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11 Muscle & Mutual: Parting with Promise

 その時、不意に近くから口論の声が響いた。

「汝の筋トレ法、全然理屈に合ってないぞ!」

 サティーナが腰に手を当て、マコアを鋭く睨みつける。

 マコアは腕の筋肉をポンと叩き、ニッと笑った。

「ただの力押しじゃねぇぞ!科学的な食事管理と効率的なトレーニングこそ重要なのだ!」

「この我に、筋トレのやり方を教えるつもりか?!」

 サティーナは目を細め、口元に不敵な笑みを浮かべる。

「当然だろ!俺はレサージス・シティ最強のフィジカルマスターだぜ!」

 マコアは胸を張り、誇らしげに言い放つ。

 サティーナは鼻で笑い、きっぱりと言い返した。

「戦場で敵を屠っていた頃、汝なんざまだ生まれてもいなかっただろう!我ら魔族の伝統訓練と王族食事法は、数百年も受け継がれてきたのだ。余計な口出し無用!」

 言い争いはどんどんヒートアップし、ついには互いの筋肉を見せ合う展開に。サティーナは腕まくりして逞しい腕を披露し、マコアはボディビルダーのように堂々とポーズを決める。巡回中の兵士たちもこの「筋肉対決」に興味津々で集まり、ひそひそとトレーニング談義が始まった。

「我は毎日50キロの荷物を背負って10キロ走っているわ!」

 サティーナが誇らしげに言えば、

「ははっ、俺なんか毎日100キロスクワットだぜ!ついでに体幹もみっちり鍛えている!」

 とマコアも負けじと張り合う。

 二人はしばらく睨み合った後、同時に吹き出し、ガシッと肩を叩き合った。

「悪くないじゃない。筋トレについては、多少心得があるみたいね」

 サティーナが満足げに頷けば、

「へへっ、あなたの筋肉の爆発力も、なかなかのもんだ」

 とマコアも笑顔を見せる。

 そのまま意気投合し、より効率的なトレーニング方法について熱く語り合い始める。周囲の兵士たちは唖然としていた。

 そんな光景を、リアは部屋の隅から戸惑い気味に黙って見つめていた。もともとこういうハイテンションな空気が苦手な彼女にとって、目の前の妙な展開についていくのはとても無理だった。

 その時、隣にいたエリカが小さく「……うるさいね」とつぶやいた。

 リアは少し驚いてエリカの方を見た。エリカは相変わらずうつむいていたが、珍しく口を開いたようだった。

 リアは少し戸惑いながらも、小さく「うん……ちょっとね」と返す。

 エリカはこくりとうなずき、少し間を置いてから静かに続けた。

「でも……面白いね」

 リアは彼女を見つめ、目にわずかな好奇心を浮かべる。

「面白いと思うの?」と探るように尋ねた。

 エリカは軽く首を傾げ、静かに言う。

「みんなすごく真剣で……すごく単純。ただ強くなりたいだけ。他のことは何も考えてないの」

 リアは一瞬きょとんとしたが、すぐにふわりと微笑んだ。いつも無口なこの少女が、思っていたよりもずっと繊細なのだと感じた。

「うん……そうだね」と穏やかに答え、まだ訓練の技を熱心に語り合っている二人に視線を戻す。口元には自然とかすかな笑みが浮かんだ。

 そんな和やかな空気の中、アリソンがふと軽く咳払いをし、場の空気を変えた。

「皆さん」と、彼女の声は相変わらず落ち着いていて威厳に満ちている。

「時間があまりありません。雷野さんたちを大統領閣下のもとへお連れしなければなりません」

 彼女はジェイソンを見て軽くうなずき、丁寧に告げた。

「ジェイソン隊長、お会いできて光栄でした。ですが、私たちはこれで失礼いたします」

 ジェイソンは眉を上げ、肩をすくめながら気さくに笑った。

「そうか、それじゃあ邪魔はしないことにするよ」

 彼は振り返って仲間たちを見渡し、軽く手を振る。

「よし、みんな、そろそろ行くぞ」

 アイリーンは小さくため息をつき、眼鏡を直しながら言った。

「次に会うときは、もっと正式な場でゆっくり話せるといいわね」

 マコアはニヤリと笑い、真一たちに手を振る。

「またな。次は一緒に戦おうぜ」

 エリカは黙ったまま隊の後を追ったが、去り際にもう一度リアを見つめたようだった。

 最後にジェイソンが意味深な笑みを浮かべ、真一を見て言った。

「また会おうぜ、ミスター・シンイチ・レイノ」

 そう言い残し、レサージス・シティのトップチームは踵を返して廊下の先へと消えていった。

 アリソンはその姿を見送り、身なりを整えると、真一たちに向かって言った。

「それじゃあ、行きましょう」

 微妙な空気が漂う中、静かな闘志と期待を胸に秘め、真一たちは大統領執務室へと足を進めた。

今回、ようやく第21章の翻訳が終わりました!今巻の中でも“山場”のひとつと言える章でして、個人的にもこういう繊細な感情描写や、登場人物たちの距離感・心のやり取りを描くシーンはとても好きです。……まあ、たぶん自分の性格のせいかもしれませんが、現実でこういう場面に遭遇することって、なかなかないですよね。若い頃は、一緒に夢を追いかけてくれる仲間がいたらなあ、なんて憧れてましたけど、歳を重ねるうちに、やっぱり現実は甘くないし、結局のところ利害関係がものを言う世界なんだな、と痛感するようになりました。


それでも、ありがたいことに、そばには愛してくれる妻と、可愛い子どもたちがいてくれるので、それだけでも十分幸せなのかもしれませんね。(笑)


はい、というわけで今回の章はここまで!次の章は8日後の8月4日に公開予定です。ぜひお楽しみに!

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