だいさんわ
井戸に転生して、大喜びのイッちゃん。しかし、なにかが変でした。
まず、周りの様子が変。
そこら中、見慣れないものであふれています。
わっさ、わっさ、あやしげにゆれています。
まるで、化け物……イッちゃんは身をすくませました。
まあ、井戸なので、逃げることもできなければ、恐がる必要もないんですが。
そうと気がついて、イッちゃん、冷静になりました。
冷静にあたりを見渡します……緑です。
あふれているのは、緑のようなのです。
目を移せば緑が映り、目を映せば緑が移る。
緑に緑、そして緑。
ふと気づきます。
砂漠が、ない……!
これは大変なショックです。
砂漠がないなんて!!
ええ、どうも見えているのは、緑の植物たちのようなのです……草や木々が、いたるところに生えています。
砂漠に抱かれて育ったイッちゃんです。
緑を目にするのは、オアシスくらい。オアシスと言っても、これほど緑におおわれている場所なんてまずありません。
そうして、イッちゃんは思いました。
これこそ、ホンモノのオアシスだ……。
村のみんなが知れば、どれほど泣いて喜ぶことでしょう……!
(ああ、そっか……井戸になったんじゃなくて、天国に来たのかあ……)
イッちゃん、納得です。
イッちゃんが幸せな心地に浸っていると、ほかにも見慣れないものがいっぱいありました。
飛んだり、跳んだり、詠んだり、呼んだりしている、ちっちゃいもの……生きものたちです。
イッちゃんがまるで見たこともない、奇妙で、キテレツで、コッケイで結構な生きものたちです。
そのとき、気がついたのです。
なんだかずうっと、ざわざわする……と思っていれば、聞こえていたのは、この生きものたちの声ではありませんか。
イッちゃん、思いました。
なんとスバラシイ、井戸の世界!
まさか、生きものの声がわかるなんて!
(そっか、天国の生きものはしゃべるんだ……)
イッちゃん、納得です。
すると、通りがかるひとがあります……たぶん、ひとです。
(へえ、天国にもひとがいるのかあ……)
そのひとも、やっぱりちょっと変です。
村のみんなと明らかに違います。
顔つきも違えば、肌の色、着ているものも違う……ホントにひとなんだろうか。イッちゃんは首をかしげました。
そのひともまた、イッちゃん(というか井戸)を見ると、首をかしげました。
「誰かしら、こんなもの作ったひとは!」
そしてほどなく、イッちゃん……もとい井戸は、きっちりとフタをされてしまいました。