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28 ECHO -エコー-

「くそっ!」

 真一はその場に立ち尽くした。顔は青ざめ、拳を握りしめ、胸の奥には罪悪感が押し寄せていた。

「全部、僕のせいだ……。僕がいたせいで、愛理はまた危険に巻き込まれて……」

 その様子を見たサティーナは駆け寄り、彼の胸倉を掴んで怒鳴った。

「今は自分を責めている場合じゃない! 二人はまだ下で我らの助けを待っているのよ。後悔に足を引っ張られている暇はないでしょ!」

 ジェイソンは腕を組んで立ち、唇をわずかに歪めながら複雑な色を宿した視線を送る。

「おいおい、レイノ。さすが隊長さんだな」

 彼は鼻で笑った。口調は傲慢だが、嘲りの色はなかった。

「堂々と罠に引っかかるとはな」

 サティーナは鋭く睨みつける。真紅の瞳に宿る怒りは周囲の空気を凍りつかせるほどだった。

 ジェイソンは肩をすくめ、無力さを隠すような笑みを浮かべて他の隊員の方へ歩いていく。

「英雄気取りで打ちひしがれてんじゃねえ。ヴィクトリア少佐はそんなに甘くない。若くして少佐に昇った実力者だ。必ず星川さんを守ってくれるさ」

 真一ははっとして大きく息を吸い込み、徐々に冷静さを取り戻していった。

 リアは小さく声を落として言った。

「ヴィクトリアさんはとても強い方よ。きっと愛理ちゃんを守ってくれるわ。私たちは彼女を信じるしかないの」

 真一は顔を上げ、リアに感謝の視線を送った後、力強く言い放つ。

「ヴィクトリアさんと愛理は、このまま目的地へ向かうはずだ。僕たちはそこで必ず合流しなければならない」

 その言葉に、ジェイソンの口元がわずかに釣り上がり、目の奥に認めるような光が宿る。

「ふん……少しは隊長らしくなってきたじゃないか」

 彼は周囲の隊員を見渡し、低く命じた。

「全員、計画通り前進しろ。目的地で合流するぞ」

 隊伍はもう迷うことなく、仲間との再会を目指し、未知の深淵へと進んでいった。

 ――その頃、遺跡の下層では。

 漆黒の地下遺跡の奥深くは静まり返り、崩れ落ちる石の音だけが、薄暗い通路に響いていた。

 愛理は小さく咳き込みながら地面に手をつき、ゆっくりと身を起こす。薄闇に目を慣らそうと瞬きを繰り返すが、視界はまだ霞んでいた。ツインテールは埃にまみれて灰色に汚れ、衣服も土と瓦礫でぼろぼろだったが、今は構っている余裕などなかった。

 彼女の視線はすぐ隣にいるヴィクトリアへと向かう。いつもは姉のように穏やかな笑みを浮かべる彼女が、今は珍しく険しい表情で前方を見据えていた。

「ここは……」

 愛理は双銃を強く握りしめ、眉をひそめる。声は低く、緊張に満ちていた。

「ただの遺跡の地下じゃなさそうね。」

 ヴィクトリアは片手を上げて静止を促す。氷のように青い瞳が細められ、鋭い警戒の色を帯びた。

「……来るわよ。」

 次の瞬間、暗い通路の奥から不気味な摩擦音が響き渡り、やがて無数の深紅の光点が闇に浮かび上がった。鼻をつく悪臭が広がり、ザザッと擦れる音が重なる。影の中から、一匹、二匹、やがて十数匹もの巨大な甲殻魔虫が姿を現した。赤く光る複眼、金属のように黒光りする外殻、鋭い鉤爪が地面を削り取り、耳障りな音を立てる。

「こいつら……何なの……?」

 愛理の額に冷や汗がにじみ、思わず一歩退く。

「遺跡に長く閉じ込められていた昆虫が、魔素に侵され変異したのかもしれないわね。」

 ヴィクトリアは落ち着いた声で言いながら、腰の多機能タクティカルベルトから暗銀色のモジュールを取り出す。その手は素早く動き、わずか数秒で散らばった部品が一丁の流麗なエネルギー銃へと組み上げられた。

 それは――〈星輝殲滅者ステラー・アナイアレイター〉。

 銃身はかすかに震え、暗銀の光を帯びる。青い輝きがラインを奔り、まるで目覚めかけた獣の息吹のように脈動していた。

 甲殻魔虫たちが甲高い鳴き声を上げたかと思うと、次の瞬間、津波のように押し寄せてくる。

「行くわよ、愛ちゃん。」

 ヴィクトリアは口元に笑みを浮かべ、一歩踏み出した。

「親しげに呼ばないでください!」

 愛理は銃を構え、引き金を引く。

「バン! バン! バン!」

 銀色に改造された双銃から吐き出された灼熱の魔弾が、前方の数匹の魔虫を正確に貫き、その外殻を粉砕した。

 彼女は俊敏な身のこなしで迫る大顎をかわし、銃口をわずかに持ち上げて一発――鮮やかなヘッドショットで仕留める。

 だが、魔虫の数は減るどころか、際限なく増えていくかのようだった。

「チッ……数が多すぎる……」

 愛理は下唇を噛みしめ、眉間に深い皺を刻む。

「少し場所を借りるわね。」

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