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ep3.ニアミス

「舞鶴さんっていつも本読んでるよねー!」

「本好きなの?」

「やっぱ舞鶴さんと言えば本だよね」


わたしは、本があまり好きではない。


でも、気が付けば本を読んでいる。

本はいつも身近にあり、わたしに寄り添ってくれる。

退屈なとき、1人でいるとき、人と関わりたくない時、本がいつもわたしを助けてくれる。

ただ文字を追っているだけでいつ間にか時間が過ぎ去り、退屈な日々を埋めてくれる。

知らない知識、書いた人独自の人生観、予想もつかない物語。

そんなわたしについたあだ名は『本の子』

人とコミュニケーションをとることがあまり得意ではないわたしにとって、本はいつでも最大の味方だった。

本は特別好きな訳ではないけど、色々退屈を凌げるものを探した結果、本が1番コストパフォーマンスもタイムパフォーマンスも良いということに気が付いただけ。

漫画はすぐに読み切ってしまうし、お金がたくさんかかる。

インターネットは情報の質がとても低いし、わたしとは価値観がかけ離れている、所謂“ ふつーの人”たちがワイワイと遊んでいるだけの場所。

そんなイメージ。

コミュニケーションが苦手なわたしがSNSなんてやる訳がないし、スマホはもっぱら家族との連絡用ツールと化していた。

それに引き換え、本はいい。

文章を読んでいるだけで時間が溶けていくし、1冊に大ボリュームの活字が詰まっている。

図書館に行けばお金はかからないし、いつでも持ち運べる。

そういう意味では、わたしは実は本が好きなのかもしれない。

友達はいないことはないけど、多くはない。

昔あった“ あの事件”をきっかけに人と関わるのが臆病になってしまった。

そういえば、本を読み始めたのもあの時期だったような気がする。


『でさーっB組のマルノってやつががドッペルゲンガーを見たって騒いでてさーっ!』

『マルノって誰だし』

『ギャハハ』

クラストップカーストの澤田さんが取り巻きの女子と一緒に談笑に興じている。

声が大きい、うるさい。正直言ってかなり耳障りだけど、それを本人に言うような度胸はわたしは持ち合わせていない。

わたしはただ、クラスの中で空気と化して、ただ本を読むだけ。

それにしても、

「ドッペルゲンガーかぁ」

ドッペルゲンガー、前に本で読んだことがある。

この世界には自分とまったく同じ顔をした人間が数人居て、その人に出会うと死んでしまうという都市伝説じみた話。

主にとオカルト系の話で、科学的根拠もなにもない。

けど、実際に自分とそっくりな顔の人と出会って意気投合して仲良くなった人が海外にいるっていうのも、何かの本で読んだ気がする。

私が思うに、出会ったら死ぬっていうのは自分とそっくりなドッペルゲンガーが自分を殺して、自分に成り代わるからではないかと解釈している。

自分とそっくりなのだから周囲の人間は成り代わったことに気づかず、いつも通りの関係が続くというわけ。

そう考えると、かなりオカルト色が強い逸話だし、オカルトを超えて若干ホラーの領域にまで足を踏み入れているような気もしなくもない。

だとしたら、わたしの周りの人も実はドッペルゲンガーと出会っていて、わたしが見ている人たちも成り代わったドッペルゲンガーであるという可能性も否定しきれないということになる。


例えば、まさに今ドッペルゲンガーの話で持ち切りの澤田さんが、実はドッペルゲンガーでついこの間まで澤田だった人間はもうこの世にいないかもしれない。

だとすると、ドッペルゲンガーは一体何者で、何が目的なんだろうか。

それこそがオカルトというジャンルの真骨頂で、そのすべてが謎に包まれていて、考察が考察を呼ぶから未だにオカルトというジャンルは衰退こそせど、存在し続けるのかもしれない。

たくさん本を読んでいると、そんな仮説がふと浮かんでくることがある。


「さて、今日読む本は…と」


***


土曜日、風邪を引いた。咳がとても酷かった。

市販の風邪薬で様子を見たけど、完治には至らなかった。

病院に行くこと自体はそこまで嫌ではないけど、風邪のせいか身体が気だるく、中々気分が持ち上がらない。

親にいい加減病院に行きなさいと言われ、月曜日に学校を休んで渋々病院に行くことになってしまった。

わたしの住んでいる水都市はそこそこ大きな街で総合病院があるので、そこに行くことにした。

「今日は帰りにシオンモールの本屋さんに行こうと思ってたのなあ」

そんなぼやきを漏らしながら気だるい身体をつき動かして病院へと足を運ぶ。

朝の病院にはわたしと同じく診察に来た患者さんがいて、すぐに帰れそうにはなかった。

まあ、待ち時間がどれだけ長くてもわたしには本があるからいいんだけどね。

待合室で本を読んで名前を呼ばれるのを待ことにした。

今日はオカルトの本。

『驚愕!!ネッシーは実在しなかった!?』

『当時の製作者が語る!ミステリーサークルの驚くべき製作過程とは!』

『古代オーパーツは未来人の遺留品!?』


そんな見出しが書かれている如何にもオカルトチックの本を読むこと、30分が経過。


「そろそろかな」

結構待った気がする。そろそろ聞き耳を立てておかないと名前を聞き逃して順番を飛ばされてしまうかもしれない。

と、考えていた時、

ガララッと看護師さんが引き戸を開ける音がする。

「マイヅルさーん」

呼ばれた。ようやく診察に行ける。今回の本はまあまあ面白かったかな。まあ、退屈しのぎに変わりはないけれど。

看護師さんに呼ばれ、診察室に向かい名前を確認される。

「マイヅルさん、マイヅル()()()さんですね」

「はい」

「こちらの診察室にお入りください」

そう告げられ、ようやく厄介な風邪の診察を受けられることとなった。



***



診察と会計が終わり、帰る途中病院の自動ドアの手前に自販機があるのが見えた。

「なにか飲もうかな」

自販機の前に向かい、お金を入れる。

飲み物を選んでいると、視線を感じた。

視線の方向に目を向けると、わたしと同じくらいの背丈の子がこっちを見ていた。


ただ、その顔は()()()()()()()()()


「…メガネ持ってくるの忘れた」


近視。

わたしは目が悪く、普段メガネをかけている。

近くのものはみえるけど、少し遠くのものを見るとぼやけて見えなくなる。

ただ、本を読んだり、日常生活を送るくらいならなんの問題もないのでこうやってたまにメガネを忘れたりすることがある。

「帰ろう」

自販機で買ったジュースを手に取り病院を後にした。


病院から出て帰り道を歩いていると、後ろから誰かが急いでこっちへ向かってくる音が聞こえてくる。

後ろをふりかえろうとした瞬間、なんだか少しだけ視界が揺れた、ような気がした。


振り返ったその先には、誰もいなかった。

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