06 Threshold Protocol: Arrival at Resurgis City
蓮華城の評議会ビル会議室。転移準備エリアに立つ真一たち。その傍らには、評議会議長や各組織の幹部たちが厳かな面持ちで並び立ち、真剣な眼差しを彼らに注いでいた。
カイル・ブラウンはゆっくりと手を伸ばし、真一と愛理の肩にそっと触れる。
「二人とも、準備はいいか? 俺の能力で一度に転移できるのは二人だけだ。残りは、戻るまで待っていてくれ」
カイルは低く、念を押すように言った。
「分かりました」真一はきっぱりと頷く。
カイルは大きく息を吸い、目を閉じ、北米の要塞都市の転移領域の座標を素早く頭の中でロックオンした。瞬間、目に見えない空間波動が三人を包み込み、空気がかすかに歪む。そして、忽然とその姿が掻き消えた。
再び現れたとき、彼らはすでに見知らぬ場所に立っていた。
足元には、まるで独立した空間に浮かんでいるかのような円形の土台が広がっている。周囲は透明な結界に覆われ、淡い光の輪がその縁を水面の波紋のように揺らめいていた。
すぐ近くには、幾十もの視線が彼らに向けられている。会場の四方には、さまざまな制服や立場の者たちが散らばり、それぞれの表情を浮かべていた。警戒する者、小声で何かを話し合う者もいる。
「どうやら、僕たちの到着はすでに手配済みだったらしいな」
真一は周囲を警戒しながら、小さく呟いた。
カイルは安堵のため息をつき、真一の方を向く。
「しばらくここで待っていろ。残りのメンバーを迎えに行ってくる」
真一と愛理は静かに頷き、再び空間の揺らぎの中へと消えていくカイルの姿を見送った。
愛理は軽く眉をひそめ、そっと目を閉じ、「霊魂連結」の能力を発動し、周囲の者たちの感情や意図を探ろうとする。だが、その意識が結界に触れた瞬間、まるで見えない壁にはじき返されるようだった。
「え……?」彼女はぱっと目を開き、驚きと困惑の表情を浮かべる。
「どうした?」真一が低い声で尋ねた。
「この結界……ただ転移エリアを守っているだけじゃないわ。魔法や能力の使用も遮断している。周囲の人間の深層意識にアクセスできないの。」
それを聞いた真一は表情を引き締め、さらに周囲へと警戒の目を向ける。
数分後、カイルはリアとサティーナを伴って再び現れ、ようやく全員を無事に目的地へ送り届けた。
その時、円形の土台の向こう側に、士官服を纏った女性が静かにこちらを見つめていた。一歩踏み出した瞬間、真一は彼女がそのまま空洞へ落ちるのではと一瞬思う。だが、踏み出した彼女の足元にそっと見えない橋が現れ、その歩みに合わせてゆっくりと土台へと続いていった。
「レサージス・シティへようこそ。」
女性は静かに歩み寄る。照明の下で金色の髪が柔らかく輝き、軍服はすらりとした均整の取れた体躯を際立たせる。歩くたびにスカートの裾がわずかに揺れ、微笑みながら自己紹介をした。
「アリソン・ブルックスです。皆様のご案内を担当いたします。」
真一が一歩前に出て、丁寧にうなずいた。
「雷野真一です。そして、こちらは僕のチームメイト、星川愛理、リア、それからサティーナです。」
アリソンは一行を見渡し、サティーナのところでわずかに目を留めた。サキュバス特有の気配に眉をひそめかけたが、すぐに表情を戻し、落ち着いた口調で言った。
「こちらへどうぞ。規定により、皆様には検査と身分確認を受けていただきます。」
彼女は一行を機械設備の並ぶ場所へと案内した。両側には兵士たちが無表情のまま、冷ややかな視線を投げかけている。
「では、身分確認装置に手をおいてください。」とアリソンが合図する。
真一が手を伸ばすと、淡い青の光線が手のひらをなぞった。
「雷野真一、身元確認。」機械の無機質な声が響く。
続いて愛理、リア、サティーナも順に確認を終えていき、サティーナの番になると、装置がわずかに振動した。
「あら、どうやらそちらの機械は魔族にはあまり親切じゃないようですね。」サティーナは目を細め、からかうように微笑んだ。
しかしアリソンは表情を変えずに、穏やかに微笑み返した。
「ご心配なく。サティーナさんのデータはすでに登録済みです。システムに誤りはありません。」
こうして全員の確認は無事に終了した。
カイルは真一たちを見て、少しほっとしたように微笑んだ。
「さて、俺の役目はここまでだ。あとはアリソンに任せる。みんな、うまくいくといい。」
真一は手を差し出し、カイルと握手した。
「ありがとう、カイル。気をつけるよ。」
「忘れるな、いつでも連絡しろ。」
カイルは真一の肩を軽く叩き、振り返ると、その姿は静かに空間の波紋の中へと消えていった。
本日から第25章の執筆準備に入りました!すでにストーリーの大まかな流れは整理済み。第25章は不死の四天王との死闘に突入する前の導入編ということで、なかなかインパクトのある大規模シーンを用意してます。
それと、文字数稼ぎも兼ねて(笑)、急遽いくつか設定を追加することにしました。特にひとつは、とあるホラー系少年漫画から着想を得た能力設定で、戦闘前の不穏な空気をより際立たせるために入れてみました。ただ、これらの設定はあくまで演出用なので、細かいバトル描写までは入れない予定。四天王との決戦が終わったら、この辺は一区切りです。
それから第4巻の第19章も正式に公開されました!ずっと作品を追いかけてくれてる読者のみなさん、本当にありがとうございます。みなさんの応援が何よりの原動力です!これからもぜひお楽しみに!