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20 Kiss Me Good-Bye

 一瞬にして空気が凍りつき、皆の表情も険しくなり、息が詰まるような重苦しい雰囲気が辺りを包み込んだ。

 それを聞いたサティーナはわずかに眉をひそめ、しばし沈黙したのち、深く息を吸い込み、唇をきゅっと引き結んだ。

 理屈ではないかもしれないが、戦士である彼女は、こうした予感が時に生死を分けることを、誰よりもよく知っていた。

「つまり、四天王の誰かと直接ぶつかるか、最悪、残りの三人もまとめて相手にしなきゃいけないかもしれないってことか?」

 その声は低く、決して軽んじることのできない決意が滲んでいた。

 ヴィクトリアは複雑な感情をその瞳に浮かべながら、わずかにうなずく。

「ええ、サティーナ。確かなことは言えないけど、私の勘だと、この“ナイトシャドウ”との会合、どう考えてもただのものじゃないわ。」

 他の仲間たちも小声で話し始め、その場には重苦しい空気がさらに広がっていく。

 四天王――魔王軍最強の軍勢――と戦って、無傷で済むなどあり得ない。

「つまり、今回の任務はただの情報提供者との接触じゃなくて、戦局を左右する重要な戦いになる可能性が高いってことだな?」

 愛理が眉をひそめ、低い声でそう言った。

「その通り。」ヴィクトリアはうなずいた。「だから、これからは絶対に気を抜かず、万全の準備をしておいて。」

 そう告げても、場の空気は依然として張り詰めたままだったが、ヴィクトリアはふと唇の端を上げ、いつもの軽薄な笑みを浮かべた。

 そして、二歩ほど後ろに下がると、軽い口調で言った。

「さて、重たい話はこれでおしまい。真ちゃん、覚えておいてよ? 何があっても、姉上の前では甘えん坊でいていいのだからね。」

 そう言うと、優雅にくるりと振り返り、ヘルメットをかぶって、愛車の赤いバイクにまたがった。両手でハンドルを握りしめると、低くエンジンが唸りを上げる。そして、片手をひらりと上げ、ためらいなく真一に投げキッスを送った。その瞳には、優しさとからかいが入り混じった光がきらきらと輝いていた。

「じゃあ、幸運を祈って!」

 その声が響くと同時に、バイクは勢いよく加速し、滑らかな弧を描きながら走り去っていく。残されたのは、自由奔放で華やかな背中だった。

 真一はその背中が遠ざかるのを、呆然と見送っていた。長いこと、我に返ることもできずに。

「真。」

「ん?」真一は無意識に返事をしたが、視線はまだヴィクトリアの消えた方を追い続けていた。

「説明、してもらおうかな?」

 愛理の優しげな笑顔には、ほんのりと危うい色が滲んでいた。

「そうだな。」

 サティーナは腕を組み、冷たい視線を真一に向け、不機嫌そうな口調で言う。

 リアの頬はわずかに赤らみ、どこか緊張を含んだ声でぽつりと囁く。

「真一くん…あの投げキッスって、どういう意味なの?あなたと彼女の関係って……?」

 その瞳には困惑と好奇心が浮かんでいたが、その奥には、まるで息を詰めて答えを待つかのような、隠しきれない期待の色が宿っていた。

「うっ……」

 真一の額を一筋の冷や汗が流れ落ち、自分がひとつ嵐の火種を投じてしまったことに気づく。三人の鋭い視線を受けながら、心の中でそっとため息をついた。――どうやら、この先の旅路はただでさえ危険なだけでなく、内輪でも厄介な修羅場が待っていそうだ。

「さて。」

 隣にいたアリソンが、穏やかさの中にも威厳を含んだ声で軽く咳払いをする。

「とりあえず、先に宿泊場所へ向かいましょう。」

 皆は顔を見合わせた。まだ言いたいことは山ほどあるが、今は追及する時ではない。ひとまず胸の内をしまい、気持ちを切り替えて宿へ向かうしかなかった。真一は密かに胸をなでおろす。しかし、目的地に着いたらきっと逃れられないだろうと、すでに覚悟も決めていた。

 夜も更け、彼ら一行はついに用意された宿泊場所へとたどり着く。

 レサージス・シティ中心部に位置する高級宿舎で、建物全体が銀白色の強化金属で造られており、滑らかなラインが美しく、近代的で力強いミリタリーデザインが印象的だ。

 正面の警備兵が敬礼し、一行を明るく広々としたホールへと案内する。

 アリソンが柔らかな笑みを浮かべて言った。

「ご安心ください。こちらの設備はすべて整っています。明日からの訓練と準備は決して楽ではありませんから、今夜はどうぞゆっくりお休みくださいね。」

「そんなに大変なら、さっきもっとデザート食べておけばよかったな……」

 愛理が口を尖らせ、小さくぼやく。

 真一は苦笑して肩をすくめ、軽く彼女の肩を叩いた。

「心配するなよ。明日の体力訓練はもっとキツいからな。きっと今夜の晩ご飯が恋しくなるぞ。」

 サティーナは腕を組み、周囲をぐるりと見渡して満足げに頷く。

「ふん、悪くないわね。ここの上層部も、どうやら誠意はあるみたい。」

 リアがおずおずとした様子で声をかける。

「あの……訓練って、やっぱりすごく厳しいんでしょうか?」

 アリソンは優しく微笑みながら答えた。

「大丈夫ですよ。あなた方の能力に合わせて訓練計画を立てます。無理に準備もなしに戦場へ送り出すようなことはしませんから。」

最近、第2部の構想を改めて見直してみたんですが、要素がどんどん増えていて、自分でもちょっと驚いてます。特に「魔王決定戦編」なんて、最初から最後までいろんなタイプのバトルが詰め込まれていて、しかもACGのネタも混ざっていて……正直、この章だけで1本の作品になりそうな勢いです。


ただ、本当に思い描いた通りの効果を出せるかどうかは、まだ分からないんですよね。でもまあ、そこまで書いてみないと分からないのも事実で。今はまだ第1部の第25章で足踏みしている状態なので、第2部の「魔王決定戦編」まで行くとなると、正直何年も先の話になるかもしれません。とりあえずは流れに任せて、進められるところまで進んでいこうと思います。そんなわけで、これからも楽しみにしてもらえたら嬉しいです!

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