ある仕事が終った日
時計の音と蛙の声が響く。
山奥にあるこの家では、動物の声か自然の音しか聞こえない。
すでに深夜2時を回っており、あくびをする。
キッチンもあるこのリビングは玄関のドアと直通で、私は真ん中のテーブルに1人で座っていた。
「ただいま。」
「……ま。」
玄関のドアが開く。
「おかえり、ご飯あるよ。」
2人の男性がリビングに入ってきた。1人は190cmを近く、白い肌が目立つ。もうひとりは大きめのパーカーを着ており、糸目で目つきがとても悪かった。
「風呂入ってくる。」
「ご飯、食べたい。」
大きめのパーカーを着た男ーー久遠はテーブルについた。
私は味噌汁を火にかけて、ご飯を器に盛る。
「はい、久遠さん。」
欠伸をしながら、ソファーにもたれ掛かった。
無言で久遠は食べる。
「美味しい。」
「そ、よかった。」
おかわりを催促する手を伸ばすので、またご飯と味噌汁をお椀についだ。
「……帰ってすぐお風呂に入ってたってのはそういうことよね。」
「うん。」
特に意味はないがこっそり聞く。
「相手は?」
「若い、派手な女。多分、夜の店の人。客の金奪って逃げた。」
「……。」
頭にタオルを被せたオミトが席に座ったので、ジト目でみる。
「ごめん、水欲しいんだけど。」
髪をタオルで拭きながら、テーブルについた。
「今日も現場で女としてきたの?」
オミトは虚をつかれたのか、目をぱちぱちと瞬きしながら
「久遠が話したのか?」
「聞かれたから、答えた。」
全力で首を振って否定する。
「いやいやいや、俺は基本的に君のことしか抱く気ないから。」
飛び上がり、必死に弁明しようとするが、私はオミトを無視して久遠に訊ねる。
「久遠、どんな風にしてたの?」
「金の場所聞くための。拷問。そのついで。」
「そうそう仕事!仕事!」
今度は全力で肯定するが、正直鬱陶しい。
「オミトは黙っといて。」
ピシャっと言うと、バツが悪い顔をして黙った。
「女の、手切り落として。そいつが、死ぬまで腰振ってた。」
「……。」
「金の場所聞いた後。さっさと取りに行けばいいのに、女としてやがった。」
「……。」
「仕方ないから、1人で金を取りに行った。金庫、開けるの大変だった。」
「……。」
「おかげで、片付けが遅くなった。掃除屋が、ブチ切れた。俺も、怒られた。」
「シュノちゃん怒ってる?」
こちらの機嫌を伺うようにオミトが顔を見上げる。
「べっつにー、女くらい好きな時に抱けば?」
「俺が悪かった。許して!」
久遠も氷のような冷ややかな目で、
「自分には?」
「すまん!」
両手を顔の前で合わせて、申し訳無さそうな顔をしながら謝る。
ため息をつきながら、コップに水を注ぎ。オミトの目の前に置いた。
「久遠さんにあんまり迷惑かけちゃダメよ。」
「は、はい。気をつけます。」
ご飯と味噌汁をお盆に載せ、箸を箸置き添える。
「ご飯早く食べてしまって。片付かないから。」
「ああ、ありがとう。」
オミトは一口食べて怪訝な顔をする。
「今日の味噌汁の具、何?」
「アボカド。」
オミトは久遠と共に殺し屋をしている。
私は一般人だが、色々あってオミトと事実婚をし、3人で暮らしだ。
2年付き合ってわかったことはオミトはただの凶悪犯で久遠はそれに口出ししないということだけ。
ただの一般人と、殺し屋たちの生活が怠惰に続けられる。それだけの話。