自由旅
泡を吐く。すると、ポワリと上がって行って勢い良く水を巻き込みくるくるとリングになっていく。
人のように可笑しな出目にならなくてもこれくらい簡単。水中で息が出来ないなんて……なんて不思議な生き物で、なんて不自由なんだろう。
確かに海藻は少しだけ飽きたような気もするけれど、生き物を殺して食べるだなんてさ残忍じゃないか。不便な上に、あんまり頭も良くないのかな。
水中は良い、日中は太陽の光がキラキラと届くし、星屑が落ちてきそうな程に瞬く夜はこっちの世界では夜な夜なダンスパーティー。珊瑚のマスターが質のいいカクテルを振る舞ってくれるから皆ほろ酔いで楽しい宴。
今夜は少し砂が舞う。こんな時には一回りして綺麗な所を探すのさ。
スイスイ進んでぐんぐん泳ぐ。
泳ぐのは好き、自由だ。何にも縛られない気持ちのいい時間。
ふと、海面が揺れた。
何か塊がトプンと落ちてくる。
よく見たら白くて、鳥?
ふわり、ふわりと揺蕩いながらどんどん沈んで来た。
人みたいな形。でも背中から変な物生えてる。
「君は誰」
金色の瞳、金色の髪。本当に人間みたいだ。でも、息が出来ているみたいで不思議。
「私? 私は誰でもない」
「そう、じゃあね」
「まって、」
「なあに」
「どこへ行けば良いのか分からないの」
「? どこへって、君はどこへ行きたいの」
「……どこ、どこだろう?」
「君が分からないなら分からないよ」
「そっか……」
「あぁ、でもずうっと向こうの南の暖かい所に住んでいる魔女なら教えてくれるかもしれないよ」
「魔女?」
「うん、そう。1000年も生きているっておじいちゃんが言ってた。何でも知ってるんだって。叡智の魔女とも呼ばれるらしいよ」
「叡智の魔女……」
「あ、でも行くなら気をつけて。手土産の満月酒を忘れずにね」
「満月酒……それがどこにあるのかわからないわ」
「……そう、でもそれが無いときっと会いに行けないと思う」
「なぜ?」
「満月酒はね、この5つの海の中で一番高価なお酒って言われているんだって。王様が飲むのも4年に一度くらいのとっても貴重な物なんだって」
「そんな高価で貴重な物……持っていないわ。お酒は長い年月をかけて作られるのでしょう? 見たことも飲んだ事も無い物を探すのは難しい」
「そうだね、……よし、分かった。今日は気分が良いから一緒に探してあげる」
「え、良いの?」
「良いよ。見つかるまで探そう、君の行く道も解るかもしれないし」
「……ありがとう」
「じゃあ、行こう」
「うん」
暖かい南の海まで随分とある、ついでにお酒も見つけないとならないぞ。やる事いっぱい。でも、ウキウキしてきた。次の星屑パーティーまでにはここへ戻れるかな。いや、戻れなくたって構わないか。自由なんだ、どこまでも行ける、どこまでも自由なのだから。
さぁ、行こう――――
ワンライ(一時間ライティング)でした。
海の中、潜ってみたいです。その勇気はないけれど。きっと泳げたら楽しいのだろう。