虜 第一節
トワが初陣にて戦場を駆け回っていたその頃--
ピピピッ、ピピピッ--
「ううん・・・ふぁ~」
スマートフォンから聞こえるアラーム音で目を覚ましたトーコはそう勢いよく欠伸を洩らしました。
「・・・よく寝た。けど私なんで眠っていたんだっけ?」
そう自問自答し、少し考え込んだ後・・・トーコは例の一騎討ちの一件とその顛末を思い出します。
(つ!そうだあの時、瀕死の状態だったトワが突然復活し、何故か物凄いオドを纏って、それが暴発して吹雪が起きてそれで・・・私の意識は途切れた・・・そして私は今!?)
当時の状況をなるだけ冷静に思い返していたトーコは自身の周囲、眠りから目覚めた場所を目にして驚きます。
「ここは私の家の、私の部屋!もしかして私は地球に還ってきたの!?」
半ばパニック状態になりそう叫び、しばらく混乱しますが・・・時間が経つにつれて段々と落ち着いてゆき、冷静に周囲を観察出来るようになっていきました。
「いつまでもベッドの上に寝っ転がってても仕方無い・・・とりあえず起きよう」
そうトーコはベッドから立ち上がりまず自身の部屋の中、学習机や本棚、クローゼットやタンス等の調度品を調べたり、部屋の窓から見える外の景色を眺めます。そして・・・
(何がどうとはハッキリと解らないけど・・・何か引っ掛かるというか、違和感があるのよね)
自身のいる空間にそんな感想を持ったので、自室だけでなくその他の部屋や、階段を降りてバスルームやトイレにキッチンそれにダイニング等々を探索し、最後にリビングルームを調べ終えた時今まで感じていた違和感の正体に気が付きます。
「・・・ホコリも溜まっていないし、机とか椅子とかソファーの位置も気持ち悪いぐらいにキッチリと整っていてあまりに完璧過ぎる・・・少なくともこの家は、私の暮らしていた家に限りなく似せているけど、私の家じゃない」
トーコがそう力強く言い放つと・・・
パチパチパチ。
と、まるでトーコの解答を讃えるような拍手が上がります。
「!?」
トーコが拍手の音が上がった方、ダイニングにあるテーブルの方を向くとそこにはいつの間にか、褐色の肌に腰の辺りまで伸ばした真紅の髪とその髪と同じ色をした豪奢なドレスを身に纏い、黄玉色の瞳をした見る者によっては恐怖すら感じる絶世の美女が椅子に腰かけていました。
「うぐぐっ!」
トーコはその美女を見た途端、美女がその身に纏う膨大かつ深遠な真紅色のオドに当てられ、思わずうめき声を上げその場に突っ伏してしまいます。
『フム、普通の人間なら感知すら出来ぬ我がオドを感じるか・・・流石は異星人といった所か』
そうトーコの頭の中に直接厳かな声が響くと、彼女はその声の主が目の前にいる紅髪の美女である事を本能的に理解します。
「貴方は・・・一体・・・何者なの?」
目の前にいる絶世の美女が纏う巨大なオドと気配に圧倒されつつも、トーコは勇気を振り絞り尋ねます。しかし・・・
『なんで人間風情に私の事を教えてやらねばならんのだ?』
そう紅髪の美女はトーコを明らかに見下してそう答えました。ですが・・・
『フム、今は特別に気分が良いから教えてやろう』
そう述べると紅髪の美女は椅子から立ち上がり、その魅力的かつ端正のとれた肉体をわざわざトーコに見せつけると、続けてとんでもない宣言をしました。
『我が名はロッソ。人間やその他の種族からは赤竜とかドラゴンとか呼ばれ畏れ敬われている』




