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25 REFLECT ‐リフレクト‐

 空気は次第に冷え、壁に刻まれた古代のルーンがかすかに光を帯び、まるで遺跡の歴史を囁くように浮かび上がっていた。

「このルーン文字は……今まで見たどの文明のものとも違うな」

 真一は低く呟き、壁の彫刻にゆっくりと指を滑らせる。文様の凹凸を確かめながら、わずかに眉をひそめた。

「真ちゃん、触らないで」

 ヴィクトリアは氷のような蒼い瞳を細め、冷静に警告する。

「ここのものが友好的だとは限らない。罠を作動させるかもしれないわ」

 リアはそっと真一に歩み寄り、囁くように言った。

「真一くん、調べる必要があるなら私に任せてください。まずは魔法で罠の有無を確認してから触れます」

 その瞳にはかすかな不安が宿り、寄せられた眉が彼への気遣いを物語っていた。

 一方で、ジェイソンの部隊は兵士としての規律を示していた。遺跡に入ってからもジェイソンはいつものように笑みを浮かべていたが、隊員たちは驚くほど寡黙で、それぞれが黙々と任務を遂行していた。

 彼らは自然に隊列を整え、歩調を揃え、一切の無駄口を叩かずに高度な軍規を体現していた。薄暗い遺跡の中にあっても、その動きは正確かつ効率的で、まるで鍛え抜かれた精鋭部隊そのものだった。その姿からは、彼らの戦闘能力の高さが否応なく伝わってくる。

 廊下の突き当たりには、更なる深部へと続く階段が伸びていた。

 一行が進もうとしたその時、闇の奥から低く唸るような声が響いた。

 暗闇の中から、巨大なサソリ型の魔物が姿を現す。その甲殻は夜のように黒く、全身に深紅の亀裂が走っている。六本の脚が地面を擦り、鋭く耳障りな音を立てた。大きな尾の毒針は高く掲げられ、先端が不気味な紫光を放ちながら、猛毒を孕んでいるかのように妖しく輝いている。血に飢えた光を宿す瞳で睨みつけ、唸り声を漏らしながらじりじりと迫ってきた。

 愛理は目を閉じ、眉をひそめつつ「霊魂連結」の力を発動し、周囲に潜む敵意を探った。

 やがて間を置かずに目を見開き、鋭い視線で辺りを睥睨する。

「状況は良くないわ。一体だけじゃない」

 その声は低く、しかし緊迫感に満ちていた。

「目の前のサソリ型に加えて、そのすぐ後ろにさらに二体いる。まもなく合流するわ」

 ヴィクトリアの唇がわずかに吊り上がり、瞳には闘志の光が宿る。

「ちょうどいい機会ね。真ちゃんに私の力を見せてあげる」

 彼女は自信を滲ませて、くすりと笑った。

「待ちなさい、ヴィクトリア少佐」

 ジェイソンが手を伸ばして彼女の動きを制し、口元に挑発的な笑みを浮かべる。

「レイノ、お前たちのチームは強いんだろう? その腕前を見せてもらおうじゃないか」

 その声音にはあからさまな挑発が含まれ、瞳には試すような光が揺らめいていた。

「はぁ?」

 愛理は頬を膨らませ、不満げに声を上げる。

「どういうつもり?」

「単純なことだ。お前たちが先に行け」

 ジェイソンは肩をすくめ、気楽そうに言ったが、その裏には含みがあった。

 真一は彼を一瞥し、小さくため息をつく。

「……わかった」

 ポケットに手を入れ、変換に必要な素材を取り出そうとした瞬間――

 細くもしなやかでありながら力強い手が、彼の手首を押さえた。

「まだ大将の出番じゃないわ」

 サティーナは微笑みながら告げる。軽やかな口調だったが、拒絶を許さない強さがあった。深紅の瞳には闘志の光がきらめく。

「こんな小物なら、我らだけで十分よ」

 言い終えるより早く、彼女はリアの手を引いて魔物へと駆け出していた。

「リア、後ろの二匹はお願い。この一匹は我がやる」

 リアは一瞬驚いたが、すぐにうなずき、魔法の杖を掲げる。掌には柔らかな緑の光が宿った。

 サティーナは魔剣を呼び出す。黒き刃は妖しく輝き、迫り来るサソリの魔物を前にしても一切怯まない。毒針を結界で受け止め、間合いへ踏み込むと、剣を翻して鋭い斬撃で甲殻を正確に切り裂いた。魔物は咆哮と共に爪を振り下ろすが、それも結界に阻まれる。次の瞬間、彼女の一閃によってバラバラに斬り裂かれた。

 同時にリアは小さく詠唱を口にする。地面から突如として蔓が伸び、背後の二体を絡め取った。彼女が手を振ると、水流が一気に凝縮し、鋭い水槍となって魔物の急所を正確に貫いた。

 その光景にジェイソンは口笛を吹き、感心したように言う。

「やるじゃないか。確かに戦えるな」

 その瞳には、一瞬競争心がきらめいた。

 サティーナは駆け寄り、真一の腕に抱きついて得意げに笑う。

「どう? なかなか頑張ったでしょ?」

 真一は苦笑しつつうなずき、視線をリアに向ける。

「ありがとう、リア」

 リアは顔を少し赤らめ、俯いて小声で答えた。

「……手伝っただけよ」

 傍らのヴィクトリアは腕を組み、不満げに唇を尖らせる。

「ふん、本当は真ちゃんに私の実力を見せたかったのに、先を越されたわ」

 そのやり取りを見て、愛理は目を細め、サティーナとヴィクトリアを射抜くように見据えた。口元には危うげな笑みが浮かび、黒い気配が静かに漂い始める。

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