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19 Calling You Closer

 リアの顔はたちまち真っ赤になり、両手をもじもじといじりながら、どもり気味に言った。

「彼は……とてもいい人で、えっと……すごく優しいのです……」

 どう返答していいかわからず、少し動揺した様子で、その頬の赤みはますます濃くなっていく。

 そんな彼女の様子を見たヴィクトリアは、思わず吹き出し、楽しそうに言った。

「もう、めっちゃ可愛いじゃない!」

 横にいた真一は状況をうまく把握できず、ぽかんと彼女たちを見つめていた。

 だが、その場の空気が落ち着く間もなく、ヴィクトリアは突然両腕を広げ、愛理とリアをまとめて抱き寄せた。

「わっ!」

 突然の抱擁にリアは驚いて声を上げ、頬を真っ赤に染めた。

 愛理は一瞬きょとんとしたものの、すぐに口元がぴくりと動き、元の表情に戻る。

「今日から二人とも、私のこと『ドリー姉』って呼んでね!」

 ヴィクトリアはまるで昔からの友達のように、にこにこと陽気に言い放った。

「ド……ドリー姉……」

 リアは小さな声で繰り返し、その耳まで血が滲みそうなほど赤くなっている。

「そう、それでいいのよ!」

 ヴィクトリアは満足そうにうなずき、リアの髪をくしゃくしゃと撫でた。

 愛理はぎこちなく笑みを浮かべたが、その瞳の奥に浮かぶ微かな感情の揺らぎに、真一はなんとなく嫌な予感を覚えた。

 そのとき、冷たくも威厳のある声が、突然その場の和やかな空気を切り裂いた。

 声のする方へ目を向けると、濃い紫色のウェーブがかった髪のサキュバスが、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくるのが見えた。

「サティーナ・エリクシス・ヴェルゼノヴァ・アスモデウス。」

 彼女は胸の前で腕を組み、深紅の瞳でじっと睨みつけるように、傲慢な口調で名乗った。

 そして、一瞬だけヴィクトリアに視線を移すと、ゆっくりと言葉を続ける。

「我は元魔王軍四天王の一人。近接戦も遠距離戦もこなすが、やはり前線で敵を叩き潰すのが性に合っている。この名、聞いたことはあるか?」

 だが、ヴィクトリアは彼女の圧倒的な気迫にも微塵も動じず、くすりと笑いながら、指で髪をくるくると弄び、余裕たっぷりの表情で言った。

「あら、もちろん知っているわよ。だって……真ちゃん、あなたに『いろいろ』世話になっていたって聞いたもの。」

 真一の目は驚きで大きく見開かれ、思わず唾を飲み込みかけてむせそうになる。

 その瞬間、サティーナの笑顔は凍りつき、目は鋭い刃のように細められ、ヴィクトリアを睨むその視線には危うげな気配が漂い始めた。

「『いろいろ』……?」

 彼女はその言葉をゆっくりと繰り返し、静かでありながらも、じわじわと圧力を感じさせる声で問い返した。

「そうでしょう?」

 ヴィクトリアはぱちぱちと瞬きをし、唇の端に含み笑いを浮かべながらさらに言葉を重ねた。

「あのとき、真ちゃん、あなたの魔法で死にかけたって聞いたわよ?」

 その瞬間、場の空気が凍りついたかのようだった。

 次の瞬間、二人の強者がほぼ同時に一歩踏み出し、手を差し出す。

 互いに手を握り、表向きは外交的な微笑みを浮かべていたものの、その絡み合った指先が密かに力を競り合っているのは、誰の目にも明らかだった。まるで、少しでも気を抜けば、本当の戦いに発展しかねないほどの緊張感が漂っていた。

「よろしく頼むわ」サティーナは淡々とした口調で言う。

「こちらこそ」ヴィクトリアは艶やかに微笑んだ。

 傍らにいた真一は、自分が嵐の中心に放り込まれたような心地だった。

「あの……これ、大丈夫かな?」リアは愛理の袖をそっと引っ張りながら、不安そうに問いかける。

「大丈夫よ」愛理は微笑みながら答えたが、その瞳の奥に一瞬、得体の知れない感情がよぎった。

 真一は軽く咳払いをし、ようやく口を開く。

「雷野真一。このチームのリーダーで、戦術の立案と現場での対応を担当しています」

 そこで少し言葉を切り、ヴィクトリアを見つめてわずかに眉をひそめた。

「でも、どうして僕のことを知っているのか、まだ分からないのだ」

 それを聞いたヴィクトリアは、少し目を細め、真一をじっと見つめたかと思うと、ふいにいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 次の瞬間、彼女は何の前触れもなく一歩前に出て、真一を抱き寄せ、両手でその頭をしっかりと抱え、自分の胸に押し付けた。

「うわっ!?」真一は驚きのあまり、なすすべもなかった。

「ふふっ……やっぱり可愛い弟くんだね」ヴィクトリアは真一の頭を優しく撫でながら、楽しげに言った。

「今日から私のこと、『姉上』って呼んでいいよ?」

 真一は一瞬うろたえ、顔を真っ赤に染めた。

「こ、こんな呼び方は……」

「ん? 嫌なの?」ヴィクトリアは眉を上げ、わざとらしくため息をついた。

「いや、そういう問題じゃない!」真一は額に手を当て、無力感に襲われた。

 愛理とサティーナはすでに険しい表情を浮かべ、リアはどうしていいか分からず、あたふたと手を動かしていた。

 そのとき、ヴィクトリアの表情がふいに変わり、からかうような目つきが消え、代わりに滅多に見せない真剣な眼差しに変わった。

 彼女は真一の肩を軽く叩き、少し声を潜めて言う。

「でもね、正直に言うと、今回の任務はあなたたちの想像以上に危険だと思う」

 その言葉に、皆はそれまでの和やかな空気を一気に収めた。

 ヴィクトリアは周囲を見渡し、静かに続ける。

「私の直感は、一度も外れたことがない。幾度となく生死の境をくぐり抜けてきたからこそ、今もこうして生きている。そして今回、強い予感がする。魔王軍の重要人物、あるいはサティーナと同格の強敵に遭遇することになる――」

ついに第22章の翻訳が完成しました!今回の章のタイトルは、英単語一つを曲名にしたアニメのオープニング・エンディング曲を参考にしています。この巻で唯一、戦闘シーンが多めの章なので、タイトルを通して少しでも熱い感じを読者の皆さんに届けられたらと思っています。ぜひ楽しみにしていてくださいね!

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