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35 Of Love and Devotion

 二人の間に静かな沈黙が流れる。

 そのとき愛理は、ようやく理解した。目の前の女性は、だらしなく軽薄な人でも、冗談ばかり言って人をからかう恥知らずでもない。ただ孤独な姉であり、暗闇の中で弟を静かに守る影なのだ。

 彼女はずっと真一を見守りながら、決して近づくことなく、静かに見守る道を選んできた。

 大家族の期待を背負い、幼い頃から厳しいエリート教育を受け、戦場では最も冷静で正確な戦士、そして指揮官となった。だが、それでも心の奥には柔らかい一角が残されていた。

 愛理の胸は深く揺さぶられる。

 彼女は大きく息を吸い、真剣な表情でうなずいた。

「はい、約束するわ」

 ヴィクトリアの瞳がわずかに揺れ、やがて淡く微笑む。

 次の瞬間、彼女は一歩前に出て、そっと愛理を抱きしめた。いたずらっぽい笑みを浮かべ、低い声でささやく。

「本当に可愛くて、素直な子ね」

 愛理の体は一瞬硬直し、頬がほんのり赤く染まった。こんな親密な行動に慣れていない彼女は、冷たく神秘的な女性が突然自分を抱きしめるとは夢にも思わなかった。戸惑いながら瞬きを繰り返し、どもり気味に言葉を漏らす。

「え? あ、あの……ちょっと……」

 しかしヴィクトリアは、愛理の恥じらいなど意にも介さず、くすくすと笑いながら背中を軽く叩き、ゆっくりと手を離した。口元には、なおもいたずらっぽい微笑みが浮かんでいる。

「ふふ……やっぱり抱きしめると、柔らかくて可愛い子ね。――ねえ、愛ちゃん、今日から私のこと『姉上』って呼んでみない? その代わりに、私も『義妹』を大事にしてあげるから」

「義妹」という言葉が口から出た瞬間、愛理の顔は真っ赤に染まった。慌てて一歩後ずさり、両手をばたばたさせて叫ぶ。

「違う! そんなわけない!」

 ヴィクトリアはその反応を面白がるように、腕を組み、氷のように青い瞳を細めて意味深に微笑んだ。

「おや? そんなに反応するなんて……もしかして、私の言った通り?」

「ち、違う!」

 愛理は足を踏み鳴らし、声を張り上げる。

「私たちは、ただの幼なじみ! 幼なじみ、それだけよ!」

「ああ~……」

 ヴィクトリアは言葉を引き延ばし、口元の笑みをさらに深めた。

「幼なじみなだけで……まだ恋人じゃないのだ」

 愛理の頬は血が噴き出しそうなほど真っ赤になった。深く息を吸い込み、声を必死に落ち着けようとする――。

「そんなわけないでしょ! 私たちは……ただ一緒に育った友達なだけ……」

 話すうちに声はだんだん小さくなり、最後の数語はほとんど聞き取れなかった。

 ヴィクトリアは微笑を浮かべたまま、鋭い視線で愛理を見つめ、そっと尋ねた。

「ねえ、愛ちゃん。真ちゃんのこと、どう思っているの?」

 突然の問いに、愛理は一瞬言葉を失い、口をわずかに開けたまま答えられなかった。うつむいた頬は熱を帯び、胸の鼓動は乱れていく。

「真は……いつも優しくて、頼りになる人だった」愛理は小さく呟いた。

 それは思い出すように、あるいは独り言のように。

「何があっても、そばにいてくれて……彼がいない日なんて、考えたこともなかった……」

「なるほど」

 ヴィクトリアの瞳が柔らかさを帯び、口元がわずかにほころんだ。

「つまり、あなたは彼のことが好きなのね」

 愛理は慌てて顔を上げ、唇をかすかに震わせた。

「わ、私……」

 ヴィクトリアは指先を伸ばし、額に軽く触れてからかうように笑った。

「そんなに緊張しなくていいの。自分の気持ちに気づければ、それで十分」

 少し間を置いて、励ますように言葉を添える。

「もし本当に真ちゃんが好きなら、迷わないで。彼は鈍感すぎるけど……あなたへの想いは、きっともう幼なじみ以上になっているはずだよ」

 愛理は心臓が太鼓のように高鳴るのを感じながら、ぼんやりとヴィクトリアを見つめた。

 その瞬間、ふと以前の会話を思い出す。

 ――「確かに心配しているのは分かるけど、それだけじゃないでしょ?」

 それはサティーナが言った言葉だった。そのとき愛理は顔を赤らめ、慌てて手を振ってわざと話題をそらした。だが今思えば、ヴィクトリアの言葉も同じで、自分の気持ちから逃げられないことを痛感する。

「うーん……」

 愛理は恥ずかしそうにうなずき、かすかにささやいた。

「ドリー姉、教えてくれてありがとう」

 ヴィクトリアは手元の端末に目を落とし、微笑みながら言った。

「もうすぐ真ちゃんと再会できるわ。まずはどう向き合うか、考えましょう」

 愛理は頬を赤らめ、そっと返事をした。

はい、というわけで今回の章はここまで!次の章は6日後の10月11日に公開予定です。ぜひお楽しみに!

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