だいはちわ
それから毎日のこと。
イッちゃんの前には大勢のひとが並びました。
毎日毎日、イッちゃんの中にたまった水をくんでいきます。とぷん、と見事にたまった水をくんでいきます。
それにつれ、キヨさんの前には米だわらがいくつもできあがります。
イッちゃんには、米というものがよくわかりませんでした……が、ひとびとの様子を見れば、どうやらお金のようなものだということは明白です。
それはともかく……イッちゃんはこの状況をたいへん、喜びました。
なにしろ、イッちゃんは今、たしかに願いを叶えているんですから!
ええ、間違いなく、みんなののどの渇きをいやしているのです!
「はいはい、次のひと! はい、そこまでですよ、そこまで! それ以上くんだら、もう一合いただきますからね! はい、次!」
もちろん、イッちゃんにだって、なにが起ってるのかはわかります。
いくらまだ12歳だといっても、わかります。
「ああ、ちょっとこえちゃってますね……じゃあ、もう一合いただきますからね。嫌? 嫌ならいいんですよ、この米持って帰ってください。ほかに水がほしいひとはいっぱいいるんですからね……はい、次!」
たしかに、みんなの顔は幸せいっぱい、というわけでもないようです。
どの顔にも、不満不服が香辛料のようにまぶされています。
それでも……それでも。
「あら、米がないからこの布で交換してくれ? 今年は不作だった? ダメダメ、決まりですから。ちゃんと米を持ってきてください。はい次!」
のどの渇きをいやすために水をほしがるひとがいて、そのひとたちに、自分の中の水を分け与える……その願いは叶っているのです。
たしかに、キヨさんはちょっとズル賢く、お金をもうけているかもしれません。
それでも。
砂漠の村で、なんにんも飢えて死んでしまう……それと比べれば、はるかにマシではありませんか。
ちょっと前まで、身体をバラバラにされ、痛みに苦しんでいたのです……今は痛みなんかどこかへ消えて、充実感でいっぱいです。
そしてさらに、イッちゃんを喜ばすことがありました。
キヨさんが、たまったお米、もといお金を使って、イッちゃんをもっと立派にしてくれたのです。
ちょっとした柵に囲われて、見栄えがよくなりました。
イッちゃんの身体の中に、筒が三本のびて、水を同時にくみあげることができるようになりました。
「よし、これで効率も上がるでしょう……そうすればもっと銭を稼げるはず!」
たしかに、これならもっと多くのひとに水を分けることができる……イッちゃんの水で救われるひとが増える!
それでキヨさんも喜ぶなら一石二鳥、いや一石三鳥です。
(ああ、やっぱりここはオアシスだったんだ……!)
イッちゃんは無邪気に喜びました。
くみあげられる水は三倍になり、水をもらうひとの数も三倍になり……そして、イッちゃんの中の水は、どんどんなくなっていきました。