初陣 第四節
「き、急にそんな話をされても・・・私これでもまだ一応ハイライン王国正規機士団、ネヴォラス機士団の見習い機士候補ですし」
急に振られたスカウト話に戸惑いトワはそう返答しますが・・・
「しかしその見習い機士の座を賭けた一騎討ちではキャバルリー戦、対人戦共にストレートで敗北していたが」
「うぐっ!」
「確か勝負に勝ったら何のお咎めは無いが・・・敗北した際には見習い機士の資格剥奪と国外追放の刑に処されるという条件だった筈では?」
「うぐぐっ!」
一騎討ちの前、あのハイムとかいう魔導師から一方的に宣告された条件の事を思い出しトワは思わず唸ります。
しかし同時になぜその事をロブが知っているのかという疑問も浮かびます。
「そういえばどうしてその条件の事を貴方が知っているんですか?」
「私の事ならロブか団長と呼んで構わない。どうせ長い付き合いになるだろうしな」
「はあ」
「ところで何で君の一騎討ちの条件を知っているかという話だったな・・・それは君の師であるヒューから全て聞いたからだ」
「成程それで・・・ってヒューさんは今どうしてるんですか!?」
ロブが例の条件の事をヒューから聞かされたと納得したトワでしたが・・・
自身が、正確にはドラゴンが引き起こした騒動の責任を自分ではなくヒューが取らされるかも知れない事に気付きトワは動揺し、ロブに慌ててヒューの安否を確認します。
「国の官僚と機士団長から事情聴取を受けたようだが・・・特に罰は受けていないし、降格や左遷もされていない。安心しなさい」
「そうか・・・それなら本当に良かった」
そうトワは心の底から安堵します。
しかしそれにより思考がクリアになった事により新たな疑問も浮かびます。
「しかしいくらドラゴンのオド?とやらを宿しているかも知れないと言っても、機士として第一階梯を修了したばかりのせいぜい半人前をわざわざ入団させようとする意図が今一解らないんですが・・・」
「むっ、それは」
「それは、貴女を手元に置いておけば行方知れずとなったミナカミ・トーコさんだっけ?を始めとする地球人達がドラゴンのオドに吸い寄せられてウチで何人か身柄を保護出来るかもという打算からよ」
先程までトワとロブの話を大人しく聞いていたジーナは突然そう発言します。
「ジーナ!」
「隠しておいてもいずれバレるわよ。なら正直に話して納得してもらった方が手っ取り早いと思うけど?」
ロブの叱責にジーナは悪びれる様子もなくそう答えます。
「つまり私をトーコを始めとする地球人達を引き寄せるエサとして雇いたいと?」
「まあぶっちゃけて言えばそんな感じだかな。でも貴女とっても悪い話ではないと思うけど?」
「どういう事ですか?」
「見習い機士の資格も剥奪され、おまけに国外追放。止めに見知らぬ土地に放り出されほぼ無一文の今の状況を考えれば・・・私達の所に来るのが今の所最良の選択だと思うけどどう?」
「う、う~ん」
ジーナの魅力的過ぎる提案にかなり心が傾くトワでしたが、あまりに美味い話だったの為に警戒を覚えます。
そんなトワの様子をモニター越しに見ていたロブは、彼女の心情を自分達の方に持っていく為に更に畳み掛けます。
「我々の持つ情報網は広大でテューロス地方だけでなくドラッヘ各国の政府や軍隊等の官僚組織は無論、裏の社会や勢力にも精通している。それらを駆使すれば君の友人であるミナカミ・トーコを発見する事も容易いと思うがどうだろうか?」
「・・・解りました私の根負けです・・・私を是非あなた達の仲間に、リャンシャン傭兵機士団に入れて下さい」
最後にロブの放った言葉が止めになったのか、エサとして扱われる事に少々不満を覚えつつも入団を承諾します。
「やった!今までウチの傭兵機士団ってむさ苦しい男共ばっかりで同性の子は少なかったから、新しく女の子が入って来てくれるのを楽しみにしてたんだよね~!」
そう言うとジーナはトワの手をしっかり握って自身が乗ってきたカミオンに引っ張り込みます。
「さあ、まずはそのボロボロの服に替わる機能性も高くお洒落な服をお姉さんが身繕ってあげるから楽しみにしてなさい!」
「は、はあありがとうございます・・・」
今までと打って変わってテンションが高まったジーナのペースに巻き込まれつつトワはそう返答します。
こうして紆余曲折を経てトワはリャンシャン竜圏傭兵機士団に入団し、そして半年の月日が流れました--