30 REVEAL -リビール-
抗いようのない精神的な力が、自分の意識にじわじわと染み込んでいくのを、彼女ははっきりと感じていた。
「私の心を……覗いているの?」
ヴィクトリアは眉を上げた。声にはまだ軽い戯けた調子が残っていたが、その眼差しは次第に鋭さを帯びていく。
「正直に言う気がないなら、私が自分で確かめます。」
愛理が目を開くと、その瞳孔には金色の光が揺らめき、声にはこれまでにない真剣さが宿っていた。
ヴィクトリアは小さく息をつき、口元の笑みをわずかに引っ込めた。
「本当に大胆になったわね、愛ちゃん。」
彼女は足を止め、振り返って愛理の燃えるような視線を真正面から受け止めた。
愛理も一歩も引かず、そのまま視線を返す。
しばしの沈黙ののち、ヴィクトリアは観念したように微笑み、どこか甘さを含んだ口調で言った。
「仕方ないわね。そんなふうに迫られたら、少しだけ答えてあげる。」
愛理は黙ったまま、じっとその言葉を待った。
「雷野真一……真ちゃんは、私にとってとても大切な人よ。」
ヴィクトリアは懐かしい記憶を思い出すかのように、少し視線を遠くに逸らしながら静かに語った。
愛理の胸が揺れ、唇がわずかに開いた。問いかけようとしたその瞬間、ヴィクトリアはさらに続ける。
「でも、変に考えすぎる必要はないわ。あなたへの気持ちとは違うものだから。」
「……違う?」
愛理は思わず言葉を失った。
「ええ、違うの。」
ヴィクトリアはどこか楽しげに答える。
愛理は眉をひそめ、その言葉の裏に含みを感じ取った。深く息を吸い、彼女を正面から見据える。
「私への気持ちと違うって……それはどういう意味?」
ヴィクトリアの瞳がかすかに揺らいだが、すぐにいつもの落ち着きを取り戻す。くすりと笑いながら言った。
「愛ちゃん、ずいぶん執着するのね。あなたらしくないわ。」
「ごまかさないで。」
愛理の声は揺るぎなかった。
「真が大切だって言ったじゃない。それって、どういうこと?」
ヴィクトリアはふっと小さく息を吐き、目を伏せる。何かを思案するように沈黙が流れ、やがて静かに言った。
「物事には、早く知りすぎないほうがいこともあるのよ。」
愛理は逃さぬような強い視線を向け、確かな答えを待ち続けた。
ヴィクトリアは再び沈黙し、何かを量るように考え込む。そしてついに、戯けた調子を収め、真剣な眼差しで愛理を見つめて口を開いた。
「愛ちゃん、本当に知りたいの? その答えを。」
愛理は一瞬きょとんとしたが、迷わず頷いた。
「もちろん。どうしてそこまで真のことを大事に思うのか、知りたい。」
ヴィクトリアはしばらく彼女を見つめ、まるで最後の決断を下すかのように沈黙していた。
やがて、長い溜めののちにゆっくりと息を吐き、静かに口を開いた。
「……実はね、私は真ちゃんの姉なの。」
愛理の瞳孔がぎゅっと縮み、まるで耳を疑うかのように大きく目を見開いた。
「な、なにっ?!」
その声は驚愕のあまり、ひときわ高くなった。
ヴィクトリアはわずかに微笑んだ。しかし、その笑みには苦みがにじんでいた。
「正確に言えば、異母姉ということになるわ」
複雑な感情を押し隠すように、彼女はゆっくりと言葉を続けた。
愛理は口を開いたが、声にならなかった。
この、いつも神秘的な笑みを浮かべ、圧倒的な存在感を放つ女性が――まさか真一とそんな関係にあったとは……。
「どうして……真一は一度もあなたのことを話したことがないの?」
ようやく絞り出した声には、信じられないという思いがにじんでいた。
「それに、真一のお父さんは五歳のときに亡くなったはずよ。それからずっと、お母さんが一人で育ててきた……姉がいるなんて、おかしいじゃない」
ヴィクトリアは軽く肩をすくめ、口元に淡い笑みを浮かべた。
「世の中は、あなたが思うほど単純じゃないのよ。真一は私の存在をまったく知らないし……彼のお母さんも、きっと守るために“父親は早くに亡くなった”という物語を語ったのかもしれないわね」
愛理の鼓動は速まり、思考は渦を巻くように駆け巡った。
「……初めて会ったとき、なぜ本当のことを明かさなかったの?」
ついに低い声で問いかけた。
「必要がなかったから」
ヴィクトリアは再び肩をすくめ、淡々と答えた。
「私は私、彼は彼。それぞれが自分の道を歩めばいいの」
愛理はじっと彼女の瞳を見つめ、さらに何かを探ろうとした。
そのとき、ヴィクトリアの笑みがわずかに薄れ、かすかな感情が瞳の奥に揺らめいた。
彼女は静かにため息をつき、遠い記憶に心を奪われたかのように、ぼんやりと視線を遠くへ漂わせた。
はい、というわけで今回の章はここまで!次の章は6日後の9月27日に公開予定です。ぜひお楽しみに!