だいにわ
イッちゃんはポカンとしました。
そりゃそうでしょう。自分が井戸になっているんですから。
井戸……?
イッちゃんはこれまであったことを考え、今の状況をまじまじと見つめます。
い、ど……?
これまで村の近くで見てきたものと少し違うようですが、確かに井戸のようです。
イッちゃんはじっくり考えます。
はたと、思いいたります。
井戸……井戸になった!
ようやく、実感がわいてきたようです。
そして、喜びました。歓喜しました。
「やった! ねがいがかなったんだ! 私は井戸になった!!」
イッちゃんは跳び上がらんばかりの喜びよう……ですがまあ、井戸ですから。跳び上がるなんてもちろん、できやしないんですが。
井戸、はたまた、居土……ええ、地面にいるのがその性分です。
とはいえ、イッちゃんが喜ぶのも無理もありません。
なにしろ井戸です……これなら、ひとびとの渇きもいやせることでしょう。この先も、ずっとずっと。だって井戸なんですから。
イッちゃん、こころのなかでさけびました。
これで村のみんなを、村の子たちを助けることができる……!
それから、ポツリとつぶやきました。
「ああ、あすこはホントに、キセキの場所だったんだなあ……」
たしかに、奇跡にはちがいありません。
「あたらしい水脈……うん、たしかにあたらしい水脈だもの。さすが長、こんなことまで知ってたなんて!」
まあ、それはちょっと買い被りなんですが。村の長は、こんな、井戸に転生することまで知ってたわけではありません。
ともあれ、晴れて井戸に転生したイッちゃんです……これから、うんとみんなの渇きをいやしていこう……決意がみなぎります。
そうして、ひとしきり喜んで気がつきました。
どうも、なにかが変だということに。