依頼 第四節
「成程、山脈を越えてから大規模転移魔法を発動して軍隊を召喚する算段という訳ね。それなら協定にも違反しないし、現在ギニー火山をねぐらにしている赤竜を刺激する事も無いって事ね・・・中々考えたじゃないの」
「そうだな。だが逆に言えばそういった作戦の性質上、動員出来る人員は限られてくるだろうから襲撃する我々としてはやりやすいと言えるがな」
ジーナの言葉にロブはそう返します。
「しかしそんな重要な敵の情報よく入手出来ましたね~」
「ウチの店に出入りし、アリークに潜入しているとある国家の諜報員から情報を買った。まあ少々値は張ったがな」
「成程それで・・・しかしアリーク側は随分急いで動いてる気がしますね。先の国境での小競り合いからまだ一ヶ月も経っていないのに」
「それだけ連中の尻に火がついているという事だろう。先の小競り合いでは数で勝っておきながら、結局我々を倒す事が出来なかった上に傭兵機士の手を借りてようやく戦場から離脱したという無様を晒したのだからな」
「何とか巻き返しを図りたいと?」
「そうだな、しかも相手は因縁深きレイランだ。敵側のアリーク純血機士団の指揮官からすれば、自己の保身の為もあるだろうが多少の無茶をしてでも痛手を与えたいだろうしな」
「それはどういう・・・?」
「その事については私から説明しよう」
今まで沈黙しロブの話を聞いていたカリームは、トワの疑問に答えるべくそう声を上げます。
「元々、アリークと我々レイランそれに隣国のマルフィムの三ヶ国は一つの国家で、アリーク人達が他民族、他種族に圧政を敷き差別して自分達ばかり権益を得る最悪の国だったのだ」
カリームは苦々しくそう語り話しを続けます。
「そしてそんな圧政と差別に耐えかねた我々レイランの民と、現在マルフィムを治めている小人族やドワーフ族は三十年前に大陸西側諸国の助力を得て、独立戦争を始め同胞達の多くの血を流しながらも数年で連中から分離・独立を果たした。しかし・・・」
「それを面白く思わず、かつての栄光が忘れられないアリークは再びレイランとマルフィムを吸収しようと戦争を仕掛けて来ているという訳ですか」
「その通りだ。しかも連中自分達単独では野心を達成出来ないと悟ったのか、ここ十年ばかりはベルモンド帝国を始めとする大陸東側諸国からの援助を得てますます我々との対決姿勢を強めている」
「そんな歴史背景があるならレイランとアリーク。両者の争いは誰にも止められないという事ですね」
「他者から見れば不毛な争いと映るだろう・・・しかし我々レイランの民はアリーク人共に何十年、何百年と虐げられてきた過去を持つ故に連中を決して許さないし、我々が夥しい流血の果てに勝ち取った国土を犯し奪う気なら・・・全力で叩き潰す!」
トワの一言にカリームは表情を険しくしてそう答えます。
そしてその様子を観察していたロブはタイミングを見計らい言葉を発します。
「さてこの様に依頼主は国を守るという使命感とやる気に満ち溢れている・・・ならそのやる気に見事応えてみせるのが我々だと思うのだが皆どう思う?」
「応えるしかないわね。まあアリークやり口は元々あまり好きじゃないし、個人的に連中のバックにいる奴らにも思う所はあるしね」
「面倒くさいけど、ここまでやる気を出されちゃやるしかないね」
「どんな理由であれ虐げられている人々を見過ごせません
。戦いましょう」
「三ヶ国の、特にレイランとアリークの話を聞いた感じ色々思ったけど・・・私はレイランの人々の為にコルタナを握る事が一番性に合ってるかな」
ジーナ、ハチロウ、ミヤコそしてトワはロブの言葉にそう答えて意を決します。
「・・・そうかならば準備が整い次第ギニー山脈に出発しアリーク軍及び純血機士団を発見し、これを徹底的に叩く。それで良いな?」
「「「「了解!」」」」
こうしてリャンシャン竜圏傭兵機士団はレイランの依頼を受け、アリーク撃退の為に、テューロス地方でも一、二の難所で知られるギニー山脈に赴く事を決めるのでした。




