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Cavalry Saga キャバルリー・サガ  作者: 雲来末
追放立志編
53/147

始まりの終わり 十五節

「トワ!」


「トワさん!」


 トワの惨たらしい観覧席から眺めていたトーコとヒューは、顔色を真っ青にしてそう叫び観覧ステージから飛び降り、審判の制止を振り切って血溜まりに沈むトワの下に急いで駆けつけます。


 そんな二人の様子をトワは薄れゆく意識の中でぼんやりと眺めていました。


(あ~私が不甲斐ないせいで二人に迷惑かけちゃってるな)


 今なお必死な様子で自分を助けようとしているトーコとヒューの姿を眺めつつトワは一人そう思います。


(二人には本当に申し訳ないけど、もう私は死ぬみたい)


 涙を流しながら必死に治癒魔法を施すトーコと、普段の物静かな様子と打って変わって機士団員達に怒号を飛ばすヒューに対してトワはそう謝罪します。


(・・・ここで死ぬことが変えられない事実と解っていてもやっぱり悔しいなぁ。結局機士にはなれず、母さんや伯父さんに何も返せず、クリスの病を治すお金も用意出来なかったうえに手立てすら探せなかった)


 トワは今際の際に故郷の家族や親友の事を思い出し、それらの人々に恩を返す事やもう何もしてあげる事が出来ないと理解し、後悔の念に捕らわれました。


『それ程まで悔やんでいるなら少々手を貸してやろう』


 突然トワの頭の中に厳かな声が響きます。


『命は助けてやる。後の事は自分でどうにかせよ』


(この声は・・・あの遺跡で聞いた声だ!)


 先程から頭の中に響いていた声、それはかつて故郷の遺跡で出会った、長い白銀の髪に翡翠色の瞳をした恐怖さえ覚える美貌を持つ絶世の美女がトワの頭の中に語りかけた声だと気がついた時・・・トワは意識を完全に失い、そして大きな異変が始まります。


 ムクリ、と血溜まりに倒れていたトワが突然何事も無かったかの様に、しかも身体中に負っていた夥しい致命傷すら完全に治りきった状態でその場に立ち上がりました。


「トワ?」


 大粒の涙を流しながら治癒魔法を施していたトーコはトワの異変にいち早く気付き彼女に手を差し伸べようとしますが・・・ヒューに阻まれた上に彼に抱き抱えられ、その場から数メートル場所に移されてしまいます。


「バンベリー先生!どうして!?」


「・・・様子がおかしい。今、トワさんに近寄るのは恐らく危険です」


 ヒューは本能と長年の経験で培った勘から、今のトワから何かとてつもなく危険な気配を感じ取り・・・そしてその勘は間違いでは無かったと証明されます。


『耳長共の遺物を使いオドの乱れを起こし我の眠りを妨げるとはな・・・』


 トワの口から発せられたトワの物でない声にトーコやヒューそれにロブを含めた観覧ステージにいた全員が凄まじい恐怖を感じ黙り込んでしまいます。


『面倒だから殺しはせぬ・・・だが相応の代償は払ってもらうぞニンゲン』


 そう観覧ステージを見上げながら宣言するとトワは、件のオニゴトの時と同じ・・・いやそれを遥かに上回る真っ白なオドを纏います。そしてそのオドは一般人にすら視認出来る程に濃密にかつ巨大になってゆき・・・最終的には観覧ステージを丸ごと飲み込む程に大きくなり更に暴風と大雪さえ伴うほどの規模になります。


「先程の物言いといい・・・やはりあの白く強大なオドはドラゴンのオドかっ!?」


 トワが、正確に言うとトワの中に混ざり込んでいる何者かが起こした巨大な猛吹雪によりホワイト・アウトした世界でヒューはそう確信を得てこの異常事態が収まるのを待ちます。


 やがて大雪も暴風も収まり視界も正常に戻った時、ヒューはある事に気付き慌てた様子で声を上げます。


「トワさんにミナカミさんの姿が消えている?」


「いやそれだけじゃないみたいだぜ」


「ロブさん、それはどういう・・・」


「貴賓席の方をよく見てみな」


 ロブにそう促されたヒューが貴賓席の方を見やると、何やらそこで騒ぎが起きていました。


「これは・・・地球人達が半数近く消えている?」


「みたいだなまあ原因はあの猛吹雪なんだろうが、それを発生させたと思われるお前さんの徒弟も消えているし、これからどうなる事やら」


「・・・本当にどうなるのでしょうね・・・」


 あまりの急展開に思考が整理出来ないヒューはその場に立ち尽くし呆然となってそう言い放ちつつも、心の片隅でトワとトーコの無事を強く祈ります。


 こうして運命の一騎討ちは誰も予想しない形で幕を降ろすのでした・・・

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