ヘッドライト
雨の降る帰り道。日は既に落ち、林と小規模な畑に挟まれた田舎道を走る私の視界に入るのは、メーターパネルとヘッドライトに反射する雨粒と濡れた路面くらいだ。
一見、心細くなるような情景だが、割と住宅街に近く夜でもそれなりに往来がある。
いつも通りオーディオから流れるお気に入りの曲を聞きながら、鼻歌交じりにステアリングを握る。
不意に左前方からヘッドライトの明かりが出現した。
「はて?」
私は首を傾げる。
この道路は右に湾曲しており、従って対向車が来るなら右からだ。
「あんなところに道なんてあったっけ?」
そう呟きつつも明かりにどんどん接近する。
そして、最も近づいて判明したのは、その明かりは左側の道路からこちらに合流しようと停止している車のものであった。
「珍しい。」
今まですれ違いはよくあるものの、側道からの合流は思い出す限りなく、珍しいものを見てほんのちょっと得した気分で帰宅した。
そして、翌朝。私は出勤のため田舎道を走っていた。雨は止んだものの路面はまだ湿っている。
「え?」
道の途中、無意識に右を見た私は声を漏らした。
そこは昨夜、車が停止していた位置・・・の筈だが、どういうわけか道はなく草に覆われた崖になっていた。
「どういうこと・・・?」
運転しながら周囲を見回すが、昨日車が止まっていたのはあの崖があった場所で間違いない。落下防止の照明などとの見間違いを疑うが、車を横切る前にヘッドライトの光は確かに動いていた。
私が見たものは何だったのだろうか?