡単にいなされた。


(以前はもっと軽薄で……どこか周りを他人事のように見ていた方だったのに)


 エミリアの知る過去の王子とも、最後に会った時とも反応が異なり……彼女は少々、面食らう。会わぬ間に、威風堂々たる王子へと成長を遂げたようだ。


(なるほど。学園のころから()()だったら、私は逃げられなかったかも、しれない)

「急ぎ見回るゆえ、このままで失礼。()()側に、情報の共有をお願いしたい」

()()()だろう? ジーク殿」


 背後からかかった声に、エミリアは振り向く。浅黒い肌、場にそぐわぬほど高貴な装いの男が、歩み寄ってきていた。


(セラフ・レモール第十六王子……よくものうのうと、出てこれたものだわ)


 奥歯を噛みしめ、瞳の色を隠し、エミリアは平静を装って出迎える。淑女の礼も取らず、ただ待った。


「公国で合っている。はて、貴国にはまだ報せが届いていないのかね」

「…………どういうことだ、ジーク殿」


 馬上からジークが応えると、セラフが剣呑な声を返した。エミリアはほくそ笑みそうになり、また表情を消す。


「まさか、式典が終わってからの独立だと思っていたのか? 公爵領独立の承認は、とうに済んでいる。今回は、国家元首同士の初会談となるものだ」


 目を見開いたセラフに対して、エミリアは視線を流して合わせた。


「レモール国は、()()()()()()をお持ち、だそうですが」


 薄く笑みを浮かべ、告げる。そう。


「休暇でも出されたのですか? セラフ王子」


 お前の諜報員は、すべて捕まえた……そう意味を込めて。


「――――ッ!? ……失礼する」


 セラフが背を向け、足早に立ち去る。エミリアの視界には、彼に注視する者たちがおさまっていた。彼らが各々動き出すのを眺め、頬を緩める。


(公爵領側だけではなく、王国側でも身動きを封じられていたようね。さて、どう動くかしら)


 彼の背中を見ていたら、ジークが馬から降りて、近くに立った。少し距離をとりつつも、エミリアは幾分肩の力を抜き、彼と向き合う。


「おおよそはわかった。助かった、エミリア」

「いえ。警備については、あちらの担当者とお話ください」

「ありがとう。ところで」


 エミリアはディアンとガレットを見かけ、彼らを示したが。


「あの竜らしきものは」


 王子の関心は、別のところにあるようだった。彼は遠く領都上空の影を、見ている。


「今のところは、よくわかっていません。手の出しようがない高空におり、対策を協議中です。ゆえ、会談は街中を避けました」

「そうか…………気になるな」


 ぼそりと呟いたジークに、エミリアは少々の不安を覚える。しかし彼が視線をこちらに戻したので、背筋を正した。


「エミリア、イリス。二人とも。少しだけ、良いか」



 ☆ ☆ ☆



 馬を降りたジークが、先を歩く。エミリアとイリスは彼に続き、ひとけなく声が届かないところまで連れ出された。無骨な岩と乾いた地面があるだけで、他には何もない。


「招待は……断らせてもらおう」


 ジークが振り返り、そう切り出した。エミリアは思わず頬を歪め、反論しようとしたが。


「王族と、それから帝国の主だった皇族は招待させていただいているのです。ジーク様がわがままで辞退されると、こちらが困ります」


 イリスが割り込み、機先を制した。


「言ってくれるな、イリス。私に恥をかけと、そう言うのか?」

「逃げるなと言っているのです。ジーク・オレン」


 二人が、明らかに感情を込めて。


「エミリア様は、わたしのものだ」

「それは、公国の行く末をもって判断するべきことだ」


 言葉をぶつけ合う。しばし睨み合ってから。


「式で見極めるようなことではない。なれば」


 どちらともなく、二人ともがエミリアを見た。


「慶事に昔の男など、不要であろう」


 エミリアは今度こそ呆れ、ため息を吐く。理屈はわかるし、感情的にも理解するが、そんなのは通らないのが王侯貴族の結婚というものだ。


「その理屈だと、私。招待から外さないといけない人が、あと何人かいるのですが」

「なん、だと」


 エミリアがやり返すと、ジークが思った以上に驚きを見せた。


「いや、君の魅力ならば、さもあらん……だが、いや。いったい誰が?」


 たじろぐ彼に、エミリアは小首を傾げる。それから、該当しそうな者たちを告げた。


「帝国の皇帝と、第三皇子も念のためということに。別に、関係があるわけでは、ないですが」

「これは――――くく、いや、すまん。ふふ……笑いが、とまらん」


 何がおかしかったのか、ジークが腹を抱え、肩を震わせている。エミリアは眉根を寄せ、視線を逸らした。ちょうどイリスと目が合って、お互いに肩を竦め合う。

 そうこうしていると、大きなため息が聞こえ。

 ジークが顔を上げ、真っ直ぐに立った。

 エミリアを真っ直ぐに、見ていた。


「私は正しかった。君こそが光だ。世界の頂点たる輝きだ」


 とても、とても。

 晴れやかな顔で。

 遠く幼い日を思い出すような。

 純粋で、輝かしい笑みを浮かべて。


「ジーク様、私は――――」

「認めたまえ。ただ一番である君に」


 胸の痛みと共に、彼の名をつい口にする。しかしジークは。


「私は並び立てず、イリスはその隣を我が物とした。それだけだ」


 イリスを見て、笑みを浮かべた。一方の彼女は、にやりと口元を歪めている。


「おや、負け惜しみですか? 王子」

「認めねばならんだろう。エミリアを……祝ってやりたければ。私の小さなプライドなど、なんだというのか。だが」


 そして、ジークも。




「君が不甲斐ないようであれば、私はエミリアを浚いに来るぞ。イリス」




 貴公子というには少々――――獰猛な顔を、見せた。

 ドキリと心臓が跳ね上がり、エミリアは胸元を押さえる。

 そこに輝く、〝竜鳥の涙〟を。


「上等です。いずれ――――決着をつけてやる」

「望むところだ」


 そう言い残すとジークは背を向け、置いてきた馬に向かっていった。エミリアは長く息を吐いて、なんとか頬に昇ろうとする熱を抑える。彼の背を見送る、イリスに少しの笑みを向けて。


(連携しなきゃいけないんだけど、大丈夫かしらね。さて)


 エミリアは少しの暑さをを感じ、顔を上げた。


「〝魔核爆弾〟。見つかるといいけど」


 いつの間にか、雲が晴れ。強い日差しが舞い込んでいる。

 天高くには白銀の竜が。

 飛んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

――――――――――――――――
婚約は破棄します、だって妬ましいから(クリックでページに跳びます) 
短編版です。~5話までに相当します。
――――――――――――――――

――――――――――――――――
伯爵になるので、婚約は破棄します。(クリックでページに跳びます)
新作短編、6/14(土) 7:10投稿です。
――――――――――――――――

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ