26 GLARE -グレア-
一行は薄暗い回廊を進む。灯りはかろうじて闇を押し返し、壁に刻まれた不気味な紋様や血痕を浮かび上がらせた。空気は次第に冷たさを増し、腐臭と血の匂いが入り混じって神経を張り詰めさせる。
「この匂い……」
リアが眉をひそめる。
「さっきのサソリの魔物のものじゃない」
「ええ。魔物というより……」
愛理は暗がりを凝視し、低く言葉を継いだ。
「死臭ね」
一同の心がざわめき、すぐに隊列を整えて警戒を強める。ヴィクトリアは腰のポーチに手を添え、鋭い視線で周囲を探った。
その時、不意に闇の奥から不気味な足音が響く。ずるずると引きずるような、重苦しい音が近づいてきた。
次の瞬間、影の中からアンデッドの群れが一斉に飛び出してくる!
錆びついた武器を握る者もいれば、手足を失った者もいる。腐りかけた肉がむき出しの骨と絡み合い、吐き気を催す悪臭を放っていた。空洞の眼窩には緑がかった鬼火が揺らめき、まるで死の深淵から立ち上る不気味な炎のようだ。ぎこちない足取りながらも、ためらいなく部隊に突進し、低く掠れた咆哮を響かせる。
「チッ……やっぱりアンデッド系の魔物か」
サティーナは小さく鼻を鳴らし、魔剣を握り直して戦いに臨もうとする。
だが、その瞬間、気だるげでありながら挑発めいた声が割り込んだ。
「お前たちは手を出すな」
ジェイソンは顎をわずかに上げ、短い金髪を灯りに揺らめかせた。口元には笑みを浮かべていたが、その眼差しは鋼のように揺るぎない。彼は片手を挙げて真一たちの動きを制し、振り返って自らの仲間へ視線を向ける。
「行け。奴らに見せてやれ」
「チッ……」サティーナは眉をひそめ、露骨に不満をあらわにする。
「まあい。力を見せてもらうのも悪くない」真一は腕を組み、静かに戦場を見守っていた。
ジェイソンの仲間たちはそれぞれ強力な戦技を繰り出す。
アイリーンは眼鏡を押し上げ、落ち着いた動作で携帯端末に指令を入力する。次の瞬間、空中に炎が立ち上り、いくつもの火球が形成された。彼女が指先を払うと、火球は矢のように飛び出し、正確にアンデッドを撃ち抜く。炎は爆ぜ、腐敗した肉体を焼き尽くし、断末魔の叫びとともに灰となった。
「アイリーンの能力は『元素支配』。複数の元素を操り、融合させることができる」
ジェイソンは淡々と説明するが、その声には誇りがにじんでいた。
「彼女の端末は魔法技術研究院の最新成果だ。自ら元素を生み出すことはできないが、装置を通して大気中の魔素を変換し、自在に操ることができる」
説明が終わると同時に、アイリーンは端末を軽く操作した。炎は瞬時に消え、今度は空気中の水分が凝縮して鋭利な氷刃となり、残ったアンデッドを射抜く。氷刃は額や関節を正確に貫き、最後の数体を氷像へと変え、やがて粉々に砕け散った。
アイリーンは再び眼鏡を押し上げ、静かに言う。
「焼いて駄目なら、凍らせればいいだけ」
マコアは豪快に敵陣へ踏み込み、隆起した筋肉を震わせながら拳を振り下ろした。轟音とともにスケルトンは木っ端微塵に砕け散り、骨片が四方へ飛び散る。彼は白い歯を剥き出しにして笑った。
「それだけか? カルシウム不足じゃねぇか!」
後方に立つジェイソンは口元をわずかに緩め、戦場を眺めながら落ち着いた声で言った。
「見ての通り、マコアは近接戦のエキスパートだ。戦い方は粗暴そのものだが、正面戦ではその力こそが絶対だ」
闇の中、エリカの姿はまるで亡霊のように敵陣を縫って駆け抜ける。周囲と同化するかのように気配を消し、刃が閃いた次の瞬間、ゾンビの首が音もなく地に転がった。
「エリカは潜入と暗殺の達人だ。敵に気づかれる前に命を奪う」
ジェイソンはわずかに微笑む。その口調には誇らしさが滲んでいた。
「まだ全力を見せたわけではないが、総合的な戦闘力はすでに十分だ」