星を巡る力 八節
「どうやらオドを絞り・調整する技術は完全にマスターしたようですね」
「そうなんですか?私はただ魚を捕まえただけなのに?」
「川面に立ったまま姿勢を乱さず、そして魚を握り潰す事なくそれでいてきっちりと保持出来ている事が何よりの証拠ですよ」
ヒューはそう述べてトワの修行が進んだ事。更に彼女のオドの調整・操作技術が向上した事を内心喜びつつも新たな課題を示します。
「さて絞る技術を習得できたのは確認出来たので、今度はその真逆の技術を習得してもらいましょう」
「真逆の技術・・・という事は身に纏うオドを増大させる技術だったり?」
「当たらずも遠からずといった所ですかね。まあ実演してみせるので見ていて下さい」
ヒューはそう言うとオドを纏ったまま川辺に転がっている巨岩を叩きます。
すると当然の事ながら巨岩はバラバラに砕けます。
(相変わらずオドを纏った機士の持つ破壊力は恐ろしい)
砕けた巨岩だったモノを見やりながら、トワは改めて機士の力に戦慄しているとヒューは新たな巨岩の前に立ち・・・
「コオォォォォ」
これまた独特の呼吸を行い腹部と今度は胸部にも力を込めつつ、オドを体内で練り上げてソレを一気に体外に放出し纏いました。
「何これ凄い!」
ヒューの纏った大量の、かつとても力強いオドをしっかりと見つつトワは驚嘆の声を上げます。
「ではやってみますか」
そう軽く述べると目の前の巨岩を先程と同じくらいの力で叩きます。すると-
パァン--
そんな乾いた音と共に巨岩は見事粉々になり、粒子状態にまで破壊・分解されてしまいました。
「・・・」
トワはそのあまりの破壊力に驚き言葉を失います。
「これが体内でオドを練り上げ増大させる技術で、基本的な身体能力はもちろん攻撃力と耐久性が飛躍的に向上します・・・それではやってみせて下さい」
「りょ了解っす!」
あまりの事に呆けていたトワは慌ててそう答えます。
(確かお腹と、胸の辺りにも力を入れていたっけ)
そう心中で先程ヒューが実演してみせた事を思い出し、体内の特に胸の辺りでオドを練り上げるイメージを想像します。そして・・・
「コオォォォォ」
やはりヒューがやってみせた独特の呼吸を真似てみます。すると纏っている灰色のオドが一気に増大し力強い輝きを放ちます。
(おおっ!これは凄い!体の奥から力が漲って来るみたいだ!!)
そう何やら体内から力が湧き出るのを感じ、早速近くにあった川辺の巨岩を叩きます・・・
パァン--
ヒューがやった時と同じく彼女が叩いた巨岩も粉々に砕け散りました。
「やった!何だコツさえ掴んでしまえば一番簡単・・・にゃ!?」
あっさりと巨岩を砕いた事に喜び調子に乗っていると・・・トワの視界がぐらつき、膝の力が抜けて思わず倒れそうになります。
「奇しくもオニゴトの時と同じ状況ですねトワさん」
「・・・もしかしてこの技術のデメリットって・・・」
「トワさんの想像通り。オドの大量消費による体機能の低下です」
「やっぱりそうですか・・・ならなんでヒューさんはピンピンしてるんですか?見た所全然疲れている感じもないし」
「単純に慣れの問題です。私に比べトワさんはまだまだ練り上げ増大させる過程で、オドを無駄に消費しているからそんなにフラフラになるのですよ」
「うぐっ。とは言えたった一回でこんなにヘロヘロになるとは少し、いやかなり情けないなぁ~私」
「初めは皆、こうなりますからさほど落ち込む必要は無いですよ」
気を落とすトワに対しそう言って慰めます。が
「しかしこのままでは実戦では使い物にならないですし、消費を抑え意識を保ち増大したオドをなるだけ長く、最低でも一分程纏えるぐらいの実力は身に付けて欲しい所です」
「それじゃあ先程の練り上げ増大したオドを纏う。という過程をひたすら繰り返す修行をすれば習得出来るという事でしょうか?」
「そう簡単なモノではありません・・・この技術は、いやその他のオドを扱う技術において何より重要なのはイメージなのですから」
そう今までになくヒューは真剣に語り掛けます。
「イメージ・・・ですか?」
「そう自身がオドを纏い、それを絞り調整し、練り上げ増大させる事を明確にイメージする事によりオドを扱う技術は格段に精度を増します」
「イメージする・・・う~ん単純なようでなかなか難しい」